第2章7話 文化祭(打ち合わせ①)
環くんが大変になるお話。
イチャイチャは暫くお預けになるかもなー
僕らの通う高校の文化祭は少し変わっている(そう思うのは僕だけかもしれない)。文化祭が開かれるのは9月末、僕らはそれに向けて始業式後は午前授業、午後準備というスケジュールで動く。本番1週間前からは全日準備という日程だから、他の高校よりも熱が入るのは仕方がない──という話を陽真さんから聞いた。
そして今日、午前の授業が終わり、早速何をするのか決めようという流れになった。場を仕切っているのはもちろん桔梗。
「何か案がある人はいますか?」
そう桔梗が尋ねると、次から次へと手が挙がり、対応に困る結果となった。
何とか桔梗が意見をまとめ終えた時、黒板には以下の案が書かれていた。
・屋台(飲食物)
・屋台(物販)
・お化け屋敷
・メイド喫茶
・ゲーム系
明らかに不適切なものは桔梗がバッサリと切り捨てたので、残っているのはいかにも「文化祭」というようなものだった。
僕は姫乃と文化祭を回れればなんでもいいので特に自分から意見を言うようなことはない──はずだったんだけれど……。
「そうですね……。柏木くん、何か他にありませんか?」
「……え?」
クラスメイトの視線が僕に集まる。まさか僕を指名するとは思わなかったから思わず間抜けな声を上げてしまった。そういえば今朝、桔梗に何か考えておけと言われたような気が……。
「えぇ……」
「何でもいいんですよ?」
考えておいてって言ったでしょ、とでも言いたそうな桔梗の圧がすごい。とりあえず何か言っておかなければまずいと判断して必死に頭を回転させる。しかし、僕が絞り出せた答えは──
「…………焼きそば、とか?」
結局屋台じゃねーか!みたいな言葉を想像していただけに、かけられた言葉を暫く理解できなかった。
「いんじゃね?」
「タマッキーの焼きそば美味しかったしね」
「また食いてぇ」
「いや、今度は作る側でしょ」
こんな声を上げたのは、お察しの通り亜美たち4人。口にはしていないけれど、姫乃も目を輝かせて何度も首を縦に振っていた。
その他の皆の「どういうことだ?」という視線が刺さる刺さる。
「えぇと……柏木くんは焼きそばが作れるという解釈でいいですか?」
「まぁ、それなりに」
「文化祭で作れと言われたら?」
「そりゃまぁ、やるけど……」
「言質、取りましたからね」
そう言ってニヤリと笑った桔梗は、既に『・屋台(飲食物)』という板書があるにも関わらず、1番左に
◎焼きそば
と書き足した。ご丁寧にただの点ではなく二重丸で強調までしている。何故だろう、何か嫌な予感がするなぁ……。
「ではそろそろ決めた方が良さそうですね。今から紙を配るので、やりたいものを書いて提出してください」
そして桔梗が各列の先頭の人に紙を配り始めた。こうなってしまっては皆が別のものに投票してくれることを祈るしかできない。自棄になった僕は屋台(飲食物)と書いて提出した。
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5分後、開票作業が終了して結果が黒板に書かれた。ちなみにクラスの人数は40人だ。
・屋台(飲食物)……3
・屋台(物販)……1
・お化け屋敷……0
・メイド喫茶……6
・ゲーム系……1
◎焼きそば……29
圧倒的多数で焼きそばに決定した。
「何でこうなった……」
思わずそう呟くと、後ろに座っていた男子が慰めるようにこう言ってきた。確か名前は──梶龍馬だったっけ。
「まぁ、できるだけ僕らも協力するし……頼むよ」
その言葉で漸く察する。
他の選択肢であれば程度の差はあるにしろ何か大道具を作る必要が出てくる。その一方で焼きそばはどうか、そう、材料を買った時点で殆ど準備は終了だ。
要するに、皆楽がしたいんだ。
その分僕に色んな負担がかかってきそうだけど……
「では、焼きそばで決定ですね」
「「いぇーい!!!!!!!!」」
「ついては柏木くんに責任者をお願いしたいのですけど」
「………………」
これ以上めんどくさいことに関わりたくはないからしっかり考えてから答えを出す。
「……条件次第で」
「条件、ですか?」
「うん、そんな難しいことじゃないよ」
「言ってみてください」
「僕以外にも焼きそば作る人を何人か、それだけ」
それを聞いた桔梗がクラスを見渡して尋ねる。
「だそうです。誰かいませんか?」
その時の桔梗の目が姫乃に向いていたのは気のせいだろうか。
それは置いておいて、手を挙げたのが数人存在した。
姫乃、大悟、龍馬、そしてもう1人、後ろの方に座っていた女子も手を挙げた。
「アタシやるよー」
「麻田さん、いいんですか?」
「うん、何か楽しそうだし」
手を挙げたのは、まだ話したことがない生徒──麻田紗夜。良く知らないけれど、クラスのイケてる女子グループのリーダー格だった気がする。
姫乃と大悟はまぁ予想していたけれど、龍馬と麻田さんは完全に予想外だった。
「龍馬……いいの?」
「あれ、協力するって言わなかったっけ?」
「あ、本気だったんだ」
「うわー心外だなー」
そう言って朗らかに笑う龍馬、それだけで悪いやつじゃないということが伝わってきた。
「では責任者は放課後教室に残って下さい。さっき手を挙げた人達もです」
桔梗がそう纏めたことで、今日の議題は終了したようだった。
先生が立ち上がって今後の予定について説明する。それが終わり次第今日は解散して良いとのことだった。
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「柏木くん、責任者を引き受けて頂いてありがとうございます」
「ま、言い出したの僕だしね。それよりも……」
そう言って僕は麻さんの方を向く。
「麻田さんが快諾したのが意外だったんだけど」
「いやタマキチ何言ってんのさ」
「た、タマキチ!?」
聞きなれない呼び方に聞き返してしまった。
しかし麻田さんは変なことを言ったつもりがないのだろう、キョトンとして「どしたの?」と聞いてきた。
「いや、呼び方に驚いただけ」
別に呼び方自体に何かこだわりがあるわけではない。ただ亜美の『タマッキー』に続き、女子はあだ名をつけるのが好きなのかな、と思ってしまっただけだ。
「ん、そか。あと私とことは『紗夜』でいーよ」
「OK」
そんな感じで責任者同士の打ち合わせが始まった。




