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あの場所でもう一度君と  作者: ましゅ
3章 家族
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第3章12話 囚われの陽向①

予告通りの陽向回。

2、3話くらいお付き合い下さい。

 お兄ちゃんを見送って、家の中に入る。

 とにかく、寝て全てを忘れたかった。この現状が夢であって欲しかった。だけどそんな甘い理想はいつだってすぐに打ち砕かれる。


「陽向、話をしよう」


 午前0時を過ぎているのに、私を寝させる気のないお父さん。でもここで逆らったりしたら元も子もない。何度も欠伸を噛み殺してついて行くと、やって来たのはお父さんの部屋だった。

 部屋に入っても、話し始める気配はない。まるで何かを迷っているかのようだった。


「…………お父さん?」


 思わずそう尋ねてしまうほどに、部屋の中は静寂に包まれていた。お父さんは、静かに呟いた。


「どうしてお前たち()()は俺を困らせるんだ」

「…………!?」

「ん、いや、何でもない」


 驚いた。お父さんが自分を「俺」と呼んだこと、それもあるけれど、何よりもお兄ちゃんと私を兄妹だと呼んだことに。

 焦ったように咳をして誤魔化していたけれど、兄妹と言ったお父さんの顔はどこか苦しそうで、直視できなかった。目を逸らすと、机の上にあるものを見つけた。

 あれは────


「陽向」


 突然名前を呼ばれたことで、見つけたものをよく確認することはできなかった。

 私を呼んだお父さんは、先程までの苦しそうな表情はどこへ行ったのか、今は困ったように笑っていた。


「こうなった以上、お前に自由に行動させるわけにはいかない。暫くは自室でおとなしくしていてくれ」


 お父さんがそう告げたことは、少し想定外だった。覚悟を持って行動したとはいえ、もう少しきついお仕置があると思っていたから。そんな私に、お父さんは言った。


「柏木さんから連絡があったんだ。お前への処遇を軽くするように、と」


 環くんだ。何の根拠もないけれど、そう思ってしまった。だったら、環くんの優しさを無駄にする意味がない。


「…………わかった」


 そう答えると、お父さんは少しだけ眉を寄せた。


「やけに素直だね」

「そう?」


 環くんを信じてるから、何てお父さんの前では言えない。だから適当に誤魔化してお父さんに聞いた。


「もう部屋に戻ってもいい? すごい眠いから」

「あ、あぁ…………」


 肩透かしを食らったお父さんの顔が間抜けに思えて、笑いそうになるのを必死に堪える。何となく、気分は軽かった。


△▲△▲△▲△▲△▲


 翌朝、目を覚ますと同時にドアを叩く音が聞こえた。まだ眠い目をこすってドアを開けると、お父さんが立っていた。


「……おはよう」

「あぁ、おはよう。食欲はあるか?」

「…………うん」

「それなら居間へ来い」

「……ん」


 そんな短いやり取りの後、お父さんはすぐに戻って行ってしまった。扉くらい、開けたなら閉めていってほしかった。

 手早く着替えて、顔を洗ってから居間に行くと、机の上に朝ご飯が用意されていた。いつもの光景なのに、少しだけ違和感があった。

 違和感の正体にはすぐにわかった。お父さんがいるんだ。

 それの何がおかしいのか? だってお父さんは仕事が忙しくてなかなか食事の時間に会うことがない。それは朝食も然り。だから、お父さんがこっちを向いた時、体が強ばってしまった。


「陽向、食べないのか?」

「た、食べるよ」

「そうか。早くしないと味噌汁が冷めるぞ」

「あ、うん」


 当然そんな会話もしたことがないから、どこかぎこちなくなってしまった。でもそれは私だけ。どうしてお父さんは平気なのか。


「いただきます」


 味噌汁を口にすると、程よい塩加減が口の中に拡がった。昨日は色々と張りつめていたから、こんなにゆっくり食事をすることなんてできなかった。落ち着いている場合ではないのに、落ち着いてしまっている自分がいる。

 ふと、お父さんがこっちを見ていることに気づいた。


「…………? そんな見られると恥ずかしいんだけど」

「あぁ、すまん。その……美味いか?」

「? うん。美味しいよ」


 何を当たり前のことを聞くんだろう。インスタントの味噌汁なんて誰が作っても一緒だ。

 でも、インスタントの味噌汁ってこんな味だったっけ?

 そう思ってお父さんの顔を見ると、お父さんは少しだけ嬉しそうな顔をして言った。


「そうか、よかった。作った甲斐があった」

「え? 何で…………」


 お父さんが味噌汁を手作りする意味がわからなかった。今まではずっとインスタントの味噌汁だったから、てっきり今日もそれだとばかり思っていた。


「昨日、色々考えたんだ。お前が反抗するのは今まで家族らしいことをしてこなかったからじゃないかと。だから……な」

「あ…………そう」


 それきり、お父さんは黙って新聞を読み始めてしまった。もう言葉を発することはなかった。

 少なくとも、お父さんが料理を作るなんてことはそうそうなかった。お父さんも、何か変えようとしているんだろう。

 わかりあえるかもしれないなんて、そう思ってしまった。


△▲△▲△▲△▲△▲


 朝食を終えて食器を洗う。これは元々私の仕事だった。その間、お父さんはタブレット端末で何か調べていた。

 今のお父さんの雰囲気なら大丈夫、そう感じて尋ねた。


「お父さん、今日仕事は?」


 お父さんは顔を上げて私を見て答えた。


「…………ないな」

「ない?」

「あぁ、お前の監視も必要だろう」


 そしてまたすぐに視線をタブレット端末に戻した。お父さんの雰囲気にもしやと思っていたけれど、さすがに自由は与えてくれないか。

 お父さんに仕事がないのは想定外。昨日お父さんの部屋で見つけたアレをもう少し詳しく調べたかったのに、それができなくなってしまった。

 お父さんが外出するのを狙うしかない。と、昨日の車の中でのお父さんの電話を思い出した。確かお父さん、今日は修さんに車を返すはずじゃ?


「あぁ、そうだ。今日は──」


 ほら来た。そんな風に期待に胸を膨らませていたから、続く言葉に膝から崩れ落ちそうになった。


「──柏木さんたちが()()()()()()()()からそのつもりでな」

「………………」

「陽向?」

「あ、何でもない。わかった」

「そうか」


 何でもない、なんて嘘に決まっている。

 要次郎さんが家に来る? そんなの監視が強化されるだけで、私は何もできくなる。どうにかして、外出してくれないかな。


 そんな私の願いは、思わぬ形で叶えられることになる。

そういえば桃の節句か……

(何かする気はありません、ご了承下さい)

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