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あの場所でもう一度君と  作者: ましゅ
1章 出会いの1学期
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第1章6話 環と姫乃とレストラン①

 電車に揺られること1時間弱、早起きしたせいで少し眠くなってきた。

 規則正しい揺れのリズムが眠気を誘う。

 座席に座ってウトウトしていると、姫乃に肩を叩かれた。


「環くん、次の駅で降りるよ」

「ん、了解」


 眠れなかったことに少しがっかりしながら頭を振って眠気を飛ばす。

 やがて電車の動きががゆっくりになり、駅に到着したことを告げるアナウンスが流れた。場所を把握していなかったから、そのアナウンスでどこに着いたのか漸く理解する。どうやら僕たちの町で1番大きな駅だ。休日ということもあってか、非常に多くの人がいる。


「うわぁ……すごい混んでるなぁ」

「店、混んでないといいけどね」


 そう、早めに出発したとはいえ既に時刻は11時を回っている。

 ちょうど多くの飲食店が開店し始めた頃で、人気店ならもう混み始めていてもおかしくない。


「ヤバっ、環くん走れる?この近くだから急ごう」

「わかった」


 混雑している駅の中を走るのはどうかと思ったけれど、姫乃が走り出してしまったので慌てて追いかける。人にぶつからないように細心の注意を払いながら。

 駅の外に出ると、6月とは思えない暑さと日差しが僕たちを襲った。

駅前のデジタル温度計を見ると、30℃を示していた。

 まさかここまで暑くなるとは思わなかった。パーカーを着てきたのが裏目に出た。

 そんなことを考えていると姫乃を見失ってしまった。


「マジか……」


 辺りを見渡してもそれらしき姿は見当たらない。

 一体どこに行ったんだ?

 まぁ別のことに気を取られていたせいでこうなってしまったので、悪いのは僕なんだけど。

 そんなふうに少し反省しているとスマホが鳴った。


「もしもし?」

『環くん?今どこ?』


 姫乃が電話をかけてきてくれた。

 非常に申し訳なく思いながら今いる場所を伝える。


「ごめん、今駅の南口から出た所にいる」

『わかった。じゃあそっちに行くね』

「ありがとう」


 これ以上僕にできることはないと判断して、大人しく目の前にあったベンチに座る。

 ただ、梅雨明けの暖かい日差しと睡眠不足が祟ってたのだろう、抗いがたい睡魔に襲われ、いつの間にか眠ってしまっていた。


△▲△▲△▲△▲△▲


「──、たーまーきーくん!」

「ん……あ、ごめん!」


 何度か名前を呼ばれて漸く目が覚めた。時計を見ると11時35分と、20分ほど眠ってしまっていたようだ。これは確実に怒られるか呆れられているだろう、そう思って姫乃の顔色を伺うと、姫乃は何故か申し訳なさそうな顔をしていた。謝るべきは僕のはずなのにどうして………


「ごめんね、環くん疲れてるはずなのに無理矢理連れ回すようなことしちゃって」

「そんなことないよ、こっちこそ色々迷惑かけてごめん」

「んーん、気にしてないよ。環くんの寝顔可愛……何でもない!」


 最後の方が聞こえなかったので、姫乃の顔が赤くなっていった理由が分からなかった。


「それより、昼ご飯どうする?」

「それなら心配ないよ、さっき電話で予約したから。12時くらいに行けばいいって」

「そっか、ありがとう」


 お礼を言うと、姫乃は不満げな表情になって言った。


「んー……今日は私がお礼したいだけなのにさっきからお礼ばっかり言われるんだけど」

「お礼って、そんな大したことしてないよ?」

「私を助けて、手当までさせてくれて、これのどこが大したことじゃないの?」

「僕がしたくてしただけだし、そこまで気にすることないのに」

「それでも私はお礼しなきゃ気が済まないもん……」


 きっと姫乃は譲らないだろう。

 まだ関わりはじめて数日しか経っていないけれど、今までの姫乃の言動から察することはできる。ここは僕が折れなければ話が進まない。


「お礼って何してくれるの?」

「んー、お昼ご飯奢るとか?」

「いや、姫乃……さん、それだけは男として避けたいです」

「えぇ……じゃあ何かしてほしいことある?」

「してほしいことか……」


 その言葉に考えを巡らす。

 今までは基本僕一人でやってきたから、誰かに何かしてもらうという経験がそこまでない。だから考えてもこれといった案は出てこなかった。


「昼ご飯食べながら考えるよ、そろそろ行こうか」

「そうだね、こっちだよ」


 5分ほどして、目的のレストランに到着した。


△▲△▲△▲△▲△▲


「えっと……ここ?」


 レストランに到着した僕は、その外観を見て先程の美容院に行った時と同じ感想を抱いた。スマホの画面で見るよりもオシャレで、僕がいることが場違いに思えてくる。中にいるのも大半が女性客のようで、姫乃には悪いが今すぐ帰りたい。

 そんな僕の心情を察したのだろうか、姫乃が笑いながら言ってきた。


「どうせ『場違いだ』とか考えてるでしょ」


 図星だと、顔に出てしまったようだ。


「環くん顔に出すぎだよー。大丈夫だよ、今の環くんかっこいいし」

「でも……」

「『でも』じゃなーい。ほら、予約してるって言ったでしょ」


 そう言って姫乃は中に入っていった。

 僕も覚悟を決めて店に入る。なるべく背筋を伸ばしてだらしなく見えないようにしながら、それでも心臓は破れそうだった。


「「いらっしゃいませー」」

「予約した結城です」

「はい、結城様ですね。お待ちしておりました、こちらへどうぞ」

「環くーん、行くよー」


 店の雰囲気に飲まれている間に、話がトントン拍子で進んでいた。

 姫乃の声で我に返り、慌てて後を追う。


「ご注文が決まりましたらこちらのボタンでお呼び下さい」

「ありがとうございます」


 席に座ると、水とお絞りが出された。

 水は常温でとても飲みやすかった。こういうお店はこれが一般的なんだろうか。


「何食べよっかなー」


 姫乃につられてメニュー表を開いて──愕然とした。

 料理の値段を見ると、ファミレスとの違いが如実に表れている。

 最低でも1500円、高いものでは2500円をオーバーしている。

 姫乃はこれを僕の分も払おうとしていたのか、その申し出を断っておいて本当に良かった。もし受けていたなら、僕の男としての立場が無くなるところだった。

 密かにそんな考えに恐怖しながら、何を食べようか考えていた。

初めて評価を頂きました。ありがとうございます。

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