表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あの場所でもう一度君と  作者: ましゅ
第5章 お泊まり会とデート
140/144

第5章28話 夕食後のハプニング

お待たせしましたぁ!


 気がつけば夕食が完成し、それどころか完食までしていた。姫乃とも一緒に食べていたはずなんだけど、どんな会話をしたとか記憶が全くない。覚えているのはカルボナーラを食べたことだけだ。

 夕食時のことを思い出そうとしながら食器や調理道具を洗っていると、突然隣から甘い匂いがした。驚いて横を見ると、姫乃が僕を見上げていた。何ていうか、心臓に悪いな。


「どうかした?」

「手伝おうかなーって」

「いや、もう少しで終わるから手伝いとかはいいんだけど……」

「そっかー、じゃああっちで待ってるね」

「あ、うん」


 とててて……と可愛い擬音が似合う小走りでソファに戻った姫乃は、そのままぽすっとソファに座った。

 え、なにこれ。すごい可愛いんだけど。

 頭の中は「可愛い」の一言で埋め尽くされて、危うく食器を落としてしまうところだった。慌てて食器を持ち直しながら深呼吸をして自分を落ち着かせていると、ちょうど風呂が湧いたのを電子音が知らせてくれた。


「姫、先入っといで」

「はーい」


 することがなくて暇だったのだろうか、姫乃は随分あっさりと部屋に着替えを取りに行った。それにしても、昨日はお互いあんなに気まずい状況になっていたのに……慣れって怖いなぁ。


△▲△▲△▲△▲△▲


 昨日の経験上、姫乃は結構長風呂──まぁ女の子なんだから当然だけど──だということがわかったので、姫乃を待つ間にコーヒーと紅茶を用意することにした。コーヒーが自分用で、紅茶が姫乃用だ。ちゃんと砂糖たっぷりで甘くしておくことも忘れない。


 数分ほど経過して、漸くお湯が沸き始めた、まさにその時だった。


「きゃぁぁぁぁ!!」

「…………!?」


 お湯の沸いたやかんが “シュー” っと音を立てたのと同時に、浴室から悲鳴が聞こえてきた。慌ててコンロの火を止めて、悲鳴がした方(浴室)に目をやる。するといきなり視界に飛び込んできたのは、タオル一枚を身にまとっただけの、非常に無防備な姫乃がこちらに向かってくる光景だった。


「ちょ、姫!?」

「たたた環くん助けてっ!」

「助けてって…………ちょ!?」


 何を血迷ったか、姫乃はタオル一枚の格好のまま僕の腕にしがみついてきた。当然、ずっしりと質量のある柔らかな果実が腕に押しつけられる。愛しい彼女にそんなことをされては冷静でいられるわけがない。風呂から飛び出してきたからだろうか、非常に温かく、それ以上に柔らかい……そんな感想が頭を何度もよぎる。引き離そうにも信じられないくらいの力でしがみついてきて離せない。もはや為す術がなかった。


「ひ、姫!?」

「お、お風呂に蜘蛛がいるぅ……虫やだぁ」

「わかった、わかったからとりあえず離れて!」


 どうやら浴室に招かれざる客(蜘蛛)がやってきしまっていたらしい。風呂場という基本1人の場、それも無防備な状態で蜘蛛に出くわしてしまうのは、女子からすると確かに怖いだろう。

 それはわかる、のだが……さすがにこの状況は精神的に辛い。このままでは蜘蛛を退治しに行く前に僕が行動不能に陥ってしまう。具体的には、そう……しゃがみこむことになってしまう。世の男性諸君ならこの気持ちをわかってくれるだろう。

 動揺した僕は思わず腕を動かしてしまった。それがまずかった。

 本当に予期せぬタイミングで僕が腕を動かしてしまったわけだから、必然的に肘を豊かな果実に押し付ける形になってしまう。

 そして、その結果──


「……んっ」


 ──微かな、それでも艶のある姫乃の嬌声が僕の耳に届いた。


「っ、ごめん」

「ん、んーん、大丈夫。そ、それより早く蜘蛛どっかやって!」

「……わ、わかった」


 姫乃は何も無かったかのように僕を浴室の方をおしやるわけだけど、あの声を忘れられるはずもない。僕は何度もため息をついて心臓やら諸々を落ち着かせながら何とか浴室に辿り着いた。

 件の客は何処にいるのか……浴室の扉を開けてみると、親指の爪ほどの大きさの蜘蛛がバスタブの縁に鎮座していた。微妙に大きいな。できることなら僕も逃げ出したい。

 とはいえ毒を持っているわけでもあるまい。静かに浴室を出て部屋からちりとりを持ち出して素早く浴室に戻る。そっとちりとりを向けてみると、何の警戒もなくちりとりの上へ飛び降りてきた。思ったよりも素直だったな。

 ここで窓を開けて某アニメのエンディングみたいにやってみたくなるのは、大悟からオタク知識を埋め込まれたことによる悪い癖だろう。というかまぁ、実際にやったんだけど。


△▲△▲△▲△▲△▲


 リビングに戻ると、不安げな表情で立ち尽くす姫乃と目が合った。視線でもう大丈夫なのかと訴えかけてくる姫乃を安心させるように声をかける。


「姫、もう大丈夫だよ」

「ほ、ほんと?」

「うん」


 嘘をつく理由もないので、条件反射で頷いておく。すると姫乃は漸く恐怖から解放されたらしく、盛大なため息をついた──と思ったら、「くしゅんっ」と可愛くくしゃみをした。当然だろう、僕が蜘蛛を逃がしている間、ずっとタオル1枚でここにいたんだから。


「とりあえずもう一度風呂入っといで」

「そ、そうさせてもらいまーす」


 姫乃は今更ながら自分の格好に気がついたのか、ぽっと頬を赤らめて浴室まで駆けていった。

 それを見届けた僕はそこでしゃがみこむことになったんだけど、それはここだけの話で、墓場まで持っていくつもりの話だ。


そろそろハロウィンですね。

番外編としてハロウィンネタでもぶっこみましょうかね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