第3章18話 あの場所へ
昨日は更新できなくてすみませんでした。
ちょっとだるくて寝込んじゃってました。
翌日、目が覚めたのは午前5時半だった。眠れなかったわけではない、それなのに、目覚まし時計が鳴るより先に目を覚ましてしまった。
何気なく、自分の部屋を見渡してみた。今住んでいる所に家具の多くを持っていったので、ベッドとクローゼットと机が置いてあるだけの、至って殺風景な部屋。
「…………今日で最後か」
気がつくとそう呟いていた。
父さんが引っ越すというのなら、僕がこの部屋で過ごせるのは今日が最後ということになる。そう思うと、寂しさが込み上げてきた。
「掃除、しておくか」
寝ているであろうあお姉を起こさないように、静かに扉を開けると、隣からはあお姉が扉を開けて出てきた。まさかあお姉がこの時間に起きているとは。しかもその手にはバケツと雑巾が握られていた。考えていることは僕と同じか。
「あ、あお姉」
「環、おはよ。早いねー」
「…………あお姉こそ」
「いやー……今日が最後になるかもって思ったらね」
「あお姉も?」
「まぁ、一応お世話になった部屋だしね」
「……だよね」
そんなことを話しながら掃除道具を引っ張り出して部屋に戻った──のだが、さすが賢治さんと言うべきか、部屋の中には埃など欠片ほども存在していなかった。この掃除スキルを教わって帰りたい。
することがなくぼーっとしていると、扉がノックされた。机の上の目覚まし時計に目をやると、いつの間にか午前6時45分になっていた。
「おはようございます、坊ちゃん。朝食のご用意ができました」
「あ、はい。今行きます」
部屋を出ると、味噌汁のいい香りが鼻腔をくすぐった。
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朝食を終えると、父さんが新幹線の切符を渡してくれた。昨日の夜のうちに賢治さんと修さんが買ってきてくれていたらしい。
修さんの車で来たのだから帰りもそうすればいい、と思うかもしれない。だけど残念なことに修さんはもう少しここに残るらしい。今朝、それを知ったあお姉も家に残ると言い張った。さっきの会話は何だったんだ……。
「はい、環」
「ありがと。この時間だと…………昼前には家を出ないとダメかな」
「そうだね。昼ご飯はどうする?」
「んー……駅で何とかするよ」
「わかった。後でお弁当代を渡すよ」
「いいの?」
「もちろんだ。そうだな……姫乃さんにお土産でも買っていくといいんじゃないか?」
父さんのそのセリフに固まってしまった。どう考えてもお土産を渡せる雰囲気ではないと思うんだけど。あお姉もそれに気づいたのか、父さんを説得してくれた。
「お父さん……そんな観光で来たわけじゃないんだから」
「そうか? あるに越したことはないと思うけど」
「いやぁ……多分お土産持って『ただいま〜』って戻れる感じじゃないからさ」
「うん、僕もそう思う」
「そうか…………」
露骨に落ち込む父さんを見て思わず笑ってしまった。不満げにこちらを見てくる父さんは、何と言うか……幼く見えてしまう。今までとのギャップに戸惑って何も言えないでいると、あお姉が助け舟を出してくれた。
「環、朝ご飯の片付けはやっておくからアンタは戻る準備をしときなさい」
「あ、うん。わかった」
着の身着のままでこっちに来たから準備することもないんだけど、心の整理はしたかったから自分の部屋に戻ることにした。
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そして午前10時、家を出る時間になった。
助手席に乗ってシートベルトを締める。鞄にはスマホと財布(父さんから5000円を貰った。多すぎだと言ったけれど『謝罪の気持ちだよ』と言いくるめられてしまった)が入っている。
外からあお姉が「すぐ戻るからー」と叫んでいるのが聞こえた。そんな大きな声を出さなくても聞こえるのに。隣では修さんが苦笑していた。この調子だと次から次へとあお姉が迷惑をかけそうだ。
父さんが運転席に乗って「行こうか」と声をかけてきた。
「うん、お願い。じゃあ……行ってきます」
行ってきます、なんて言葉を自分の家族に向かって言うのはいつぶりだろうか。何となく不思議な気分になった。
暫くの間外の景色を眺めてぼーっとしていたけれど、父さんの「環……」という声で我に返った。
「何?」
「……あぁ、その、学校は楽しいか?」
もう限界だった。
笑いが止まらない。
「父さん、無理しすぎでしょ」
「…………そうか?」
「んー……何て言うか、ぎこちない?」
「それは仕方ないだろう。環と面と向かって話すのなんて1年ぶりくらいじゃないか」
「そんなにだっけ?」
最後にきちんと話したのがいつだったかなんて覚えていなかったので、父さんの記憶力に驚いた。
僕の驚きに気付いた様子もなく、父さんは言葉の節々に嬉しさを滲ませて言った。
「僕はね、嬉しいんだよ」
「…………?」
「もう一度やり直せる機会を得たこともそうだけど、それ以上に息子の成長をこの目で確かめることができた。親としてこれ以上嬉しいことはないよ」
「父さん……」
「ありがとう、環」
「……え?」
父さんの感謝の意味がわからなかった。
父さんはそんな僕を見て柔らかく微笑んで言った。
「環の気持ちをしっかりと伝えてくれて、奏のメッセージを見せてくれて……本当にありがとう」
「……ん、母さんのメッセージはあお姉がいなかったら見つけられなかったし。そのお礼はあお姉に言ってあげて」
「そうか。そうするよ」
「うん」
話すこともなくなったので、窓の外に視線を戻す。9月も終わりに近づいていることもあって、秋らしく、清々しいほどの青空だった。
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15分後、駅に到着した。
車を降り、駅の改札へ向かう。少し後ろから父さんもついてきてくれた。
「行き方は大丈夫か?」
「あー……家出てった時と同じだし多分大丈夫」
「わかった。何かあったら連絡をしてくれ」
「うん」
「それから、その…………」
父さんは言葉を濁した。僕を少しでも長く引き留めようとしているようだった。そんな父さんがやっぱりおかしくて、もう少し居てもいいのかも、なんて名残惜しさが膨らんでいくのがわかった。
でも、行かなきゃいけない。姫乃に会わないといけない。
だから──
「──父さん」
顔を上げた父さんと目が合った。しっかりと目を見て、言う。
「待ってるね」
「…………あぁ。行ってらっしゃい」
漸く父さんの笑顔を見ることができた。それだけで、ここに来た意味を見つけられた気がした。それだけで、満足だった。
背中を向けて、駅の改札へ歩き出す。
もう一度、柏木環の生活を始めるために。
もうすぐだ……
もうすぐでイチャイチャを書けるっ!
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ありがとうございます!




