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あの場所でもう一度君と  作者: ましゅ
2章 2人の関係
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第2章1話 リスタート

第2章開幕。

 長かったはずなのに、色々と充実していたためか、とても短く感じた夏休みが終わり、ほぼ1ヶ月半ぶりに学校にいる。

 さすがにこれだけの期間で変化がある人がいるとは思えなかったけれど、いざ教室に着いてみると誰かわからなくなっている人が少なからず存在した。

 それを証明するかのように、教室内では次のような会話が多く見られた。


「お前変わったなー。一瞬誰かわからんかったわ」

「お前こそ、めっちゃ焼けてんじゃん」

「あれ、もしかして髪切った?」

「うん。そっちこそコンタクトにしたんだね」


 もちろん僕もただ教室の様子を見渡していたわけではない。僕の机の周りには亜美たち──姫乃を除く4人が集まっていた。


「ねえタマッキー、姫ちゃんと何かあったの?」

「や、僕もわからないから困ってるんだよ」


 そう言って、先日あった出来事を皆に話す。

 それに対する皆の反応は──


「いや、それはタマッキーが悪くない?」

「だな」

「環が悪い」

「環くんサイテー」


 という非難の嵐だった。何でだ……

 そんな感じでクラス内のざわめきは最高潮に達していた。

 こうなってしまってはもはや先生の制止など意味をなさない。それを理解しているからか、先生も何も言わずに教室内を見守っていた。

 しかし、この後は始業式もある。だから5分ほどして漸く先生が手を叩いた。


「ほら、楽しかったのはわかるが時間だ。廊下に並べ」

「「はーい」」


 ちっともモヤモヤした気持ちが晴れないまま始業式が始まった。


「えー、全校生徒諸君においては──」


 どこの学校でもそうだとは思うけど、ただひたすらに長い校長先生の話を聞きながら始業式は進んでいく。

 予想通りというか、僕の後ろでは男子生徒数人が「長くね?」と他の教師には聞こえないように文句を言っていた。

 それが校長先生に聞こえるはずもなく……


「今月末には本校の文化祭も控えており──」


△▲△▲△▲△▲△▲


 校長先生の話は20分以上続き、生徒のフラストレーションが最大値に達したところで漸く終わった。この始業式のおよそ8割は校長先生の話で構成されていたのではないだろうか。

 始業式も終了し、教室に戻る時になって肩を叩かれた。

 振り返ると、そこに立っていたのは姫乃だった。


「姫乃!?」

「何?私がここにいるのがおかしい?」

「い、いや……」


 まさか姫乃から話しかけられるとは思っていなかったから動揺してしまった。そんな僕を気にすることなく姫乃は言葉を続けた。


「環くん、今日の日程が全部終わったらすぐに帰らないで教室で待ってて」

「え、何で……?」

「いいから、待ってて」

「うん」


 半ば押し切られるような形でそんな約束をして教室へ戻る。

 結局姫乃と言葉を交わしたのはその1度だけで、教室に戻った後も話すことはなかった。


「それじゃあ文化祭の詳細を決めたい気持ちもわかるが、まずは提出物だな。ちゃんとやってきてるよな」

「当たり前じゃーん」

「先生バカにすんなよなー」


 先生のその言葉で必要な書類(親のサイン等が必要なものは実家に郵送した)、夏休みの課題を全て提出した。

 そして息つく暇もなくあっという間に下校時刻になる。

ちなみに、この時間に文化祭の出し物について少し話し合いをしたけれど、短時間で決定するはずもなく次回に持ち越しとなった。


「んじゃ環、また明日な」

「うん、またね」


 僕としては明日から2日間テストがあるため勉強したかったけれど、姫乃と約束をしてしまったため人がいなくなるまで教室で教科書を読んで過ごした。

 夏休みの余韻に浸りたいのか、なかなか帰ろうとしないクラスメイトたちに苛立ちを覚え始めた頃、姫乃がこちらに向かってきた。どこか神妙な面持ちで、いつもの彼女とはまるで違う雰囲気に圧倒された。


「環くん、ついてきて」

「わかった」


 覚悟を決めたような表情の姫乃を前にして、逆らうことはできなかった。その言葉に素直に従い、姫乃の後を追う。


△▲△▲△▲△▲△▲


 そしてやってきたのは数多のラブコメよろしく屋上────は立ち入ることができないのでそこに続く階段。少し不安になりながらも階段を上がっていくと、急に姫乃が振り返った。


「ごめん、あまり人には聞かれたくなかったから」

「いや、大丈夫。それで、何か話があるんでしょ?」

「うん、話が早くて助かる」


 そう言って姫乃は大きく深呼吸をした。つられて僕も。

 何となく張りつめたような空気の中、落ち着かない様子で視線を彷徨わせる姫乃。その目が僕を見つめた時、安心させるように頷いた。

 それで姫乃は少し安心したようで、微笑みを浮かべた。

 そして──


「私は、環くんが好き」

「……っ」


 突然の告白に、周りの時間が止まったように錯覚した。

 そんな僕の動揺を見越していたようで、姫乃は尚も言葉を続ける。


「こんな時に言うのも変だと思ったけど……でも、こんな時だからこそ」

「…………」

「返事はまだいいよ。文化祭の時にもう1回聞くから、その時までに考えておいて」

「……うん」


 本来ならば、ここで姫乃の気持ちに答えるべきだったのだろう。

 それでも、僕が口に出せたのはその一言だけだった。その言葉に満足したのだろうか、姫乃はより一層笑みを深めて言った。


「んー!スッキリした!環くん、明日からのテスト頑張ろうね」


 元気よくそう言った姫乃の頬は、薄い桃色に染まっていた。

 姫乃は「好き」の一言を言うのにどれだけの勇気を要したんだろう。そんなことを思うと、同様や嬉しさなんかよりも、僕を選んでくれたことに対する喜びのようなものが大きくなって、僕も笑みを浮かべていた。


「……うん」


 そして僕たちは帰路についた。そこに緊張や不自然さなんていうものは全くなく、あくまで自然体のままだった。


「そういえば姫乃、何であの時怒ってたの?」


 その言葉だけで姫乃は何のことか察したようで、少し不機嫌になりながらこう答えてくれた。


「あー……だってさ、環くん何も考えずに『可愛い』なんて言うんだもん」

「え、そんなにダメだった?」

「ダメっていうより……環くんはもう少し女心を勉強しないとねー」

「う…………」


 この歳になるまで男女交際など全くしたことがない僕にとっては、女心なんて到底辿り着けそうにない難題に思えた。

 こんな風にいつも通りの帰り道だったせいか、この時の僕はこの後に待ち受ける最大の障壁について深く考えてはいなかった。そして数日後、そのツケが回ってくることになる。

 ──そう、姫乃に想いを寄せる男子…………伊織だ。

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