第3章21話 お泊まり?
本日2話目!
やっぱシリアスよりイチャイチャの方が書きやすい!
姫乃と一緒にカレーを食べ終わると、姫乃は一旦家に戻った。30分ほどして戻ってきた姫乃はパジャマ姿だったので、お風呂に入っていたんだろう。僕はその間、大悟たちに戻って来たとメッセージを送っていた。姫乃は戻ってきてからずっと僕の隣に座っていた。
いつまでもスマホを触っていると姫乃の機嫌が悪くなってしまいそうだったので、返信が届く前にアプリを閉じる。
姫乃のを見ると、今にも眠ってしまいそうなほどにウトウトしていた。眠れなかった分を取り戻すかのように。
「姫、眠いの?」
そう訊くと、姫乃は慌てて首を横に降った。
「……眠く…………ないよぉ」
「嘘だ」
「嘘じゃ…ない…………」
そう答える間にも姫乃は睡魔に耐えられなくなったようで、僕の肩にぽてんっと寄りかかってきた。そんな姫乃の髪を優しく撫でると、顎を撫でられた猫のように「んー……」と甘えた声を出した。
うん、可愛い。……じゃなくて、このままだと本当に寝てしまいそうだ。
「ちょ、姫…………寝ないでよ」
「私は寝ま……せん!」
完全に寝ぼけていた。
「寝るなら自分の部屋に帰ってよー」
「帰りたくないー。ここに泊まるー!」
「はぁ!?」
まずい。何をしてでもそれだけは阻止しなければならない。
そうでもしないと理性を保っていられる自信がない。僕のためにも帰ってもらわないと。
「姫……」
「んー?」
「ちょっとごめんねー」
ソファから立ち上がると、支えを失った姫乃は「わっ」と小さな声を出してソファの上に倒れた。その動きが楽しかったのか、くすくすと笑っている。
駄目だ、彼女が可愛すぎる。
そんな思考を頭から排除して、姫乃の膝と背中に腕を回す。そのまま持ち上げて「ほら、帰るよ」と言うと、姫乃は少しだけ目が覚めたようだ。そして自分の現状──つまりはお姫様抱っこされていることを理解して、「にゃ!?」と叫んだ。やっぱり猫じゃないか。
「じ、自分で歩けるから!」
「そんなこと言ってフラフラだったよ。これくらい素直に甘えといた方がいいんじゃない?」
「むー……」
それでも納得していないのか、玄関で靴を履くまで姫乃は目を合わせてくれなかった。
「じゃあ、また明日」
玄関で姫乃が靴を履いたのを見届けてからそう言うと、姫乃は頬を膨らましてこう言った。
「勝手にお姫様抱っこした罰。上まで送って」
「お姫様の仰せのままに」
「ちゃんとお姫様抱っこで運んでねー」
「了解」
何だかんだ、お姫様抱っこ自体には満足しているようだ。少し安心して姫乃に玄関の扉を開けてもらって──終わった、と思った。
何しろ、そこには……
「環、お前……」
「あらあらあら〜。お熱いことで」
「……大悟、勘違いすんな。亜美、おばさんくさい」
何故か大悟と亜美がそこに立っていた。
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玄関の前に立っている2人を見て完全に目が覚めたらしい姫乃は僕の腕の中で暴れまくった。「落としちゃうから落ち着いて」と言うと素直に従ったけれど。
仕方なく2人を招き入れ(無言で扉を閉めようとしたら大悟の必死の抵抗にあった)、仕方なくお茶を出す(亜美が図々しく「喉乾いたー」と叫んだから)。
「………………で?」
2人がお茶を飲んで一息ついたのを見計らってそう訊くと、大悟が忘れてた、というような顔をしてから言った。亜美もそれに追随する。
「とりあえずおかえり」
「おかえりー」
「うん、ただいま。で? それだけ?」
「友達がダッシュで来たんだから少しは喜べよ」
「来てなんて言ってないと思うけど」
「とか言って、本当は嬉しいくせに」
「亜美うるさい」
「私だけ扱い酷くない!?」
「言動を振り返ってみてはいかがでしょう」
「お熱いことで」という邪な推測での言葉に恨みを込めてそう言ったつもりだったけれど、亜美には効果がなかったようだ。「えーと、何かやった?」ととぼけていた。
