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あの場所でもう一度君と  作者: ましゅ
3章 家族
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第3章24話 新たな火種

本日2話目。第3章、これにて終了。

 こっちに戻ってきて数日が経過した。残り一週間ほどで文化祭当日ということもあって、皆やる気に満ちていた。

 恒例となった姫乃との登校。周囲の視線にも漸く慣れ始めた。

 少し肌寒い曇り空の下、姫乃と手を繋いで話しながら歩いていると、後ろから大悟と亜美がやって来た。いつもと変わらず朝から騒がしい。


「ラブラブなお2人さんおはよー」

「2人とも、おはよう」

「おはよ。相変わらず見せつけてくれやがって……」

「悔しいなら大悟も彼女作れば? 文化祭デート、できるんじゃない?」

「うるせーよ。俺だってなぁ……」

「え?」

「いや、何でもない。忘れてくれ」


 声が小さくなって最後の方が上手く聞き取れなかった。大悟はそれ以上触れて欲しくなさそうだったので、姫乃との会話を再開する。


「環くん、ちゃんと作ってきてくれた?」

「姫との約束だしね。ちゃんと弁当2人分作ってきたよ」

「やったー!」


 昨日突然姫乃から電話が来て、『お弁当を作って欲しい』と頼まれたんだ。姫乃のリクエスト通り、ハンバーグと卵焼きを多めに入れてある。

 少し後ろから、大悟と亜美の呆れたような声が聞こえてきた。


「私たち、何を見せられてるんだろうねぇ」

「……ホントにな」


 2人の視線が何となく気持ち悪かったので「うるさい」と返して睨みつけておいた。

 そのまま4人で学校に到着して、文化祭のことについて話しながら教室に入ると、そこには少し落ち着かない様子の桔梗がいた。


「桔梗、おはよう」

「あ、おはようございます」

「……? どうしたの?」

「さっき職員室に立ち寄った時に聞こえたんですけど、今日転校生が来るらしいです」

「転校生? 文化祭前(この忙しい時期)に?」

「はい。だから驚いて……」


 文化祭前に転校してくるなんて、物好きもいるものだ。この時はまだ、そんな風に思っていた。


△▲△▲△▲△▲△▲


 転校生が来る、それを知ったクラスの雰囲気は何というか……凄まじかった。何故これだけ騒げるのか理解に苦しむところだ。


「男子か女子かどっちだろうな」

「可愛い女子だといいけどなぁ」

「男子欲望に忠実すぎ……。柏木くんはどう思う?」


 斜め前の席の女子に突然話を振られて驚いた。別に僕は転校生にそんな期待があるわけでもなかったし、正直に言うなら「どっちでもいい」。そう言おうとしたけれど、だるそうに歩いてきた柿原が嫌味ったらしくこう言ってきた。


