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あの場所でもう一度君と  作者: ましゅ
2章 2人の関係
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第2章17話 共通の壁

短めです。

「環くん、お姉さん……それと、姫乃さん。ごめんなさい」


 自分の思いを全て吐き出した陽向は、スッキリした顔で謝った。だけど、僕の胸の中には重く、粘つく塊が根を這わせていた。


「陽向が謝る必要はないだろ!」


 気がつくと、そう叫んでいた、

 言葉は止まらなかった。

 次から次へと言葉が溢れ出てくる。


「どう考えても悪いのは僕だろ。僕が陽向のことを何も考えずに、自分が父さんに復讐することばかり考えて、勝手に家も出て!謝るのはこっちだ!」

「環くん……」


 頬を流れ落ちる温かいもので視界が歪む。声が震える。それでも止まらなかった。いや、止まれなかった。


「ずっと独りだと思ってた。でも違った。姉さんが、陽真さんが──姫乃がいた。皆が力を貸してくれたから今の僕がいる。だから……」


 僕がどうするべきか、その答えは自分自身がいちばんよく知っている。だからすんなりと言葉が出てきた。


「今度は僕が陽向の力になる」


 僕がそう断言すると、陽真さんが大きく頷いて、真剣な顔で言った。


「僕もだ。自分勝手に生きてきたせいで陽向がこんな思いをしているなんて気づかなかった……兄失格だよ。ごめんな。今更かもしれないけど、陽向、僕にも協力させてくれ」

「環くん、お兄ちゃん……ありがとう…………っ!」


 更に姉さんが言葉を重ねる。


「2人の味方をするつもりはないけど……お父さんには文句を言いたかったのよね」

「センパイ、今そんなツンデレいりませんって」

「う、うるさい!」


 陽真さんのそのツッコミに、場の空気が緩むのがわかった。

 暫く照れていた姉さんだったけれど、気を取り直すようにわざとらしい咳をしてから僕の目をを見て言った。


「環、私は()()()()()。もう貴方だけの問題じゃない。貴方にはひーちゃんがいる」


 姉さんのその言葉に、隣に座る姫乃が肩を震わせた。

 落ち着かせるために姫乃の手を軽く握ってから、僕は姫乃、そして姉さんを見て答える。


「……わかってる」

「そ、ならいいわ。ちゃんと全部精算してから、またご馳走してね」

「わかった」


 その姉さんらしい言葉に、僕の心の塊はいつの間にか軽くなっていた。


△▲△▲△▲△▲△▲


「でも……私、どうしたら…………」


 陽向が不安そうにそう呟いた。

 そうだ、まだ陽向がどうしたいか、その答えを聞いていない。そんなことを思っていると、陽真さんが陽向にこう尋ねた。


「ヒナ自身はどう生きたいの?」

「どうって……」


 陽向は暫く考え込んで、顔を上げた。


「私は……私も、自由に生きたい」

「じゃあそうしよう」


 陽真さんは、陽向がそう答えるのをわかっていたかのように笑って言った。しかし陽向は陽真さんのその言葉に更に動揺しただけだった。


「え、でも……」

「ヒナ、スマホ貸してみ?」


 そう言った陽真さんは、陽向の返答を待たずに机の上に置いてあった彼女のスマホを手に取った。そしてどこかに電話をかけた。


「ちょっと、お兄ちゃん!」


 焦ってスマホを取り上げようとする陽向を、陽真さんは「静かに」と言って制止した。

 そして電話の向こうから聞こえてきた声に、陽真さんを除く全員が硬直した。


『陽向君か……環君を連れ戻せたかい?』


△▲△▲△▲△▲△▲


 陽真さんが電話をかけた相手は、僕の父親だった。電話をかけたはずの陽真さんは、ニコニコ笑って沈黙を貫いている。


『陽向君?』


 痺れを切らしたのか、父さんがどこか苛立ちを含んだ声でそう告げた。そこで漸く陽真さんが口を開いた。


「どうもー。家の父がお世話になっております」

『……誰だい?』

「橘家の長男、橘陽真と申します」


 陽真さんが自己紹介をすると、電話越しに長い溜め息が伝わってきた。父さんが相当イラついている証拠だ。


『何故君が陽向君の電話を?』


 当然のその疑問を父さんが口にする。

 そこで陽真さんは一呼吸置いてから、怒りと後悔の入り混じった声でこう言い放った。どこか自分にも言い聞かせるような口調だった。


「妹をこれ以上泣かせるんじゃねえよ」

「…………っ!」

『……………………』


 陽真さんの言葉に陽向が息を呑んだ。父さんが沈黙したのに乗じて、陽真さんが言葉を重ねた。


「俺は貴方と戦います。俺だけじゃない、環くんと、葵センパイと、陽向と……皆で貴方に勝ってみせますよ」


 数秒の沈黙の後、父さんの笑い声が聞こえてきた。


『フ、フフフ……』

「何がおかしいんスか」

『いや、失礼。戦うねぇ…………。ならば僕から1つだけ言わせてもらおう』


 そして、今までで聞いた中で1番冷たい声で父さんが陽真さん──いや、僕たちの宣戦布告に対してこう答えた。


『感情に任せ大局を見ない、それだから君たちは子供なんだよ。返り討ちにしてあげよう』

「……ご忠告、ありがとうございます」


 その脅しを、これっぽっちも意に介した様子もない陽真さんはそう答えて荒々しく電話を切った。

 次の瞬間、陽向が陽真さんの胸を掴んで揺さぶった。


「お兄ちゃん!何してくれてるの!?」

「んー?これでもう後腐れないだろ?」


 ヘラヘラ笑って答えた陽真さん。陽向はまたも硬直する。


「これで僕たちの壁は定まった。あとは超えるだけだよ」


 陽真さんは僕たちを見渡して、言った。


「さあ、作戦会議を始めよう」

ここで宣伝。

作者名:和菓子男子で新しい小説を書き始めました。

タイトル:「君色に染まる」

ジャンル:「ラブコメ」です。


よければご一読頂けると幸いです。

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