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あの場所でもう一度君と  作者: ましゅ
1章 出会いの1学期
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第1章30話 夏休み(山?)

 海に行ってからお盆になるまで、特に何もなかった。その間に課題を進めて、残り2割になるまで終らせることができたくらいだ。

 まぁ、何度か姫乃に呼び出されたりはしたけれど。

 そして今日、山に行く予定の日、僕の部屋の前に全員が集まっているわけだけど──


「雨だな」

「雨だね」


 そう、外は大雨。山に行くどころか外出することさえ躊躇うほどの大雨。だからこそ皆に言いたい。


「何で僕ん家来てるの?」


 そう尋ねると、亜美が「何言ってるんだ」とでも言いたげな顔をした。わけがわからず首を傾げていると、大悟が手に持った大きな袋を持ち上げながらこんなことを言った。


「いや、環ん家で遊ぼうかと」

「はい?」


 冗談も程々にして欲しい。さすがに部屋に6人も入ると冷房が効いているとはいえ蒸し暑くなるだろう。

 別に山に行くのも延期でいいだろうと思ったけれど、今日以外皆の予定が合わなかったことを思い出した。


「家で何するつもり?」

「お前の飯食ったり?」

「帰れ」


 そう言って扉を閉めた。

 家に入れるならまだしも、6人分のご飯を作る義理はない。この前の焼きそばとたこ焼きは特別だ。

 そう思っていると、扉の外から大きな声でこんなことを言っているのが聞こえた。


「あーあ、この雨の中帰らないとダメかぁ」

「これ絶対風邪ひくやつだなぁ」

「環がダメって言うからしょうがないよなぁ」


 おい……。

 絶対わざとだろ。というか何を言われても扉を開けることはないぞ。


「誰か優しい人が雨宿りさせてくれないかなぁ」

「来る時も濡れたしなぁ」

「朝飯そんな食ってないんだよなぁ」


 何を言われても開けない、そう自分に言い聞かせる。


「あーぁ、荷物が重いなぁ」

「ほぼ俺が持ってたけど……(いって)ぇ!」

「荷物置きたいなぁ」


 開けない開けない開けない開けない開けない開けない開けない開けない開けない開けない開けない開けない開けない開けない開けない開けない開けない開けない開けない開けない開けない開けない開けない開けない開けない開けない開けない開けない開けない開けない開けない開けない開けない開けない────


△▲△▲△▲△▲△▲


 気がつくと扉を開けてしまっていた。

 扉を開けて最初に出た一言は「……近所迷惑」だった。


「いやぁ、やっぱタマッキーは優しいね」

「ホントにな」


 家にあげた途端、こんな白々しい演技を始めた亜美たちを一瞥して言葉をかける。


「聞こえてたよ、全部」

「だろうねー」

「そのために言ったようなもんだしな」


 全く反省の色を見せない5人に溜息をついてソファに座る。

 本当に何をするつもりなんだ?そう思っていると、伊織と瑞希が同じことを言った。


「何するの?」

「何やるんだ?」


 何も考えずに僕の部屋に来たことに呆れるけれど、それに対する亜美の返答に更に驚かされた。


「さぁ?」

「おい!」


 思わずツッコミを入れていた。

 そして……


「ねぇタマッキー、ご飯食べたい」

「嫌だ」

「環、頼む」

「断る」


 こんな会話が繰り返されることになった。


「何でー?」

「材料、食器が足りない」


 正論を言って論破した──つもりだった。

 それを聞いた亜美たちがニヤリと笑うのをみて何か嫌な予感がした。

 家に来た時、大悟は何を持っていた?

 ハッとしてキッチンを振り返る。そこに置かれていたのは…………


「材料と紙皿はここにあるんだなー」

「そんなの買うから濡れるんだよ…………」


 まさか僕がこう言うのを見越していたのか?とにかくこれで僕の逃げ道は塞がれたことになる。

 何かいい言い訳はないか頭をフル回転させていると……


「環くん、ダメ?」


 今まで沈黙を貫いていた姫乃が上目遣いでそんなことを言ってきた。

 後ろでは亜美と大悟と瑞希がニヤニヤしている(その一方で伊織は少し不機嫌そうだった)。

 結局のところ、2週間ほど前に「離れない」と言ってしまってから姫乃に逆らいづらくなっていた僕が言ったのは


「……作ればいいんでしょ、作れば」


という諦めに近い一言だった。

 その言葉に対する皆の喜びの声、これこそ近所迷惑になるんじゃないか。そんなことを思いながらキッチンへ向かった。

夏休み編、どこまで続くんだろう。

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