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あの場所でもう一度君と  作者: ましゅ
1章 出会いの1学期
35/144

第1章35話 夢の続き

今日2話目ですかね。

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『**ちゃん……』


 そう言って項垂れる僕。別れの際、なるべく気丈に振舞ったとはいえ、やはり悲しいことに変わりはい。

 そんな僕を見て、声をかける人が1人。


『環情けなさすぎ!悲しいのは私も一緒!』

『……うるさい』


 もはや何を言われても否定する気は起きない、それ程までに僕は打ちのめされていた。

 そしてもう1人、こちらを見ようともせずに淡々と告げる人物が。


『環くん、いい加減諦めないか。見苦しいよ』


 姉さんとも違い、慰めの言葉すらないその父の声。姉さんもこれには反論しようとしたけれど、振り返った父さんに一瞥されて何も言えずに黙ってしまった。

 僕は、父さんの言葉を聞き続けることしかできなかった。


『君たちは彼女とは違うんだ。()()()()()()()()()()()()、何故そこから逸れる必要がある?』

『僕たちが……僕たちが望んだわけじゃない』


 その父さんの言葉に、精一杯の強がりで抵抗する。

 しかし、父さんは顔色一つ変えることなく溜息をついて、これ以上の会話は無駄だとでもいうように前を向いた。

 それきり、車内は静寂に包まれた。


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 朝から嫌な夢を見た。

 ふと外を見ると、僕の気持ちをそのまま映したかのように、空はどんよりとした雲に覆われていた。

 この夢を見た原因は、おそらく姉さんと再会したことだろう。

 ということは、誰か僕に深い関わりがある人物と出会うことができれば、この夢の続きを見られるのかもしれない。

 例えば…………父さん。

 そう考えた瞬間、急な寒気に襲われた。


「何、馬鹿なこと考えてるんだ……」


 思わずそう独りごち、気持ちをスッキリさせるために顔を洗う。鏡に映った僕の顔は、自分でもわかるくらいに酷かった。


 朝ご飯を作るためにキッチンへ向かうと、スマホが鳴った。

 着信音でわかる、姉さんから電話がかかってきたようだ。何か嫌な予感がしながらもスマホを耳に当てる。


「何?」

「ご飯できてる?」

「姫乃んとこで食べろよ」

「いや、姫乃ちゃんも連れていこうかと」

「なっ……!?」


 電話口の向こうで弟が驚いていることなど全く気にしていない様子で姉さんは更に言葉を続けた。


「姫乃ちゃんに変わるね」

「ちょ……!」


 僕の意見を完璧に無視する姉さんに振り回される。きっと向こうでは姫乃も同じようなことになっているだろう。それを思うと何故か笑えてきた。

 刹那の沈黙の後、姫乃がおずおずと話し始めた。


「あ、環くん……おはよう」

「おはよう」


 姉さんにも聞かれているはずだから僕も緊張しているんだけど、それを悟られるわけにもいかず、何でもない風を装って応答する。


「その、昨日の今日で悪いんだけど」

「うん」

「朝ご飯、一緒に食べてもいいかな?」

「ダメ──」

「えっ!?」

「──って言ったらどうするの?」


 姫乃と話しているうちに緊張もほぐれて、冗談を言う余裕も出てきた。

 もちろん姫乃から文句を言われた。


「からかわないで!」

「ごめんごめん」

「で、結局どうなの?」

「来ていいよ、今から作るからちょっとかかるかも」

「わかった。葵さんにも言っておくね」

「う、うん……」


 やはり姉さんが来る運命は変えられないのか、そう憂鬱になって電話を切る。

 何を作るべきか数秒考えて、ふと閃いた。

 この後のことを想像して、ワクワクしながら調理を開始した。


△▲△▲△▲△▲△▲


「ねぇ、環?」

「……何?」


 姫乃と一緒にやってきた姉さんは、不思議そうな顔をして僕に尋ねてきた。何が言いたいのかは理解しているけれど、敢えてわからないふりをして聞き返す。


「私、昨日作り置きなんてしたっけ?」


 そう、机の上に並んだ献立は昨日姉さんが作ったものと全く同じもの。何がしたいのかと言うと、ささやかな仕返しだ。

 姉さんと同じものを作り、その味の差で姉さんを悔しがらせる。これが目的だった。


「いや、僕が作ったやつだよ」

「ふーん……?」


 姉さんに見つめられて目を逸らしそうになるけれど、そうしてしまうとバレてしまうので必死に我慢する。

 ところが、姉さんは全て理解したとでもいうようにニヤリと笑って言った。


「なるほどねぇ」

「な、何だよ」

「あんた、誤魔化す時頬がヒクヒクするの気づいてないでしょ」

「なっ!?」


 結局、僕は誰かを騙すことなんてできないんだろう。そんなことを実感させられた。

 幸い姉さんはそれ以上追及してくるようなこともなかった。

 それでも食べた時に「美味しいわね」と素直に感想を言ってくれたことが嬉しかった。

 姫乃はというと、いつもの通り無言で料理を頬張っていて、その見慣れた光景に安心した。

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