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あの場所でもう一度君と  作者: ましゅ
1章 出会いの1学期
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第1章26話 夏休み(海)③

 海で女子に話しかける男たち、これが何を意味するか分からないほど僕も馬鹿ではない。

 要するに、姫乃はナンパをされているわけだ。

 僕の勘違いかもしれないし、少し様子を見ようと耳を澄ますと、困ったような姫乃の声が聞こえてきた。


「いや、あの……知り合いを待ってるので」

「んじゃそいつ来るまででいいからさァ」


 そう姫乃に話しかけているのは程よく焼けた肌の金髪の男。

 それだけで何か嫌な予感がしてくるんだから、見た目の印象は本当に大事なんだなぁ、と場違いなことを考えていると、男が行動に出た。

 姫乃の腕を掴み、無理矢理連れていこうとする男たち。その下卑た考えが顔に出ていた。

 監視員もいない状況なので誰かに助けを求めることもできないんだろう、姫乃は既に泣きそうになっている。

 男たちのニヤニヤ笑いを見た瞬間、僕の中の何かが切れた。

 気が付けば、何も考えられなくなって一心不乱に姫乃のもとへ駆けだしていた。

 それでも不思議なもので、男たちを目の前にすると冷静な思考が戻ってきた。


「その手、離してもらっていいですか?」

「あ?何だお前」


 突然現れた僕に驚く男たち。しかしすぐに立ち直り低い声で脅してくる。僕も負けじと精一杯の圧を込めて言う。


「彼女、僕の連れなので」

「はぁ?お前みたいなのがか?」


 男たちが大爆笑。

 僕が姫乃に釣り合っていないとでも思ったんだろうか、正直僕もそう思っているから否定はできないけれど。


「じゃあナンパしても断られてるあなたたちは僕以下ってことですね」

「んだと!?」


 男たちの意識から姫乃を逸らすためにわざと挑発する。案の定簡単に引っかかってくれたので助かった。

 男たちが声を荒げたことで、周りの人たちも何事かと集まってくる。何かが起こってからじゃないと動かないんだから、見ていて本当に嫌になる。まぁ、人のことを強く言えないけれど。


「わー怒った」

「てめぇ舐めてんのか?」

「舐めたくもないですって」


 この一言を聞いた見ている人たちの中から笑い声が上がる。

 それが逆鱗に触れたようで、先頭にいた金髪の男が殴りかかってきたけど、仲間の「人見てるって!」という焦ったような制止で動きを止めた。

 殴られたら殴られたで面倒臭いことになるだけなので、そこだけは制止してくれた男に感謝しておく。


「で、どうするんですか?」

「チッ……覚えてろよ」


 いかにも悪役のような捨て台詞を吐いて背を向けた男たちにとどめの「心配しなくてもすぐに忘れるので」という一言。こっちを睨んできたけれど、結局何をすることもできずに去っていった。


△▲△▲△▲△▲△▲


 周りで見ていた人たちのまばらな拍手を無視して姫乃の方に振り返ると、彼女が胸にぶつかってきた。


「怖かったぁ……」

「ごめん、とっさに動けなかった」

「来てくれたから、大丈夫」


 大丈夫と言った姫乃の体は震えていた。気丈に振舞ってはいたけれど、やはり不安だったんだろう。


「ごめん」


 もう一度そう謝り、姫乃の頭を撫でる。ピクッと肩が跳ねたけれど、そのあとは少し安心したように、僕が撫でるのをされるがままになっていた。

 丁度そのタイミングで亜美たちがやって来た。


「姫ちゃん大丈夫!?」

「悪い、俺らがついてれば……」


 そう言った亜美と伊織は、何もできなかったことを心底悔いているようだった。

 そんな彼らを手で制して姫乃が言った。


「大丈夫だよ。環くんが助けてくれたから」

「姫乃を1人にした僕も悪かったから」

「それにしても……」

「ん?」

「まさか環があんな顔するとはな……」


 ……どういうことだ?わけがわからず、続く大悟の言葉を待った。


「あの時のお前の顔、普通じゃなかったぞ」

「そう……かな」

「あぁ、今までのお前からは想像がつかねぇ」

「まぁ、姫乃をあの人たちに取られるわけにはいかなかったし.」


 そう言うと、何故か姫乃だけでなく女子全員が顔を赤くした。

 大悟と伊織も「お前、その発言は……」とか言って笑っている。何かまずいことでも言ってしまったんだろうか。

 疑問に思っていると、大悟が耳元で教えてくれた。


「それ言っちゃうと『好きだ』って言ってるようなもんだぞ」

「なっ!?」


 僕の叫びが大空に響いた。

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