第1章22話 海に行く前に
すみません、まだ海に行きません。
海に行くまで残り4日、ここになって僕は重大なことに気が付いてしまった。いや、寧ろここで気が付くことができて良かったのかもしれない。
僕は学校用の水着以外持っていなかった。
さすがに学校用で海に行くわけにはいかない、そういう理由があって今僕は以前姫乃とやって来た駅に併設されている大型ショッピングモールの水着売り場に来ていた。
「んで、環はどんな水着がいいんだ?」
当たり前だけど、僕にはこんな場所に1人で来る勇気はない。無理を言って大悟に一緒に来てもらった。「貸し1つな」と言われたから、どこかで何かを返さなければいけないだろう。
「水着かぁ……あんまり派手じゃなければ何でもいいんだよな」
「ま、男だしな」
「うん、だから……」
そう言って手に取ったのは、何の飾り気もないシンプルな黒い水着。これならどこへ行っても恥ずかしくはないだろう。
「いや環、もう少し遊び心持とうぜ?」
笑いながら大悟が持ってきたのはオレンジ色の水着。布地にあしらわれているのはヤシの木だろうか。いかにもハワイアンといった感じの水着だった。
「冗談でしょ?絶対似合わないって」
「いやいや、分かんねえぞ?」
ニヤニヤ笑いながらそう言ってくる大悟。その顔は絶対似合わないと分かって言っている顔だ。
「そんなに言うんだったら大悟が買ったら?」
「お、言うじゃん。別に俺はいいぜ?」
「……マジ?」
「マジ」
そのまま大悟はレジまで向かっていった。
そんな大悟に尊敬の念を抱きながら、僕も選んだ水着を持ってレジに並んだ。
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水着を買い、昼食を食べるためにフードコートへやって来た。
「大悟、奢るよ」
「いいのか?」
「貸しをいつまでも残したくない」
「なるほどな」
そんな会話をしながら何を食べようか迷っていると、いきなり声をかけられた。
「あれ、大悟くんと環くん?」
その声に振り返ると、そこにいたのは瑞希だった。ただし買い物目的で来たわけでないのは一目で分かった。何しろフードコート内の店の制服を着ていたから。
「久しぶり、バイト?」
「うん。環くんたちは?」
「こいつは水着買いに来た。俺はその付き添い」
「大悟、君も水着買ってたじゃん……」
「まぁな。んで今から昼飯」
「そっか。じゃあここにしなよ」
何を食べたいか決めていなかったので、瑞希に言われた通りにする。瑞希のバイト先はラーメンのチェーン店で、夏だということもあり、冷やし中華を注文してから席に座った。夏休みだからか、フードコートの混み具合が尋常ではなく、仕方なくカウンター席に座る。
冷やし中華ができるのを待っている間大悟と話しているけれど、大悟が唐突にこんなことを言ってきた。
「環って姫乃のこと好きなのか?」
「ブッ…………は?」
思わず口に含んでいた水を吹き出してしまった。盛大に噎せてから大後を睨む。大悟は僕の視線などどこ吹く風で、言葉を重ねていく。
「だってさ、そうじゃなきゃあんなことしなくね?」
そう言われたところで、渡された呼び出しベルが鳴った。動揺した気持ちを落ち着かせるため、それと冷やし中華を取りに行くために僕は席を立った。
まったく、大悟は何を言い出すんだ……




