特別編 環と姫乃と猫
猫の日なので特別編。
※本編とは何ら関係ありません、ご了承下さい。
これは、まだ僕と姫乃が付き合う前の話。
夏休み中盤の、出校日の下校中に起こったことだ。
「あ、猫」
「猫だ」
2人の声が重なって、それに対して、また笑い声が重なった。
炎天下の中、通学路にある住宅のブロック塀の陰で、黒猫と白猫が1匹ずつ涼んでいた。
「黒い子暑そうだね」
「どっちも暑そうに見えるけど……?」
そう返すと、姫乃は頬を膨らませて振り返った。
「そーゆー真面目な返しいらなーい」
「ご、ごめん……」
何故か怒られる形になって思わず謝ると、姫乃は意地の悪い笑みを浮かべた。
「アイス1個で許してあげる」
「姫乃、それが狙いだったよね」
「サーナンノコトデショー」
姫乃は嘘をつくのが下手だ。今だって言葉が棒読みになっている。本人はそれに気づいていないので、何というか、見ていて面白い。
「わかったわかった。じゃあ後で買うよ」
「やったー!」
朗らかに笑った姫乃は、背負っていた鞄の中から下敷きを引っ張り出した。何をするつもりなのか、黙って見ていると、そのまま2匹の猫に向かって風を送り始めた。
「クロ、シロ、涼しい?」
「……名前付けたの?」
「うん、可愛いでしょ」
「可愛いっていうか…………安直?」
「ひどっ! じゃあ環くんが名前つけてあげてよ」
突然の無茶ぶりに、渋い顔をしていたのだろう。姫乃が僕の顔を見て楽しそうに笑った。
そんな姫乃を横目に、2匹の猫をじっと見つめる。
片方は本当に真っ黒で、それでも目だけがキラキラと輝いていた。
もう片方は対照的に真っ白。陽光を反射していて、とても眩しい。
この2匹から受ける印象をそのまま名前にすると………………
「夜と朝?」
「環くん…………人のこと言えないよ?」
「うっ…………」
言葉に詰まる僕を見て姫乃がケラケラと笑う。何とか話題を変えようと必死に頭を回転させていると、後ろから声がかけられた。
「あれ、環?」
「あー姫ちゃん! 10分ぶりー」
その声に驚いたのか、2匹の猫は逃げてしまった。
「あ! クロ、シロ……」
「それで決定だったんだ……」
僕が名前を考えた意味はどこへ行ったんだ…………。そんなことを考えていると、事情を何も知らない大悟が「何かあった?」と尋ねてきた。小声なのは、姫乃に睨まれているのを気にしてだろうか。
「あーあ、大悟が大声出すからー」
「俺のせいかよ! てか何がだよ……」
綺麗にノリツッコミを完遂する大悟を無視して姫乃に言う。
「姫乃、暑いしそろそろ帰ろうよ」
「うん、そうだね」
「いや俺を無視すんな」
「じゃあね、大悟」
「あぁ、またなー……ってなるか!」
この超暑い中でも元気な大悟が少し鬱陶しく感じ始めたので、そそくさと退散することにする。大悟の相手は亜美に任せておけばいいだろう。
「ねぇ、タマッキー。何か失礼なこと考えてない?」
「別に? じゃあ僕たち急ぐから」
「あ、うん……」
2人の追及を華麗に躱して家に向かう。そんな僕の肩を掴んで、姫乃が笑みを浮かべて言った。
「環くん、アイス」
「あ、はい…………」
残念ながら忘れてはくれなかったようだ。
ため息をついて、仕方なくコンビニに足を向けた。
猫飼いたい(猫アレルギー)




