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あの場所でもう一度君と  作者: ましゅ
1章 出会いの1学期
28/144

第1章28話 姫乃の部屋で

本日2話目!

 翌日、補習もないしこれでもかというくらい惰眠を貪った。起きた時刻は午前9時、昨日久々に泳いだせいか疲れが抜けていない。

 しかしそれ以上に酷いのが筋肉痛だった。

 目が覚めて体を起こそうとすると、体が悲鳴をあげていた。

 それでも無理やり体を起こして朝ごはんを作る。体がタンパク質を求めていたので、肉類中心のメニューだ。


 遅めの朝食を食べ終えて、今日は何をしようかと色々考えているとスマホが鳴った。

 メールではなく電話だったことに何か嫌な予感がしたけれど、無視するわけにもいかず仕方なく出る。


「もしもし?」

『あ、おはよう』


 姫乃だった。

 こんな朝早くに何の用だと言いたい気持ちを抑えて「どうしたの?」と尋ねる。

 すると返ってきた答えは予想の斜め上どころか直角真上をいくものだった。


『家来てくれない?』

「…………………………はぁ!?」


 何を言われたのか理解できず、たっぷり間を置いてから素っ頓狂な声を上げてしまった。おそらく電話口の向こうでは姫乃が耳からスマホを遠ざけているだろう。


「今、何て?」


 聞き間違いかもしれない、そう思って姫乃に確認をする。

 しかし────


『家に、来てくれない?』


 聞き間違いではなかった。まぁ、それがわかったところで何かが変わるわけでもないけれど。

 とりあえず理由を聞く。


「何で?」

『筋肉痛で動けないのー。朝ごはん作ってー』

「いや、動こうよ。僕だって筋肉痛だし……」

『鬼ー!』

「そんなこと言われても……」

『来てくれなかったら前に環くんが私の下着見たこと皆にバラすよー』

「は!?」


 待て待て待て待て……それはお願いではない、脅迫だ。意地の悪い言葉に思考が急加速する。

 というかもしバラされたらどうなる?亜美や大悟なら説明して何とかなるかもしれない。でも伊織だけは……考えただけで背筋が凍った。

 おそらく、姫乃は最初からこの言葉を言うつもりだったんだろう。

 そんなわけで、僕の名誉のためにも姫乃の部屋へ行かざるを得なくなった。鬼はどっちだ……


 △▲△▲△▲△▲△▲


 痛みを訴える体に鞭打って1つ上の階へ。

 ほんの少しの距離なのに、とても長い時間歩いたような気がするから不思議だ。

 姫乃の部屋の前に着きインターホンを鳴らす。


『はーい』

「来たけど……」

『助かったー!鍵かけてないから入って』

「え、うん」


 筋肉痛で動けないからって不用心にも程があるだろ、その言葉を飲み込んでおそるおそる扉を開ける。


「お邪魔しまーす」

「どうぞー」


 一瞬、異世界に飛ばされたのかと思った。

 同じ間取り、同じ構造のはずなのに僕の部屋とは全てが違ったから。

 僕は自分の部屋は綺麗な方だと自負している。だけどそれすらも思い上がりだったようだ。

 姫乃の部屋はとても綺麗に片付けられていた。無駄なものなど何一つない、それでいてきちんと女子高生らしいところがある部屋の雰囲気に圧倒されて、僕は立ち尽くしてしまった。


「環くん、入っていーよ?」

「あ、うん」

「もしかして女子の部屋に緊張してるのかな?」

「うるさい」


 姫乃のからかいを受けて彼女を睨むけれど、図星だった。

 でもそれを顔には出さず、彼女に促されるまま、僕は初めて女子の部屋に足を踏み入れた。


「ご飯!」

「第一声がそれって……で、何を作ればいいの?」

「お肉!」

「適当だな!」


 そんなツッコミを入れてキッチンへ向かう。

 キッチンの品ぞろえに関しては僕の部屋と相違なかった。むしろ僕の部屋の方が充実しているかもしれない。

 そう思いながら、ささみのサラダとオムレツを作って机に置いた。


「美味しそう!」

「じゃあ僕はこれで」

「え、もうちょっといてよ」

「何で!?」

「いいからいいから」


 どうやら僕はまだ解放されないようだ。

 何やら不穏な空気を感じながら、姫乃が食べる姿を眺めていた。

 蛇足かもしれないけど、この間にこんな会話があった。


「そんな見つめないでよー」

「どうしろと……」

「テレビでも見ててー」

「あ、はい」


 そうは言われたものの、結局何もすることができずに「課題をどう進めようか」とか場違いなことを考えていた。

 女子の部屋にいる、このことが現実味を帯びてくるのはもう少し後になってからだった。

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