番外編 1年後
連載一周年記念ということで、番外編。
時系列的には2人が付き合い始めた翌日、まだ陽向が登場する前で、もちろん姫乃は環の秘密を何も知らない状況です。それどころか環くんがまだ彼女のことを「姫乃」と読んでいる時代(?)のお話ですw
そんな前のことを書いていたので、懐かしさに浸ることができました。
とりあえずどうぞ!
「ねぇ、環くん」
僕と姫乃が付き合い始めた翌日、2人並んで登校していると、姫乃は突然僕の名前を呼んだ。
「ん、どうしたの?」
「えっとね……環くんの誕生日っていつなのかなーって」
「誕生日……いつだっけ」
「へ?」
いや、待ってください姫乃さん。そんな「何コイツ自分の誕生日もわからないの? 馬鹿なの?」みたいな呆れた目で見つめてこないでください。これには深い事情があるんです──それでもまだ、言う覚悟はできていないけど。
家庭環境がある意味特殊だったせいで、誕生日を祝ってもらった思い出がないんだ。……これを姫乃に言えるのは一体いつになるんだろうか。
と、そんなことを考えながら胸ポケットから生徒手帳を取り出して確認する。
「お、あった。4月8日らしいよ」
「『らしいよ』って……自分のことだよね?」
「あはは……」
申し訳なさとか色々な感情がごちゃ混ぜになって、曖昧な笑みで誤魔化すことしかできなかった。そんな自分が不甲斐なくて、思わず唇を噛んでしまった。
幸い姫乃は別のことに気を取られていたようで、僕の表情変化が彼女に気づかれることはなかったんだけど……姫乃は何故か「むむむ……」と唸っていた。
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突然何かを考え始めた姫乃を見て、何か失言でもしてしまったのかと不安になる。
でも、その心配も杞憂だったようだ。
「姫乃?」
「んー……じゃあ今年は環くんの誕生日祝えないのかぁ」
「──っ。ごめん」
「いやなんでそこで謝るの……」
またもや呆れを隠そうともしない表情で見つめてきた姫乃。頼むからその表情はやめてください。
とりあえず僕は軽く咳払いをして空気を元に戻す……というか露骨に話題を逸らす。
「ひ、姫乃の誕生日は?」
「私? 11月11日だよ」
「まさかのゾロ目……でも覚えやすいね」
「そう! 覚えやすいのはいいんだけどね──」
「……? 他に何かあるの?」
そう尋ねると、姫乃は遠い目をして呟いた。
「友達がくれる誕プレがいっつも同じなんだよね」
「あぁ……なるほど」
姫乃が何を貰っていたのかはだいたい察した。触れて欲しくなさそうだったので、これ以上は追及しない。その代わりに1つ提案をしてみる。
「じゃあ、今年はケーキでも用意するよ」
「っ! 環くんの手作り!?」
「姫乃が望むなら」
「望む望む! 環くんの手作りケーキ……へへ」
姫乃は一瞬で恍惚の表情になって、「ケーキケーキ」とうわ言のように何度も呟いていた。え、何? 怖い……。食べる前から依存症になったみたいな表情をしないで欲しい。というかそこまで期待されると胃が痛くなりそうなんだけど。
「そ、そんなに期待されても困るんだけど」
「そりゃあ期待するよ。環くんが作ってくれるんだもんっ」
「ありがとう」
姫乃が僕の料理を褒めてくれるのは素直に嬉しかったので、そうお礼を口にすると、突然姫乃は我に返ったように首を勢いよく横に振った。勢いが良すぎて髪が乱れてしまっている。
「──って違ーう!」
「姫乃?」
漸く落ち着いた姫乃は、手櫛で髪を整えながら拗ねたように言った。
「環くんが私の誕生日を祝ってくれるのは嬉しいけど!」
「う、うん」
「1年後……7ヶ月後? は私が環くんの誕生日を祝ってあげるからね」
姫乃が何の迷いもなくそう言いきったので、思わず笑みが浮かぶ。そんな僕を見て、姫乃は不思議そうに首を傾げた。
「どしたの?」
「いや……来年のことまで考えてくれてるのが嬉しくて」
「当然じゃん、彼女なんだから」
にっこりと屈託なく笑った姫乃の笑顔が眩しくてつい目を細めてしまう。本当に、姫乃が僕の彼女でよかった。姫乃の彼氏になれて、本当によかった。
ただ、その分だけ彼女に秘め事をしている申し訳なさが、重く心にのしかかる。なるべく早く話すことにしよう、と姫乃の瞳を見つめて、確かに覚悟を決めた。
「姫乃」
「んー?」
「来年の今頃は、1周年記念の何かをするのもいいかもね」
「それいいかも!」
「でしょ?」
「うん! ずっとずーっと一緒にいようね!」
環たちの誕生日を設定していたのを忘れててこの話を書いたとしたら恥ずかしいどころの騒ぎじゃないな。………………大丈夫、ですよね?
あ、姫乃が毎年貰ってる誕プレ、皆さんわかりましたよね?