第2章2話 環と陽真と恋愛相談①
昨日のことに落ち着きを取り戻せないままテストを迎えた。幸い課題をしっかりやってあるかを確認するようなテストだったので困りはしなかったけれど、それでもテスト中は姫乃の方に視線がいってしまった。
そして翌日、2日間のテストが終了し、帰って自己採点でもしようかと思っていると、大悟から週末にカラオケに行こうと誘われた。断る理由もなかったから承諾すると、詳細はメールで送ると言われてその日はそこで解散した。
帰り道、2日前のことを思い出しながら歩いていると、後ろから「環くん」と声をかけられた。振り返らなくてもわかる、姫乃だ。
「テスト、どうだった?」
「うん、まぁまぁかな」
つい先日告白したばかりとは思えない姫乃の接し方を見ていると、さっきまでうだうだと悩んでいた自分が馬鹿みたいに思えてくる。
「そういえば環くん、髪また伸びてない?」
姫乃にそう言われて、夏休みの後半の陽真さんとの会話を思い出す。
非常にタイムリーというか、ちょうど今日予約を入れていたからそれを姫乃に伝える。
「そうなんだ。私も駅に用があるから一緒に行かない?」
「うん、いいよ」
やはり「告白した」という事実を全く気にすることもない姫乃を見て、僕もいつも通り接するべきだと決意する。
一旦家に帰り、着替えてからエントランス前に再集合する約束をし姫乃と別れた。
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「やっぱダメだァ!!!!!!!!」
部屋に1人になった瞬間、思いっきり大声でそう叫ぶ。隣に聞こえているかもしれない?知ったことか。
姫乃が普通に接してくれるとはいえ、いつも通り接すると決めたとはいえ、「告白された」という事実を簡単に忘れられるわけがない。姫乃と一緒に歩いている時は緊張したし、家に帰ってからは恥ずかしさが込み上げてくる。
「何で姫乃はあんなに平気そうなんだ……?」
純粋な疑問を呟いた時、天井(正確には上の階?)からドンッという音が聞こえてきた。思わず上を見上げてしまう。僕の住んでいる部屋の上の階に住んでいるのは──姫乃だ。
何があったんだ? 暫くそんなことを考えるけど、それきり音が聞こえてくることもなかったからおそらく大丈夫なんだろう。
30分ほどして約束の時間になった。いくら9月になったとはいえ、午後のこの時間はさすがに暑い。眩しい日差しに目を細めながら外に出ると、既に姫乃がエントランス前で待機していた。
腕を組んで頬を膨らませ、明らかに不機嫌なオーラが伝わってくる。
「……遅い」
「えぇ…………」
そう言われたけれど、僕はちゃんと時間通りに出てきたはずだ。むしろ姫乃が早いだけだと思う。
でもまぁ、姫乃が遅いと言うならば一応は謝っておくべきだろう。
「ごめん」
「コンビニでアイス」
おそらくそれが目的だったのではないだろうか。その和解条件に頬を緩めながら「それくらいなら」と言って歩き出す。すると姫乃は口をポカンと開けて固まってしまった。
「……姫乃?」
「あ、ごめん。まさかOKされるとは思ってなかったから。……いいの?」
「まぁ姫乃のお願いだし……」
そう言うと、「ボッ」と音が出そうな勢いで姫乃の顔が一気に赤く染まった。そのままこっちに寄ってきて僕の脛の辺りを何度か蹴ってきた。
「痛いです姫乃さん」
「…………」
「すみませんすみませんすみません」
「………………」
「取り敢えず蹴るのをやめてくださいお願いします」
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漸く蹴るのをやめた時、姫乃は顔を背けながら「そういうとこだよ……」と小さな声で呟いた。よく聞こえなかったのと、どういうことかわからなかったので「何が?」と聞いた。
すると姫乃はこっちを見て「何でもない!」と慌てたようにそう答えた。やっぱり女心なんて理解できるものじゃないだろう。……どう考えても難しすぎる。
結局「一緒に行こう」と言った割にコンビニまでの道でほとんど会話はなかった。コンビニで買わされたアイスは美味しい分少しだけ高い例のヤツ。どうせなら自分の分も買おうと思っていたけど、買えなくなってしまった。
姫乃がアイスを食べ終わるまで待ってまた歩き始める。ここで漸く姫乃が口を開いた。
「ありがとう」
「ん、どういたしまして」
そこにはもうさっきまでのような不機嫌なオーラは感じられず、いつも通りの姫乃のように思えた。
それからは徐々に会話も増え始めて、気がついたら駅に到着してしまっていた。
「もう着いちゃったね」
「うん」
「あ、亜美ちゃんだ。じゃあ環くんまた明日!」
素早く亜美を見つけた姫乃は「おーい」と手を振りながら走っていった。色々急だなぁ。
そんな姫乃を見送ってから僕も美容院へ向けて歩き出す。今日は陽真さんに聞きたいこともある。聞きたいことというか、相談に近いものだけど。
予約した時間までまだ余裕があるから聞きたいことを整理しながらゆっくり行こう。
そう思いながら歩くこと20分弱、約2ヶ月半ぶりに美容院を訪れた。
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「いらっしゃいませ……お、環くんか」
「どうも」
「待ってたよ」
そう陽真さんに迎えられて、席へ案内された。
「前と同じ髪型でいいかな?」
「はい、それでお願いします」
「かしこまりました」
「あ、陽真さん」
「ん?」
そこで僕は陽真さんに相談したいことがあるということを話した。それに対して陽真さんは快諾してくれたので、少し安心した。




