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あの場所でもう一度君と  作者: ましゅ
第5章 お泊まり会とデート
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第5章幕間 お泊まり会終了

まぁこれも第5章じゃね?ということでこのお話。


 目を覚ますと、そこは楽園(エデン)でした。

 なんて少し格好つけて言ってみたけれど、何のことはない。ただ目の前に愛しい彼女の顔があっただけだ。けれど……彼女の寝顔が天使すぎて、目を覚ましたばかりなのに天に召されてしまいそうになる。

 とまぁ冗談(と言いきれないのが怖い)はさておいて、失礼だとわかっていながらも彼女の寝顔を眺めてしまうわけだ。

 シミ一つない陶器のような真っ白い肌。閉じられた瞼を縁どる長い睫毛。薄紅の瑞々しい唇……。その全てが彼女の名前である「姫」に相応しいものに思えて、彼女の家庭の事情を知りつつも、「姫乃」という名前をつけた面識もない彼女の両親のセンスに感謝してしまったりした。いやまぁ、許せないんだけど。

 そんなどうでもいいことを考えながら姫乃の寝顔観察会を1人厳かに執り行っていると、姫乃が軽く身じろぎをした。そして「んゆぅ…………」というよく分からない可愛らしい寝ぼけ声を上げた後、そっと瞼が持ち上がった。


「おはよう、姫」


 ぼーっと焦点の定まらない瞳でしぱしぱと瞬きをする姫乃にそう声をかける。段々と姫乃の瞳に光が射していって、しっかりと僕のことを見つめてくるのがわかった。


「環くん、おはよ」


 えへへ、と未だ寝ぼけたように含羞む姫乃が無性に可愛く思えて、無防備な額にそっと唇を当ててしまった。


「んっ、くすぐったい……」

「姫乃が可愛すぎるのが悪い」

「何それ」


 これ以上一緒にベッドに寝ていると、そろそろ僕の理性が崩壊しかねない。いくら日曜日とはいえそろそろ朝食を作らないといけないだろう、なんてそんな言い訳めいたことを考えながら部屋にかけられた時計を見て、固まった。


「…………11時?」


 どうやら昨日は自分で思っていた以上に疲れていたらしく、たっぷり12時間近く眠ってしまっていたようだ。単に姫乃が一緒に寝てくれたのが心地よかっただけなのかもしれないけれど、さすがにこれは寝すぎではないだろうか。


「やー、寝すぎたねぇ」


 暫く呆気に取られたまま硬直していると、漸く完全に覚醒したらしい姫乃も体を起こして僕の横に座った。そして僕と同じように時計が示す時間を見て、呆れたように苦笑した。


「朝食っていうよりブランチ……いや、これもう昼食だよな」

「ぶらんち?」

「えっと、朝食と昼食を兼ねたご飯のこと。breakfastとlunchから取ってるみたい」


 こてん、と首を傾げた姫乃にブランチの説明をすると、姫乃は何度かふむふむと頷いて、言った。


「確かにこの時間だとお昼ご飯かもね」

「そうなんだよなぁ……何か勿体ないことした気分──」


 とそこまで言いかけた時、『くぅ……』という可愛らしい音が部屋に響いた。音の発信源である姫乃を見ると、恥ずかしそうに顔を真っ赤に染めてお腹を押さえて震えていた。


「あ、あはは……ご飯の話してたらお腹空いてきちゃった」

「そっか。じゃあ何か作るけど、何がいい?」

「環くんの作ったものなら何でもいいので早く食べたいです」


 欲望に正直に、大真面目にそう言いきった姫乃。そんなにお腹が空いていたのか。と、今度は少し大きな『ぐぅ……』という音が響いた。もちろん音の主は僕。


「環くんもお腹空いてるんじゃん」

「あはは……じゃあ色々準備してくるから、姫はここで着替えてくれる?」

「りょーかいしました」


 元気よく返事をした姫乃の頭を軽く撫でて、僕は部屋をあとにした。冷蔵庫に何が入っていたっけ……。


△▲△▲△▲△▲△▲


 トーストとオムレツ(カルボナーラソース添え)、サラダという非常に簡素なブランチを終えた僕達は何もすることがないままぼーっとしていた。デートらしいことは既に昨日あらかた終わらせてしまっているし、何より疲れが溜まっている。

 頭の中で色々考えて、このまま何もしないのもまた一興。そんな結論に至ったところで、妙にそわそわしている姫乃から声をかけられた。


「ね、環くん」

「ん?」

「そろそろお暇させていただきます」

「え?」


 唐突に「帰る」なんて言われては、固まってしまうのも無理はないだろう。僕といるのが嫌になったわけではない、そう思いながらも一抹の不安をぬぐい去ることができずに尋ねてしまう。


「あー……もう嫌になったとかそういう感じ?」


 チキンハートの持ち主である僕は、主語をぼかして尋ねることしかできなかった。しかし僕が言わんとすることは姫乃にも伝わったようで、姫乃はすごい勢いで首を左右に振った。そのせいで、ふわりと柑橘系の香りが漂った。


「違う違う! 嫌になるわけない!」


 ……それはありがたいんだけど、こうも真っ向から「嫌になるわけない」と真っ赤な顔で告げられると、言われたこっちの頬も熱くなってくる。それを誤魔化すように、僕は姫乃に理由を聞いてみた。


「じゃあ何かあるの?」

「あ、あー……」


 僕の問いに対して、どこか遠い目をした姫乃。もしかして踏み込んではいけない領域に踏み込んでしまったのではないか。そんな別の不安が生まれ、僕は張り詰めた空気の中で姫乃の次の言葉を待った。


「あの、ですね」

「……うん」

「非常に言いづらいのですが──」


 ごくり、と唾を飲む音がやけに大きく聞こえた。


「──課題がまだ終わってなくて」

「………………へ?」

「だから、課題が終わってないの」

「いや、それはわかるけど……課題ってあの課題?」

「環くんの辞書に他にどんな課題があるのかはわからないけど、あの一般的な課題です。学校で出されるやつ」


 あぁ、そういえば文化祭前に出されたっけ。確か先生から「文化祭明けに提出」と言われたような気がする。だけど課題が出されたのって──


「──先週の月曜日だよね?」


 月曜日に課題が出され、火曜日に終日準備、水木金と文化祭。月火の2日間あれば余裕を持って片付けられる量だったとは思うけど。

 そう思っての言葉だったんだけど、姫乃は「うぐっ」と変な声を上げた。


「文化祭の空気に当てられ浮かれていましたごめんなさい」


 まぁ、言いたいことは分かる。僕も楽しみすぎて真面目に取り組んだ記憶がないから。終わらせてはあるんだけど。


「あ、そういうこと。だったら手伝うけど……」

「これ以上は甘えられません! 自分の力で終わらせます」

「あ、そう……だったら姫の決断を尊重するよ」


 そう言うと、姫乃は「ありがとう」と言ってから、ソファから立ち上がって僕の部屋へと歩いていった。どうやら荷物をまとめに行ったようだ。

 そして十数分後。


「環くん、お世話になりました」

「いや、そんな今生の別れみたいに言わないでよ」

「あはは。また泊まりに来てもいい?」

「もちろん、大歓迎」

「そっか。じゃあまた明日ね」

「うん」


 予期せぬ延長もしたお泊まり会は、そんな感じで比較的穏やかに終わりを迎えた。

 ただまぁ、寂しいのは確かなんだけど。


こんな感じで第5章(本当に)完結!

次回から短編だらけの第6章!

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