第5章25話 一方その頃③
何とか今日も更新できましたね。
【環と姫乃さんのデートに突撃してダブルデートにする】というなかなかに鬼畜な決定を下した亜美は、「凪沙さんのお手伝いしてくる」と言って俺の部屋から出ていった。数秒後に母さんの「亜美ちゃんはいいお嫁さんになるわねぇ」という声が聞こえてきたのは気のせいだろう。
まぁそれはそれとして、彼女の手料理が食べられるんだから俺としては文句はない。ただ、亜美がいなくなってしまって、何をしていいのかわからなくなってしまった。
「……一応環に連絡するべきだろうな」
ご存知の通りガラスの心臓かつチキンハートな俺は、冷静になった途端ビビり始めてしまった。突撃したとして、アイツらに嫌われてしまった場合、1日、いや2日は立ち直れなくなるような気がしてきたからだ。
『環、すまん 午後はお前らの所に突撃するかもしれん』
この文章を送っておけば環も何かしらの対策はとってくれるだろう。そう思ってのメッセージだったんだが、10分経っても既読が付く気配はない。おおかたデートに夢中になってスマホに触れていないんだろうが……これはまずいな。本当に不意打ちになりかねない。
どうしたものかと暫く頭を悩ませていると、階下から「ご飯食べれるよー」という亜美の声が聞こえてきた。……まぁ、なるようになるか。
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亜美が作ってくれたのは焼きそばだった。いや、昨日まで文化祭でひたすら焼きそば作ってたよな? あ、だからか。
「亜美ちゃん焼きそば作るの上手だったよ」
「えへへ、ありがとうございます」
そりゃあ文化祭で作りまくってたしな、というツッコミを何とか飲み込んで、「いただきます」と呟いて食べ始める。そのタイミングで何やらニヤニヤとした笑みを浮かべていた亜美が一言。
「隠し味は、愛情……だよ?」
「ぶっ!?」
まさか自分の彼女がそんなド定番なセリフを口にするとは思わず、動揺してしまった。涙を浮かべて噎せる俺を見て、母さんが小さく呟く。
「アンタ……さすがにチョロすぎじゃない?」
「…………うるせえよ」
俺がチョロいことなんて自分が一番知っている。それでも人から言われるのは少し傷つくものがあり、落ち着かせるようにお茶を一口含んだ。
突如視線を感じて顔を上げると、亜美はどこか拗ねた様子で俺の顔を見つめていた。
「あの……亜美?」
「せっかく彼女がお昼ご飯作ってあげたのに感想もないんですかー?」
「あ、悪い。すげえ美味いわ、ありがとな」
ただでさえ俺たち文化祭調理班の作る焼きそばは環のお墨付きなんだ。亜美曰く、そこに愛情を加えているらしいし、これが美味しくないわけがない。というか、感謝の言葉を言わないと最悪の場合破局しかねない(とネットに載っていた)。だから素直にお礼を言うと、亜美は満足そうに──それでいてどこか照れたように「それでいいんです」と笑みを浮かべた。
「照れるくらいなら要求すんなよ」
「……うるさい」
亜美はそう言って俺の足を踏んだ。別に痛くはないので、本気で怒っているわけではなく、あくまでスキンシップの一環なんだろう。
母さんはそんな俺たちを微笑ましそうに眺めていた。その視線がいたたまれなくて、俺は誤魔化すように焼きそばを口にした。既に何口か食べているはずなのに、何だか無性に甘く感じた。
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「んで、本当に行くのか?」
「あったりまえじゃん!」
「あんまり気が進まねえんだよなぁ……」
「大丈夫だって」
昼食を終えた俺たちは、既に家を出て環の家へと向かい始めていた。ちなみに俺が送ったメッセージには未だ既読はついていない。
「つーか何で環の家なんだよ」
「あの2人のことだし、どうせ途中からお家デートに変えてるよ」
「ん、まぁ……それもそうか」
今までのアイツらを見てると、否定できない。というか、俺もそうしてしまう自信しかない。だから苦笑しつつ何とか同意すると、亜美は不思議そうに首を傾げた。
「どーしたの?」
「いや、何でもねーよ」
「ふーん? ま、いいや」
何度も言うようだが、亜美のこれ以上追求してこない性格に俺は数え切れないほど救われてきた。本当に、ありがたい。
「ありがとな」
「き、急に何なの?」
「別に何でもいいだろ」
そう言って亜美の頭をぽんぽんっと優しく叩くと、亜美は突然俯いた。照れている、と理解するのに数秒を要し、同時に自分がしたことの大胆さにも気がついて穴に入りたくなった。
「す、すまん。今のは忘れてくれ」
声を絞り出して、震える声で何とかそう伝えると、亜美は顔を赤く染めながら「やだ、忘れてあげない」と呟いた。
「……え?」
「別に嫌じゃないし。てゆーかもっとして欲しいし」
「お、おう……」
「あ、でもこんな街中でやるのはダメだから!」
「さーせん……」
確かに街中でってのはやりすぎだったな。そう思って謝ると、亜美は迷ったように視線をさまよわせてから突然俺の手を握ってきた。柔けぇ……。
「亜美さん?」
「頭ポンポンは恥ずかしいけど、これならセーフだから。タマッキーの家まで手繋いで行こ」
「……ん、了解」
そう答えてから軽く繋がれた手をぎゅと優しく握り返すと、亜美は照れたように小さく笑った。その笑顔が眩しくて、何となく直視できなかった。
結論から言うと、バカップルに突撃するという当初の計画は失敗に終わった。
何故って? そんなの決まっている。環たちがまだ帰宅していなかったからだ。とまぁそんなわけで、計画が頓挫した俺たちはどうしたものかと顔を見合せた。
「あー……どうするよ」
「とりあえず買い物でも行く?」
「え?」
「その方がこのまま家に帰るよりはずっとデートっぽくない?」
「まぁ……そうだな」
「じゃあ今から駅に行こう!」
「はぁ!? ここから歩きで!?」
前言撤回……ではなく補足。
亜美の突然の思いつきは、確かにありがたいものではあるが、同時に俺を疲れさせるものでもあった。
メッセージにまだ既読はつかない。
お邪魔回、たったの1話で完結。
うーん…………買い物デート編も書きたいっちゃ書きたいんだけど、とりあえず大悟×亜美サイドの話はこれで終わりかなぁ。
次回からまた環×姫乃のバカップル側の話に戻しまーす。お楽しみに!