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あの場所でもう一度君と  作者: ましゅ
第5章 お泊まり会とデート
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第5章29話 気まずい就寝

ごめんなさいm(_ _)m

時系列的にもハロウィンネタは難しかった!

やりたかったんだけどねぇ……


そんなわけですので前の話の続きからになりまーす。


 お風呂から上がった姫乃は、のぼせたのか顔を真っ赤にしたままリビングのソファに突っ伏した。ソファが濡れないように律儀に下にタオルを敷いてくれている。いや、まぁ……のぼせたわけじゃないのはわかってるんだけど。


「ひ、姫……とりあえず僕も風呂行くけど」

「…………」


 一応報告はしたが、返ってきたのは沈黙だけ。よっぽど恥ずかしかったのか、僕と会話をする元気もないようだ。……さもありなん。この件に関しては僕に言えることは何もない。

 姫乃が心配ではないのかと聞かれたらもちろん心配だけど、今はそっとしておく方がいいだろうと思い、静かに脱衣所へ向かった。


 まだ始まったばかりとはいえ、秋になるとさすがに夜は冷え込んでくる。服を脱いだ時に思わずくしゃみをしてしまうくらいには寒かった。

 極力脱衣籠を見ないようにしながら服を脱ぎ、急いで浴室の扉を開けて中に入る。掛け湯をしてから浴槽に足を入れると、痺れるようで弛緩するような、一瞬にしてそんな心地良さに包まれた。そのまま肩まで湯に浸かり──ふと思う。


「風呂のお湯、抜いてないんだよな……」


 無意識のうちに口からこぼれたその呟きは、誰に聞かれるわけでもなく、ただ浴室に反響して自分の耳に届いた。

 自分が何を口にしたのか理解した途端、のぼせるより激しく顔が熱くなった。

 昨日は僕が先に入ったから深くは考えなかったけれど……姫乃が入った直後の湯に自分が浸かっているとなると、何となく罪悪感というか、いけないことをしているような気になってしまう。単純に気にし過ぎだと頭の片隅では理解しているんだけど、どうしても動揺の方が大きくなってしまう。


「………………シャワーで済ますか」


 自他ともに認めるヘタレである僕は、堂々と湯に浸かることなどできるはずもなく、湯船から上がってシャワーで体を洗うことにした。


△▲△▲△▲△▲△▲


 手早く頭と体を洗い浴室を出た。十分温まったとは言い難いけれど、気をつけていれば風邪をひくこともあるまい。だけど、そうは思いつつ頭を乾かさないままリビングへ向かってしまうのは僕の悪い癖だろう。

 リビングへ戻ると、姫乃はソファに座ってテレビを見ながら紅茶を飲んでいた。そういえばお湯を沸かしていたっけ。

 僕が入ってきたことに気づいたらしい姫乃は、僕の方を見ないまま「お湯が沸かしてあったので紅茶を飲んでます」と感情の見えない声でそう言った。というか何故敬語?


「いや、それはいいけど……そろそろこっち向いてくれない?」

「…………」

「姫にとって恥ずかしかったのも分かるし、それに関しては本当にごめん」

「……別に環くんが悪いわけじゃないけど」

「そう言ってくれるのはありがたいです。ただ、非常に寂しいといいますか、その……」


 我ながら女々しすぎる発言だ。しかしそれ以外に自分の気持ちを伝える方法が見つからなかったため、そう言いながらソファの姫乃の横に座る。かすかに腕が触れ合った瞬間、ぴくっと姫乃の肩が跳ねるのが伝わった。


「……お見苦しいものをお見せしました」

「全然見苦しくない……ってそうじゃなくて、いや、そうなんだけど」


 突然の姫乃の呟きに思わず本音で返してしまった自分が嫌になる。ぱちくりと大きな丸い瞳で、上目遣いになって僕の顔を見つめてきた姫乃は、次第に唇が弧を描き、薄紅に染まる表情で僕に向かって言った。


「……えっち」


 …………まぁ、そうなりますよね。

 確実にからかわれているが、姫乃の機嫌が元に戻ったようだしよかった──いや、よくはないんだけど、とりあえずは一件落着なのかな?


「姫、からかいすぎるとどうなるのかいい加減覚えようよ」

「……ふぇ?」


 ニヤニヤと余裕のある笑みから一転、僕の言葉を聞いた姫乃の表情が凍りついた。いや、別に何かをするつもりではないんだけどね。


「あの、すみませんでした」

「素直でよろしい。何もしないから安心して」

「はーい……」


 これくらい釘を刺すおけば大丈夫だろう、そう思って不安げな表情をしている姫乃の頭を優しく撫でる。姫乃はすぐにくすぐったそうな笑みを浮かべた。


△▲△▲△▲△▲△▲


「さて、と……そろそろ10時か」

「10時だね」


 テレビを見たり軽いスキンシップをしたりしているうちに、あっという間に夜10時近くになってしまった。昨日はだいぶ遅くまで起きていたし、今日も結構歩いたし、僕としては疲労が溜まっている状態だ。それはおそらく姫乃も同じこと。何故なら──


「そろそろ寝る?」

「んー」

「……姫?」

「…………んー」


 ──何を聞いても曖昧な答えしか返ってこないから。

 昨日今日と姫乃に無理をさせてしまった気もするし、何より文化祭の疲れもまだ抜けてはいないはずだ。今日はもう寝室に向かわせた方がいいかもしれない。


「姫、ちょっとごめんね」

「んー……わっ」


 寝ぼけている姫乃の背中と膝裏に手を回し、優しくそっと持ち上げる。柔らかく、それでいて細い姫乃の体はやはりというか、軽い。突然お姫様抱っこをしてしまったにも関わらず、姫乃は小さく声を上げただけで以前のように暴れることはなかった。こうされることに慣れたのか、あるいは単に疲れすぎているだけか。

 くすくすと小さな笑い声を上げながら運ばれる姫乃は、寝室の前に着くと自分で扉を開けてくれた。


「ありがとう」

「んー、どういたしましてー」


 自室に入って姫乃をベッドの上に横たわらせる。姫乃が素直に布団の中に潜り込んだのを確認して、「おやすみ」と声をかける。僕も寝るためにソファに向かおうと部屋の電気を消して背を向けたところで、きゅっと服の袖を掴まれる感覚があった。

 振り返ると、拗ねたような表情になった姫乃が布団から顔を覗かせていた。


「あの、姫?」

「環くん、何か忘れてない?」

「な、何をかなー?」

「……環くん、誤魔化す時目が泳ぐんだよね」

「え、まじ?」

「嘘。暗いからよくわかんないよ。でも、逃がさないからね」

「……っ」

「一緒に寝るって約束、忘れたなんて言わせないよ」

「…………はい」


 姫乃が寝ぼけているなら大丈夫だろう、なんて甘い考えはすぐに打ち砕かれた。完全に僕が悪いのはわかっているんだけど……姫乃さん、もしかして寝ぼけてたのは演技だったんでしょうか。

 果たして今夜は(正しくは今夜())眠れるのだろうか。


次回、またもや環くんが寝れなくなる(予定)

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