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あの場所でもう一度君と  作者: ましゅ
2章 2人の関係
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第2章6話 想いを言葉に、言葉の向こうに

短め。

「好きです、付き合って下さい」


 いつの間にか大事なことを話す時は目を逸らすことが癖になってしまっていたような気がする。

 でも今日は、今だけは……目を逸らさずに、姫乃の目を見つめて、ゆっくりと口にした。

 やっぱり僕はヘタレなようで、言った後の空気に耐えられず俯いてしまった。


「………………………………」

「………………姫乃?」


 十分な沈黙があっても、姫乃からは何の答えも貰えなかった。

 不安になっておそるおそる姫乃の顔を見て、ぎょっとする。

 姫乃の頬を、涙が伝っていた。


「姫乃……」


 何か変なことを言ってしまったのだろうか、心配になって姫乃の名前を呼ぶと、姫乃は棒立ちで大粒の涙をこぼしたまま何かを言おうとしていた。しかし涙が邪魔をして何も言えない、そんな状況がしばらく続いた。


「急すぎるよぉ……」


 3分程して漸く落ち着いた姫乃が最初に口にしたのは、そんな言葉だった。


「それはこっちのセリフだよ。始業式に告白されるとは思わなかった」

「でも、でも……」

「文化祭まで待ってたら、一緒に回れないよ?」


 その言葉に姫乃がハッとする。どうやらそこまでは考えていなかったようだ。そんな姫乃を微笑ましく思いながら言葉を続ける。


「僕は姫乃と文化祭楽しみたいな」

「それは……その、私だって……」

「じゃあ、急ってことはないんじゃない?」

「うぅ…………」


 姫乃は顔を真っ赤にして俯いた──と思ったら、突然僕に抱きついてきた。この行動は全く予想していなかったから、ものすごく動揺した。心臓が口から出るんじゃないかと思うくらい、胸がドキドキしていた。きっと、姫乃にも聞こえていただろう。


「ひ、姫乃!?」

「環くんありがとう!」


 そう言われて、更に鼓動が高鳴る。

 姫乃もそれに気づいたようで、僕の胸に耳を押し当ててからへにゃ、と顔を綻ばせた。


「環くん、すごくドキドキしてる」

「いや、それは……その…………」

「でも、それは私も」


 そう言って姫乃が自分の手を胸に当てる。その光景が何だか眩しくて直視できなかった。

 そして、姫乃は僕に向き直って……。


「環くん、これからもよろしくお願いします」


 今まで見た中で、1番綺麗な笑顔を見せてそう言った。

 その笑顔も眩しくて、でも今度は僕も姫乃の顔を見て、答えた。


「うん、こちらこそ。よろしくお願いします」


 そして、どちらからともなく笑った。


△▲△▲△▲△▲△▲


 現在時刻は午前8時10分少し前、始業まではまだ20分程ある。僕個人としては──女々しいかもしれないけど──もう少しだけ恋が成就した歓びの余韻に浸っていたい。まぁ、全て姫乃次第なんだけど。

 そう思って姫乃を見る──だが、聞くまでもないように思えた。

 だって、姫乃は今僕の体に寄りかかってニコニコと笑っているから。それはもう、見ているこっちが恥ずかしくなるくらいに。


「姫乃」

「んー?」

「さっきと全然態度が違わない?」

「んー……そう?」


 姫乃は自覚がないようだけど、明らかに違う。

 何というか……こう、ものすごく甘えてきてくれている。嫌なわけではない、寧ろ嬉しい──のだが、場所が学校だからだろうか、少しいけないことをしている気分になってしまう。

 しかし姫乃にそれを伝えられるはずもなく、結局されるがままになっているのが今の状況だ。

 そんなこんなで、暫くその体勢のまま無言の時間を楽しむ。と、唐突に姫乃が口を開いた。


「今日、環くんの家行っていい?」

「え?」

「久々に環くんの作ったご飯が食べたくなっちゃった」

「ま、まぁいいけど」

「やった」


 そしてまた沈黙に包まれる。

 非常にいたたまれなくなって、姫乃から顔を逸らす。しかし姫乃がそうはさせてくれない。立ち上がったかと思うと、僕の顔がしっかりと確認できる位置に座り直した。


「何で顔逸らすの?」

「う…………」


 上目遣いでそう聞かれて答えに困る。というか、この表情はズルいと思う。


「……可愛いな」


 気がつくとそんな言葉が口から出ていた。

 数秒の静寂の後、姫乃が顔を真っ赤に染めると同時に自分が何を口走ったのかを理解して、僕も顔が熱くなる。


「あ、ありがとう……」

「いや、うん…………」


 気まずい。非常に気まずい。

 男女の交際って、こんな風でいいのだろうか。

 気恥ずかしさを誤魔化すためにそんなことを考えていると、突然ドアが開いた。

 そこに立っていたのは──


「あれ、柏木くんと結城さん。こんな所で何を?」

「き、桔梗……」

「あ、私は先生に言われてここにある教材を取りに」


 なるほど、さすが学級委員長。その理由はもっともだ。

 が、姫乃が黙ってしまった。どうしたのかと思い姫乃を見る(必然的に後ろを見ることになった)と、姫乃は僕の背中を掴んで俯いていた。

 2人きりならば問題はないけれど、誰かに見られるのは耐えられないと言ったところだろうか。

 時間も時間なので教室に戻ることにする。姫乃を促して部屋を出ようとした時、すれ違いざまに桔梗にこんなことを囁かれた。


「柏木くん、おめでとうございます」

「っ!?」


 やはり全てお見通しだったようだ。それどころかこんなことまで言ってくる始末。


「ここで何をしていたかは……まぁ皆には黙っておいてあげます──」

「あ、はは……」

「が、程々にしてくださいね」

「あ、はい」


 事情を何も知らないであろう姫乃は少し先に行った後振り返って「どうしたの?」と聞いてきた。別に言う程のことでもないので「何でもないよ」と笑いかけると、姫乃は小走りでこちらに駆け寄ってきた。うん、可愛い。


「早く行こっ」


 そう言って姫乃は僕の腕を引っ張ってくる。

 一瞬転びそうになったけどすぐに体勢を立て直して姫乃の横に並ぶ。


 これからはここ(姫乃の隣)に立っても恥ずかしくない人間になろう。

 そんなことを思いながら教室のドアをくぐった。

やっとイチャイチャが書けるぞ〜!

((o(。>ω<。)o))

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― 新着の感想 ―
[良い点] やっとはじまりますね [気になる点] なし [一言] 毎話読んでます。これからも楽しみにしてます
2019/11/25 21:22 オーストラリア南東部のマリーダーリング盆地
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