第2章8話 文化祭(打ち合わせ②)
短め。
「じゃあ説明しますね」
そう言って桔梗が文化祭の細かい規則について説明してくれた。その中で僕らの出し物に関係しそうなものは以下の5点。
・予算は各クラス1人1000円まで
・火を扱う出し物(飲食店など)は事前に生徒会に申請
・調理室の使用は抽選
・屋台は生徒会が貸し出すため準備は不要
・飲食物を提供する場合は担任、生徒会のチェックを受ける
「うわ、めんどくさ……」
「まぁ人に提供するものですからね」
個人的に最後の項目は生徒会の役得だと思う。
そんなことを言っていても仕方がないので、早速どれくらいの資金が必要なのか計算する。
「駅前のスーパーだったら焼きそばの麺ちょっと安くなかった?」
「いや、人数が人数だし今回は業務用スーパーに行った方が…」
「じゃあ1駅先のあそこだね」
「大体何人前くらい必要かな」
「桔梗、去年の飲食店のデータとかって」
「はい、ありますよ」
テンポよく話が進んでいく。
皆で桔梗が提示した去年のデータを見てみると、3日間でおよそ150~200人の来客があったようだ。
「200人か……」
「業務用スーパーって麺何円だっけ」
「確か30円もいかなかった気がするけど」
「てことは30×200で……」
「6000円だね」
「じゃああとは具材か」
「いや、去年以上の集客になった場合も見越して幾らかは残しておいた方がいいかも」
次々と決定事項が増えたり、やるべきことが見つかったりする中、僕は姫乃が全然発言しないことに気がついた。
何か考えがあるかもしれないと思って姫乃に声をかける。
「姫乃、どうかした?」
「……皆すごいなぁって」
「…………?」
言っている意味がわからず首を傾げると、姫乃はこう続けた。
「私、環くんと一緒にいたいから手挙げただけなのに……」
「…………」
「何か申し訳ないや」
沈黙が場を支配する。
姫乃は何を言ったのか自覚していないのか、聞いているこっちが恥ずかしくなってくる。
「えーっと……お2人はそういうご関係で?」
「マジ!?いいなぁ」
僕と姫乃の関係を何も知らないであろう龍馬と紗夜がニヤニヤしながらそう言ってきた。それで漸く自分が何を言ったのか理解したようで、急速に顔を赤くする。つられて僕も。
「あ、いや、その、違…………わないけど違うの!」
必死に言い訳を考えているようだけど無駄だと思う。
そんなことを考えていると、大悟が背中を叩いてきた。
「良かったな、環」
「大悟……」
「羨ましいぞコノヤロウ」
「いや知らないよ」
「あの、盛り上がってるとこ申し訳ないですが話に戻っていいですか?」
気まずそうに、おずおずと発言する桔梗。
そもそも話し合うために集まったのだからその言葉も当然だろう。
「だね、話を進めよう」
「『だね』って柏木くんが言うことじゃない気が……」
「ま、細かいことはいいから進めようぜ」
桔梗に追及されそうな所を大悟が助けてくれた。姫乃はまた黙ってしまったから、そのまま話を進めることができた。
「40人だから予算は最大4万円、麺には1万円くらい使えるかな」
「屋台の外装とかも考えないとダメじゃん」
「あ、そっか。なら……こんな感じかな?」
△▲△▲△▲△▲△▲
30分ほどして、予算の使い道の基本方針が固まった。
・麺……250食分:約7500円
・具材……1万5000円
・屋台の外装……5000円
・緊急時に備えて約1万円
「まぁこんな感じでいいかな」
「では外装のデザインは女子、組み立ては男子でいいですか?」
「うん、それでいいと思う」
「これを明日皆に話すとして……」
そう言って集まっている人たちの顔を見る。
「皆、どれくらい料理ができるのかな?」
「前も言ったけど俺はそこそこ」
そう大悟が言ってきた。確かに夏休みに家に集まった時、大悟の手際は良かった。心配はいらないだろう。
次に龍馬だけど、両親の帰宅が遅い分よく弟たちに料理を作ってあげているようで、こちらも心配する必要はなさそうだ。
続いて紗夜。
「アタシは……うーん、どうなんだろ」
「焼きそばの作り方わかる?」
「野菜とかお肉切って炒めて、麺も入れてソースで味付け?」
間違ってはない、間違ってはないんだけれど……少し心配になる。
「1回自分で作ってみよっか」
「ラジャ」
「で……姫乃は?」
「私は、その、えーっと……」
ボソボソと呟くように話す姫乃の目は泳ぎまくっていた。何も言っていなくてもその目が『できません』と物語っていた。
「じゃあ姫乃、今日一緒に作ろっか」
「うん!」
元気のいい姫乃の返事を聞いて、冷蔵庫に材料があったかを思い出す。2人分だしそんなに問題はないと思う──と、どこか生暖かい視線を感じて顔を上げる。見ると、大悟たちが変な目でこっちを見ていた。
「……何?」
「いやぁ……ナチュラルにイチャつくなぁって」
「彼女との料理ね……」
「うらやまー」
初めは何を言われているのかわからなかったけれど、時間が経つにつれて段々と理解していく。それと同時に羞恥が込み上げてきた。
やばい、偉そうに姫乃のことを言っている場合じゃなかった。
姫乃も顔を赤くして俯いてしまっている。
「ま、まぁこれに関しては」
「あー……確かにしょうがない部分もあるな」
「で、でしょ──」
「逃げんな」
目を逸らそうとすると、大悟に肩を掴まれた。
昼ごはん焼きそばだった。偶然。