「やめてやれ、リア充に聞いても無駄だぞ」

「それもそうか、ごめんねっ」

「ああ、うん」


 柿原を睨むと、面白そうに笑っていた。何が面白いんだか。その後はやって来た伊織たちと挨拶を交わし、焼きそばの作り方のアドバイスをしたりした。

 暫くしてホームルーム開始の鐘が鳴った。少し遅れて担任が入ってきて、桔梗の号令で挨拶をする。


「多分お前らなら知ってると思うが……転校生が来た。入ってくれ」


 多くの生徒が期待を胸に入口を見る。

 が、入ってきた人物を見て、「「「「「「はぁ!?」」」」」」という僕を含む6つの声が重なった。何しろ、入ってきたのは僕らが知っている人物だったのだから。

 教室に入ってきた()()は僕を見て微笑んだ。そして黒板に名前を書いて、言った。


「初めまして、橘陽向です。よろしくお願いします」


 曇っていた空からは太陽が覗き始めていた。


△▲△▲△▲△▲△▲


 言いたいことは色々あったけれど、今はまだ陽向の自己紹介の時間だ。僕たちは何も言うことができないまま陽向の言葉を待った。


「えっと、ここには父の仕事の関係で来ました。聞いたところによると丁度文化祭の時期だとか。微力ですが皆さんのお手伝いをできたらいいな、と思っています」


 完璧な自己紹介を終えた陽向は、僕の方を向いた。

 その瞬間、背筋に悪寒が走った。待て陽向、何を言う気だ。


「環くん、久しぶり!」

「あ、うん……」


 陽向がそう言ったことで、教室中の視線が僕に集まった。「知り合いか?」とか「何でまたアイツなんだよ」とか聞こえたけれど、そんなの僕が聞きたい。

 そして陽向は、最大の爆弾を落としていった。


「最初に言っておくね。環くん、好きです」

「あぁ、そう。……………………はぁ!?」

「だから、結城姫乃さん、くれぐれも油断はしないで下さいね」


 陽向はにっこり微笑んで1番後ろの席に座った。すれ違いざまに、「1回私を捨てた罰だよ〜」と笑顔で囁いて。

 その笑みは、悪魔のそれだった。


△▲△▲△▲△▲△▲


 先生が「じゃあホームルーム終わり、1時間目の準備しとけよ」と言って教室を出た途端、教室内は怒号の渦に包まれた。


「おいコラ柏木ィ! どういうことだゴラァ!」

「お前、結城さんという彼女がありながら……浮気か、浮気なのか!?」

「つーか1から説明しろや!」

「いや、僕だって何が起きてるか──」

「言い訳無用だ!」

「じゃあどうしろと……」


 僕が対応に追われている間、姫乃や大悟たちは放心状態。当の陽向に至っては笑顔でこっちを見守っているだけだった。


「ごめ、ちょ、ちょっとだけ待って」

「逃げんな!」

「いや逃げないって! 陽向、ちょっと来て」

「はーい」

「馴れ馴れしく名前で呼んでんじゃねぇ!」


 男子(主に柿原)の追及を何とか振り切って陽向と廊下に出る。


「陽向、どういうこと?」

「あれ、お兄ちゃんから連絡行ってない?」

「来てないし何も知らされてないよ……」

「そっか、じゃあサプライズだね」

「確かに驚いたけどさぁ」


 僕のその反応が面白かったのか、声を上げて笑ってから教室に戻ろうとした陽向を「待って」と呼び止めて、確認をする。僕の今後に関わる、1番重要なことを。


「僕が好きっていうのは、さすがに冗談……だよね?」


 その問いに、陽向は可笑しそうに笑って答えた。僕が見た中で、何を考えているのか1番理解できない笑みだった。


「さぁ、どうでしょう?」

「え、えぇ……」


 結局何も有益な情報をえられないま教室内に戻る。

 自分の席に戻る途中姫乃の後ろを通ると、どこか尖った声で「後で説明してね」と釘を刺された。

 そのタイミングで1時間目の教科担任が入って来てくれたからそれ以上の追及は免れた。だけど授業中も皆の視線が痛かった。しかも、授業が終わってからも姫乃は口を聞いてくれなかった。

 昼休憩、一応説明はしたけれど……あの顔ではぜったい納得していないだろう。どうするのが正解なんだろうと思って大悟と伊織に助けを求めに行ったけれど、「こればかりは俺らに聞かれてもなぁ……」と言われてしまった。


 というか文化祭、無事に終わるといいけどなぁ…………。

陽向が来るまでに、橘家ではこんなやり取りが。


「お父さん」

「陽向か、どうした?」

「ちょっとお願いがあるんだけど」

「お願い?」

「うん。その……環くんの通ってる高校に転校したいなぁって」

「ふむ、家はどうする?」

「お兄ちゃんに聞いたら、『家に住めばいいよ』って」

「そうか。よし、じゃあ手続きを進めよう」

「やった! ありがとう」

「どういたしまして」


陽太さん、仲直りしてから娘に激甘になっています。


そう言えばホワイトデー。

バレンタインネタもやってないし本編で2月にもなってないし……

ホワイトデーネタは割愛で。

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