第3章23話 文化祭準備という名の何か
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午前中の授業が終わり、昼休憩の時間になった。
早速僕の周りに人が集まってくる。まぁ、大悟たちなんだけど。周辺の生徒から机と椅子を借りて、僕を中心として9人(僕・姫乃・大悟・亜美・伊織・瑞希・桔梗・龍馬・紗夜)グループができあがった。
「じゃあ環くん、説明してもらいましょうかね」
「ん、わかった」
この場は大悟が取り仕切るようだ。
僕は大悟に訊かれるまま、起きた全てを話した。父さんとの和解、橘家での話し合い、その全てを話すのにそう時間はかからなかった。
「──これで全部。黙っててごめん」
僕はそう言って弁当を食べ始める。だけど皆は動かなくなってしまった。
「あの、皆?」
「…………環くん、マジで?」
龍馬が信じられない、という顔で訊いてきた。「マジマジ」と答えてご飯を口に運ぶ。
「すごいね…………」
「まぁね。ていうか皆弁当食べないの?」
そう尋ねると、今までの神妙な顔とは打って変わって、僕以外の全員が不気味な笑みを浮かべた。何か嫌な予感がする。「食べるけどその前に」という大悟の合図で全員が一斉に弁当箱を開ける。そこには──
「…………焼きそば?」
僕以外の全員が、焼きそばを持ってきていた。
「え? ちょっと待って? …………何これ」
「それについては私から説明します」
そう言って桔梗が説明してくれた。
曰く、文化祭の打ち合わせで決まった調理担当はここにいる9人。ところが調理指導担当の僕が急に休んでしまったため、各々がレシピ等を見て焼きそばを作り、僕が学校に来た時に食べてもらうことにした、とのこと。大悟が執拗にいつ来るのかを確認してきたのにはそういう意図があったのか。
「てことで環、食べようか」
「いや、でも僕弁当持って──」
「食べようか」
皆の笑みが怖い。助けを求めて姫乃の顔を見る。しかし残念ながら姫乃も笑顔で弁当箱を差し出してきた。
「いや、あの…………姫?」
「環くん、食べてくれる?」
上目遣いになってそう言ってくる姫乃。可愛い、可愛いよ。だけど……
「亜美! 何か仕込んだだろ!」
「失敬な! 彼女の愛情を受け止めるのが彼氏の役割でしょうが!」
「………………っ! わかったよ」
「よーし、最後の一押し行ってみよー」
「……は?」
「環くん、皆の作ったやつも食べてあげて?」
「やっぱ仕込んでんじゃねーか!」
というわけで、昼休憩が終わった頃には僕のお腹ははち切れそうになっていた。まぁ、美味しかったよ。それでも無理矢理食べさせるのはどうかと思うんだけどね。このクオリティなら人に提供しても大丈夫だろう、そう言っておいた。
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午後の授業、これは睡魔との戦いだ。満腹であるなら尚更。
休んでいた分を取り戻さなければいけないのに、皆のせいですごい眠い。というか4時間目は寝てしまった。
5時間目を何とか耐え切り、文化祭の準備に移行する。
「よし、行こうか」
大悟が僕の肩を叩いてそう言った。でもわけがわからない。
「いや、どこに?」
「んー? お前ん家」
「…………は? いやいや文化祭の準備──」
「えーっと……」
申し訳なさそうに桔梗が話し始めた。
「私たち調理班は、ローテーションで誰かの家で焼きそばを作ることが役割になっています」
「…………はぁ」
「それで今日は君の家に行こうと、藤崎君が」
「大悟が?」
「これくらい、別にいいだろ?」
大悟が笑って言う。
後で詳しく話を聞くことにしよう、そう思って皆の方を向いて答える。
「いいけど、昨日帰ってきたばっかりだから散らかって──」
「あれ? でも綺麗だったよね」
「ちょ……姫!?」
せっかく大悟と亜美が黙ってくれていたのにこの一言で無駄になってしまった。2人は我関せずという感じで目を逸らしていた。
誰かに追及される前に話を変えないといけない。
「え? 結城さん昨日一緒にいたんで──」
「よし、じゃあ行こうか!」
「え、あ……はい」
ちょっと強引だった気もするけど何とか話題は逸らせた。
呆気に取られているのは桔梗だけ、あとは必死に笑いを堪えているようだったけれど、気のせいだろう。
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そんなこんなで僕の部屋。桔梗と龍馬、紗夜はここに来るのは初めてだから、落ち着かない様子でキョロキョロしている。自分の家のように振舞っている大悟と亜美には少し見習って欲しい。
「でも皆上手く作れてたじゃん。これ以上何をするのさ」
冷蔵庫から焼きそばの麺や具材を取り出しながらそう尋ねると、大悟はさも当然のようにこう言い放った。
「いや、あとはお前の焼きそば食うだけだから」
「……え?」
「俺らはいいんだけど委員長たちお前のやつ食ってねーじゃん? だからお前の作り方見るついでっつーか」
「大悟、要点を」
「お前の焼きそば食わせてくださいっ!」
「………………わかったよ」
その答えが意外だったようで、大悟が「いいのか?」と驚いたように言った。
「家庭の事情とはいえ迷惑かけたのは確かだから、それくらいならするよ」
「環、マジ神!」
「でも今日だけ」
「あ、はい」
そして約20分後、部屋の中にソースのいい香りが立ち込めた。誰かに見られながら料理をするのは初めてで少し緊張したけれど、失敗しなくてよかった。
大きな皿にできあがった焼きそばを盛りつけてテーブルの上に置く。食器棚から取り分け用の皿を出して皆に渡すと、皿を渡された人から勢いよく食べ始めた。ちなみに椅子の数が足りなかったから皆立食だ。
「美味しい……」
「隠し味にカレー粉か……その発想はなかったなぁ」
「やばっ、箸止まらないんだけど」
どうやら桔梗たちの評判も上々のようで安心した。
焼きそばに夢中になっている皆を眺めていると、そっと袖を引っ張られた。皆から離れてキッチンに行くと、姫乃が小声で「良かったね」と言ってきた。
「何が?」
「環くん、皆に置いてかれるんじゃないかーって不安になってたでしょ」
「……バレてたのか」
「彼女ですから」
胸を張ってそう言い切った姫乃が可愛くて思わず笑ってしまった。姫乃が「何か変なこと考えてるでしょ」と頬を膨らませたので「んー? 姫は可愛いなぁって」と正直に言う。
姫乃は顔を真っ赤にして俯いてしまった。
リビングから「タマッキー食べないのー?」と亜美が呼んできたので姫乃を促してキッチンを出る。
いつも通りの皆でよかった。
皆がいてくれて、本当に良かった。
こんな青春を送りたかった。




