第1章5話 遭遇
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想像して欲しい、
恋人でも何でもない状態の男女が2人で町を歩いている状況を。
非常にいたたまれなくなるはずだ。
今の僕はまさにその状況にある。
隣に立っているのは結城姫乃、先日僕が助けた女子だ。
その縁で今日この場にいるわけだけど、何故か朝一番に連れていかれたのが美容院だった。
そして今に至る。
「──くん、環くんってば」
「ん、ごめん。何?」
今までの状況を整理するのに精一杯で、姫乃の言葉を聞いていなかった。
というか、姫乃は僕をどこに連れていく気なんだ。
「お昼ここで食べない?」
そう言って姫乃が見せてきたスマホの画面には、何度か地方テレビ番組で放送されていた僕らの町では有名なレストランが表示されていた。レビューを見ると★4.3と、なかなか人気店のようだ。
ただ、現在時刻は午前9時50分と、昼ご飯の話をするにはまだ早いように思える。
「僕はどこでもいいけど、まだ早くない?」
「んー、でもここ有名だしちょっと距離あるからさ」
「なるほど」
そういうことなら納得だ。
どれくらい時間がかかるかは分からないけど、今から行けば混む前には着けるんだろう。
「じゃあ行く?」
「おっけー」
△▲△▲△▲△▲△▲
そんなこんなで駅のホーム。
電車を待っていると、後ろから声をかけられた。より正確に言うなら、「姫乃が」声をかけられた。
「あれ、姫乃さん?」
声をかけてきたのは、見覚えのある男子。
確かクラスメイトの──柊伊織。
クラスの中ではイケてる部類の男子だ。
「柊くん、偶然だね」
僕のことは「環くん」と呼んでいるのに、柊は苗字呼びであることを不思議に思いながら成り行きを見守る。
「姫乃さん何でこんな所に……ってその男子は?」
おっと、成り行きを見守るだけでは終わらなかったようだ。まさかこっちに話を振られるとは……いや、良く考えれば当たり前か。クラスで注目されている女子が男子と一緒にいるのだから。
教室で空気を演じていたおかげでまだ僕だと気づかれてはいないので軽く会釈をしておく。それだけで済ますはずだったのに、
「んー?環くんだよ」
「ちょっ!?」
僕の努力は一瞬で無駄に終わった。
「環って……柏木?」
「うん」
こうなっては仕方ないので、柊に向き直り改めて挨拶をする。
「久しぶり」
「お、おう……。柏木ってそんな雰囲気だったっけ?」
ふむ、陽真さんと姫乃だけでなくクラスメイトにもそう言われるのなら、本当に雰囲気が変わっているんだろう。なかなか認めがたいところはあるけれど。
「今日髪切ったからかな。そんなに違う?」
「おう、何つーか暗くなくなった?てかそんな目つきだったんだな」
「何か優しそうな目だよね」
そう言った姫乃に対し、柊の顔から全ての感情が消えうせた。
ただしそれも一瞬のことで、姫乃も気づかなかったようだ。それなら僕も気にする必要はないだろう。
そこまで考えたところで、僕たちの乗る電車がホームに到着した。
「柊くん、また学校でね」
「じゃあ、また」
「あ、あぁ」
電車のドアが閉まった。
発車ベルが鳴り、ふと窓の外を見ると、柊がこちらを睨んでいるのが見えた。
何か恨まれるようなことでもしたのだろうか。
そう思って今までの自分の行動を振り返ってみるが、僕と柊には何の接点もなかったので気のせいだということにしておく。
電車の中で、姫乃が周りに配慮した声で話しかけてきた。
「それにしても」
「何?」
「環くん、どれだけ他人と関わってなかったの?全然気づかれてなかったじゃん」
「まぁ、自分から空気を演じてるしね」
「その考えがだめなんだよ!」
と、お小言を頂いてしまった。
僕はもう少し他人と関わっていくべきなのだろうか。
少なくとも、今までだったらこう考えることもなかったんだろうな。




