第1章17話 夏休みと約束
なかなかに濃かった1学期が終了し、校長の長い話を我慢して漸く夏休みに突入した。
ちなみに終業式で受け取った成績、亜美が「見せてほしい」と言ってきたので見せたら足を踏まれた。解せない。
正午、照りつける日差しを避けるように日陰を見つけて下校する。
亜美は別の友だちと帰り、大悟は部活のために学校に残っている。
そんなわけで僕の隣では姫乃がニコニコしながら歩いている。そんなに夏休みに入ったのが嬉しいんだろうか。
「いやー、待ちに待った夏休みだねぇ」
「課題は多いけどね。あと補習」
そう言うと姫乃の表情は一転、何とも言えない表情になった。
「何で現実を思い出させるかなぁ……」
「いや、忘れちゃ駄目でしょ」
「そうだけどさぁ、雰囲気ってもんがあるじゃん?」
「雰囲気?」
「こう、なんていうか『夏休みだ!』って感じの。その喜びを感じたいんだよ」
「ふーん」
「あ、理解してないでしょ」
理解してないというか、理解はできるけど僕は『喜び』は感じないからな。
こんな暑い中遊ぶくらいなら涼しい教室で勉強している方がよっぽどいい。インドア派の僕からすれば、電気代を気にせず冷房の効いた部屋の中にいれるなんて幸せでしかない。
「うーん……あ、そうだ!」
何か考えていた姫乃は、マンションの前にある住民用掲示板に貼ってあるポスターを指で示して言った。
「これ、一緒に行かない?」
ポスターに書いてあるのは地域の夏祭りのこと。開催日は7月25日。
今年この街に越してきたばかりの僕はよく知らなかったけど、大悟曰く「地域の祭りにしては規模が大きく、たまにニュースでも放送されている」らしい。
そんなこともあって人の多さも尋常ではなく、それ故に僕は「行きたくないなぁ」と考えていた。
「祭りかぁ」
「嫌だった?」
「嫌っていうか、人が多いところが苦手なんだよ」
「大丈夫、私穴場知ってるから」
「穴場?」
「うん、亜美に教えてもらったんだ。全然人が来ないんだって」
人がいないのであれば行ってもいいかもしれない。そんなことを思いながら返事をする。
「そっか、じゃあみんな誘──」
「違うよ、『2人で』行きたいんだよ」
「2人?」
突然の告白に思考が停止した。
何故、とか僕なんかでいいのか、とか色々な考えが頭をよぎった。それでも目の前の真剣な瞳で見つめられてしまえば、断るという選択肢は無くなってしまう。
「わかった、楽しみにしてる」
「うん、約束ね」
──約束。
その姫乃の言葉を聞いて、先日見た夢を思い出した。思わずあの少女と姫乃の姿を重ねてしまう。
そんなことあるはずがない。そう自分に言い聞かせて、目の前の姫乃の姿を見つめる。
僕に見つめられることを不思議に思ったのか、姫乃が少し頬を染めながらおずおずと尋ねてきた。
「環くん?」
「ごめん、なんでもないよ」
「あ、そう……」
そう言った姫乃は少し拗ねたように先に歩いて行ってしまった。
少しジロジロ見すぎたかもしれない、もう少し女心を勉強するべきか。そう反省しながら姫乃の後を追った。
昼夜の気温差が激しい……