ため息をついてからもう一度2人の顔を見て言う。
「別に明日会えるだろ」
「ま、そうなんだけどな。亜美がどーしても……痛!」
「大悟クーン、変なこと言わない」
うん、相変わらずの距離感で安心した。
「まぁ、来てくれてありがと。てことで夜も遅いし帰って下さい」
「タマッキー冷たーい」
「色々あって疲れてるんだよ……寝させてくれ」
これは本心だ。色々あって、というのは少し盛ったけれど、主に安堵のせいで疲れがどっと押し寄せている。これでは姫乃のことを笑えない。
「だとさ。亜美、帰ってやろーぜ」
「しょーがないなー。ま、いい画は見れたし良しとするか」
「亜美、その記憶を今すぐに抹消してくれ」
「やだー」
「姫乃のためだと思って……」
「その当人が君のお隣でぐっすり眠っておりますが?」
「………………え?」
そんなまさかと思って姫乃を見ると、正座したまま器用に眠っていた。あんな姿を見られたのに妙に静かだと思っていたら、そういうことか。
「それじゃ、帰るわ」
「あぁ、ありがと」
「タマッキー、変なことしちゃダメだよ」
「すると思うか?」
そう返すと、亜美は「思わなーい」と言って笑った。男として見られていないような気がして少しだけ傷ついたのは、自分の胸の中に閉じ込めておこう。
「じゃあまた明日学校で」
「おう」
「ちゃんと来てよー」
漸く2人は帰っていった。というか、本当に何をしに来たんだろう。
まぁ、今はそれよりも…………
「姫、起きて」
「………………」
「姫ー」
「……………………」
「ひーめーのー」
「………………………………」
何度名前を呼んでも可愛い寝息が聞こえてくるだけ。全く起きる気配がない。もしかしたら僕が風呂に入っている間に起きるかもしれないという期待を抱きつつ、一旦風呂に入る。しかし残念なことに姫乃が起きることはなかった。
部屋の鍵は姫乃が持っているはずだけど、起きない以上服を探るわけにもいかない。仕方なく、姫乃を自室のベッドまで運び寝かせる。そして僕はリビングのソファに寝転んだ。
こんな状況で眠れるわけがないと思っていたんだけど、自分が思っている以上に疲れていたようで、いつの間にか眠ってしまっていた。
起きた時には午前6時を過ぎていた。
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僕が寝ていた間に帰っていてくれ、という願いを込めて寝室の扉を開ける。寝室に制服が置いてある以上、入らないという選択肢はなかった。
「姫、起きてたらごめん。入るよ」
念の為そう声をかけてから扉を開ける。
果たして、姫乃はベッドの上で熟睡していた。
急いで壁から制服を取って部屋を出ようとした時、姫乃が「んー……」と寝返りを打った音が聞こえた。おそるおそる姫乃を見ると、姫乃はゆっくりと起き上がり寝ぼけた目で僕を見て「おはよぉ」と言って微笑んだ。終わった。
だんだんと意識がハッキリしてきたんだろう、姫乃は自分の姿と僕の姿を見て顔を赤くした。すごい暑そう。まぁ、僕の心は姫乃とは対照的なんだけど。
「姫、おはよう」
「え、あ……何で」
「何度名前を呼んでも起きなかったのでベッドに寝かせた」
「う、うぅ…………」
「誓って何もしていません」
「ホント?」
「本当に何もしていません」
そう答えると、姫乃は赤い顔のまま立ち上がって部屋を出ていった。何をしに行くのかと思ったけれど、姫乃が「着替えてくるー!」と答えを残していってくれた。玄関の扉が閉まる間際、「朝ご飯食べさせて!」という声も聞こえたので、今日の朝食は2人分作ることになりそうだ。
というか…………よく耐えた、僕の理性。眠たかっただけかもしれないけれど、よくやった。
そんなことを思いつつ、制服に着替えた。……なるべくベッドは見ないようにして。
ちなみに環のスマホには
『タマッキーのヘタレ』というメッセージが届いていたようです。




