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あの場所でもう一度君と  作者: ましゅ
2章 2人の関係
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第1章18話 作戦会議

お久しぶりです。

まだ細々と生きてますよ。

 作戦会議、どこか子供心をくすぐるその言葉に浸る余裕なんて僕たちにはなかった。むしろ現実味の無さに戸惑っていた。

 漠然としたその言葉にお互いに顔を見合わせていると、陽真さんが苦笑しているのが目に映った。


「あれ……?そんなに戸惑うことかな……」

「いや、詳しいことを聞かない限り……」

「それもそうか」


 そう答えた陽真さんが腕を組んで俯いた。考える時に腕を組む人なんて初めて見た。そんなどうでもいいことを頭の片隅で考えていると、陽向が呆れたような声で言った。


「お兄ちゃん、まさかとは思うけど何も考えてない……とか?」


 その言葉を聞いた陽真さんの肩がビクッと跳ねた。

 嘘だろ?

 おそらくその場の全員がそう思っただろう。陽真さんは「ハハハまさか」と笑っているけれど、陽向の指摘が事実であることをその引きつった笑みが証明していた。


「何も考えてないのにあんな啖呵切ったの!? 馬鹿じゃない!?」

「あれはあの場の雰囲気で──」

「雰囲気とかいらないから!もう…………」


 そう愚痴をこぼして陽向が項垂れた。愚痴の最後は上手く聞き取れなかったけれど、陽真さんに対する罵倒だというのは何となく伝わってきた。

 陽真さんはそんな陽向を見て、頭を掻きながら申し訳なさそうに僕たちに言った。


「えっと……そういう訳なんで何かあればお願いします」


 姉さんと陽向は非常に冷たい視線を陽真さんに向けていた。心なしか部屋の温度が1、2℃ほど下がっている気がする。2人の視線を受けてもニコニコと笑っている陽真さんを見て、改めて凄いなと思ってしまった。


△▲△▲△▲△▲△▲


「……まぁ何にせよ、家に乗り込むのは決定よね」


 姉さんがそう呟くと、僕と陽向は自然と俯いてしまった。そんな僕たちを見て姉さんが手を叩いた。


「そこ、俯かない!」

「……っ」

「俯いてたら父さんには絶対勝てない。それはわかるでしょ」


 言い返そうとしたけどできなかった。悔しいほどに、それは正論だったから。

 代わりに精一杯の覚悟を込めて姉さんの瞳を見つめると、姉さんは満足そうに頷いた。


「そう、それでいいのよ」

「えっと……家に行くのは僕と陽向と──」


 そこまで言ったところで、隣から声が上がった。


「私も……私も行かせて!」


 そう言ったのは姫乃。その申し出はありがたかった、でも……。


「ごめん、姫乃」


 僕の口から出たのは、その言葉だった。断られるとは思っていなかったんだろう、姫乃の目が驚愕で見開かれる。


「何で……?」


 小さく、消え入りそうな声が僕の耳に届いた。

 姫乃を傷つけないように、細心の注意を払って答える。


「ごめん。でも、これは僕の……僕たちが勝手に始めたことだから。姫乃に迷惑をかける訳にはいかないよ」

「迷惑だなんて思ってない! 私だって環くんの力になりたい!」

「……その言葉で十分だよ」

「何でそんなこと言うの? 私は環くんの何なの!?」


 つい1時間ほど前に聞いたばかりのその問いに、もう一度答える。


「彼女、だよ」

「だったら──」

「だからこそ、傷つけたくないんだよ」

「…………」

「きっと父さんは僕のことだけじゃなくて姫乃に対しても何か言ってくると思う」

「そんなの私は気にしな──」

「僕が耐えられないんだよ」

「…………っ!」


 姫乃は何も言わず僕の胸を叩いてきた。何度も、何度も。結局姫乃を傷つけてしまった。姫乃に胸を叩かれる度、そんな後悔が胸に刻まれる。

 それでも、今回だけは譲れない。


「ごめん。勝手なこと言ってるのはわかってる。でもわかって欲しい」

「……ばか」

「うん、知ってる」

「…………環くんはズルいよ」

「うん」

「そんなこと言われたら何も言い返せないよ」


 そう言って姫乃は至近距離から僕を見上げてきた。潤んだ瞳に、僕が映っていた。姫乃の瞳の中の自分から視線を逸らせずにいると、突然姫乃が僕の手を握ってきた。


「……震えてる」

「やっぱり隠せないか」


 父さんの声を聞いた時から僕の体は震えていた。覚悟を決めていても、怖いものは怖い。自分の体は思っている以上に正直らしい。

 すると僕の手を握る姫乃の力が強くなった。


「環くんは大丈夫だよ」

「……?」

「葵さんとか私だけじゃない。陽真さんも、大悟くんも亜美ちゃんも…………皆環くんの味方だから」

「姫乃…………」


 向かいから「もちろん私も味方です!」という声が飛んできた。陽向は何と張り合っているんだ?

 いや、そもそも陽向の名前が呼ばれなかったのか。そう思って視線を少し下げると、そこにはキッと陽向を睨んでいる姫乃がいた。

 姫乃の視線に気がついたのか、陽向が笑って「あ、これ嫌われたやつだ」と言った。姫乃の視線を全く意に介していない。

 まぁ、陽向がそういう態度をとるのも何となく理解できた。今の姫乃が怖いかと聞かれればそうではなく、何と言うか……むしろ可愛いと思ってしまうから。


「……修羅場ね」

「ですね」


 姉さんと陽真さんがそう話しているのが聞こえた。

 そんな風に思っているなら助けて欲しい。その言葉を言いかけて、ぐっと飲み込んだ。


△▲△▲△▲△▲△▲


「それじゃあ……環と陽向ちゃんと私と──」

「あと僕ですね」

「あら、アンタも来てくれるの?」

「先輩こそ、ツンデレ発揮しないんですか?」

「ちょっ……ストップストップ!」


 何となくまとまりかけていた雰囲気をぶち壊しにする会話が始まりそうだったので慌てて止めに入る。

 姉さんからは「何よ」と冷たい目で睨まれ、陽真さんからは「冗談だよ」と冗談とは思えない声色で言われ…………今日は厄日なんだろうか。

 姫乃と陽向は必死に笑いを堪えていた。実は仲が良いんじゃないか?


「えっと、僕と陽向と、姉さんと陽真さんの4人でいい……ですよね?」

「あ、それなんだけど。シュウさんも協力するって」

「は?」

「んーとね、帰りが遅いけど何かあったのかって連絡があって、事情を話したら協力させてくれって」

「え、いいの?」

「ほら」


 そう言って姉さんがスマホを見せてくれた。そこには『葵の弟は僕の義弟でもあるしね』という修さんらしいメッセージがあった。でも、僕が聞きたいのはそれとは異なることで……。


「父さんの所に賢治さんがいるんじゃ……?」


 現在父さんが住んでいる家で家の管理をしているのは楠木(くすのき)賢治(けんじ)さん。家政夫として働いてくれている、修さんの父親だった。このままだと僕らだけでなく修さんまで父親と戦うことになってしまうけれど、いいのだろうか。


「問題ないって」

「軽いね…………」

「まぁシュウさんだし」


 何にせよ味方が増えるのはありがたかった。1人じゃない、たってそれだけなのに、とても心強かった。体の震えはいつの間にか治まっていた。


「あ、シュウさん今からこっち来るって」

「え!?」


 修さんの来訪(これ)はさすがに想定外だったけれど。

修さんは在宅勤務なんです。

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