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あの場所でもう一度君と  作者: ましゅ
1章 出会いの1学期
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第1章19話 環と姫乃の夏祭り②

 夕方、エントランス前で準備を終えて姫乃を待つ。

 暫くして、まだ少しおぼつかない足取りで姫乃がやって来た。そんな姿を見ていると下まで呼んだことに少し罪悪感を感じるけど、これから僕がすることでどうか許して欲しい。


「環くん来たよー……ってこれどうしたの!?」


 姫乃が驚くのも無理はない、今彼女の目には法被を着た僕の姿が写っているはずだ。それだけではなく、外に準備されたホットプレートも。

 これだけ見ると、何が何だか分からないだろう。


「ん、これ?管理人さんにお願いして用意してもらった」

「いや、そうじゃなくて……」

「あぁ、簡単な夏祭り的な?さすがに今の姫乃を外に出すのは不安だしね」

「そのためだけに……?」

「まぁ、僕が人混みが苦手っていうのもあるんだけど」


 そう言うと姫乃は笑った。

 これだけで喜んでしまって、後からのサプライズに対応できるんだろうか。そんなことを思ったけど、面白そうなので言わないでおく。


「じゃあそろそろ始めるけど、準備はいい?」

「うん!」


 元気よく返事をした姫乃に笑みで応えて、ホットプレートの電源を入れる。今から作るのは夏祭りの屋台っぽく焼きそばだ。


△▲△▲△▲△▲△▲


 作り始めて10分弱、辺りにソースの香ばしい匂いが漂い始めた。焼きそばを作るのは久々だったけど、どうやら上手くいったようだ。

 丁度そのタイミングで管理人さんもやってくる。その手にはたこ焼きの生地が抱えられている。


「柏木君、頼まれてたもの作ってきたぞ」

「ありがとうございます」


 焼きそばだけだと味気ないので、たこ焼きも作ることにしていた。ただ、生地作りと焼きそば作りを同時にやるのは難しかったので、たこ焼きの生地は管理人さんにお願いして作ってきてもらった。

 完成した焼きそばを皿に移して、ホットプレートをたこ焼きプレートに変える。たこはさっきスーパーで買ってきたものを使う。


「それにしても柏木君がここまで料理ができるなんて知らんかったわ。今度ご馳走になろうかな」

「あはは、いいですよ?」

「本当かい。楽しみやなぁ」


 そんな会話をしているとたこ焼きプレートも温まってきたようで、生地を半分ほど流し入れる。たこを均等に入れて、その上にまた生地を流し込む。

 そんな様子を姫乃は興味津々といった表情で覗き込んでくる。一人暮らしでたこ焼きをやるなんてあまり考えないから、少し珍しいのだろう。


「美味しそう……」

「でしょ?もう少し待ってて」

「うん!……でも、何か多くない?」


 姫乃がそう指摘するように、作っているのはどう見ても2人分ではない。もちろん考えがあってそうしているから、僕からすれば何ら不思議ではないけど。


△▲△▲△▲△▲△▲


 そして漸く完成。

 エントランス前に出された折り畳み式の机の上には、焼きそば、たこ焼き、そして焼きとうもろこしが並んでいる。

 焼きとうもろこしは、管理人さんが用意してくれたものだ。醤油の香ばしさが漂っている。


「環くん、もう食べていい?」

「いいよって言いたいところだけど、まだダメ」

「え、何で?」

「ちょっとしたサプライズだよ」


 そうやって姫乃を焦らしていると、前から足音が聞こえてきた。姫乃は僕の方を向いているからまだ気づいていないはずだ。


「遅かったね」

「……?」


 姫乃が何事かと振り返って動きを止めた。

 そこにいるのは亜美、大悟、伊織、瑞季。

 姫乃は何が起こっているかわからないというように目を白黒させている。


「え……どうして?」

「僕が呼んだ。どうせならちゃんと夏祭りっぽくしたいでしょ?」

「姫ちゃん大丈夫?」

「熱中症だってな。気をつけろよ?」


 姫乃は何も言わなかった。いや、言えなかったという方が正しいかもしれない。そして漸く絞り出した一言は……


「皆……ありがとう」


 こうして、僕たちだけの秘密の夏祭りが始まった。

台風にはお気をつけ下さい。

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