第5章19話 君といられるから
お待たせ致しました。ちょっと学校関連で病んでまして、なかなか更新する時間を作ることができませんでした。申し訳ない……
9月ですね。何やら非常に猛烈な台風が近づいているようですが、もし読者の皆様の中に九州あたり在住の方がおられましたら、何よりもご自分の身を守ることを優先してください。万全の対策をとった上で、本編へとお進みください。
姫乃の提案で家路につく。時刻は午後2時半、今から家に帰っても十分楽しめる。電車に乗って最寄り駅まで向かっている間、姫乃は今日あったことを嬉しそうに話していた。ハリネズミカフェのこと、結奈さんのお店のこと、映画のこと……全てが姫乃にとって楽しいものになったようで何よりだ。彼女が喜んでくれる、彼氏冥利に尽きるな。
そんなことを考えながら姫乃の話を聞いていると、ひとしきり話し終えた姫乃はワクワクしたような表情で話しかけてきた。
「ねぇ、環くん」
「……ん?」
「お家で何しよう」
「そういえば考えてなかったな」
家でできること……か。テレビゲームは昨日もやったし、さすがに2日連続でやるのももったいない気がする。
「姫乃は何かやりたいとかある?」
「んー……環くんと一緒にいられれば何でもいいよ」
「……ふふ」
「ちょ、何で笑うの!?」
「いや、同じことを思ってるんだなって」
そう。極論、相手と一緒にいられればそれでいい。好きな相手とずっと一緒にいられることを上回る幸せなんてそうそうないと思う。だから、姫乃が僕と同じことを考えていたことが嬉しくて、つい笑ってしまった。
そのことを説明すると、姫乃は一瞬キョトンとした後ですぐにへにゃ、と笑顔を浮かべた。
「そうだねぇ……別に今考えなくてもいいんだもんね」
「うん。何をするかは家に着いてから考えようか」
そんな話をしていると、あっという間に駅に着いた。
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電車を降りると、突然声をかけられた。というかこのシチュエーション、どこか記憶にあるものなんだけど。
「あれ、環と姫乃さんじゃん」
声をかけてきたのは、伊織だった。記憶の通りというかやっぱりというか……。
何故だろう、今日のデートは知り合いによく会うな。
「伊織くん、偶然だね」
「伊織か。昨日ぶりだな」
最初の頃とは異なり、僕以外の男子も名前で呼ぶようになった姫乃。そんな変化を目にすると、時間の経過をひしひしと感じてしまう。かと言ってそれは不快なものなんかじゃなく、むしろ嬉しいような安心するような、そんな気持ちを抱かせてくれる。
「ん、悪い。デートの邪魔だったか?」
どこか気遣うようなその言葉を、姫乃は首を振って否定した。
「んーん、今から家に帰るところだよ」
「あ、そうなのか」
「うん。伊織くんこそどうしたの?」
姫乃がそう尋ねると、伊織はヘラヘラと笑って答えた。
「ちょっと新しい楽器に手を出そうかと思ってさ」
「新しい楽器?」
「ああ。弦楽器とドラムだけだとどうしても形が固まりがちだからさ。環が入ってくれたことで重厚感は出てくると思うんだけど、個人的に管楽器も演奏できるようになりたいな、と」
なるほど、そんなことを考えていたのか。
「管楽器か……トランペットとか?」
「それも考えたんだけどなー。やっぱサックスとかできるとかっこよくね?」
「確かに、バンドでサックスのソロパートとかあると好印象かも」
「だろ?」
バンドの話で盛り上がっていると、姫乃が僕の袖を引っ張ってきた。言いたいことは何となくわかったので、非常に申し訳なくなった。
「もう、置いてけぼりにしないでよ」
「ごめんごめん、つい盛り上がっちゃって」
「環くんが楽しそうなのはいいけど、私を忘れるのはダメです」
「忘れてはないです」
そんなやり取りを見ていた伊織から、「すげぇな」という声が聞こえてきた。姫乃に「環取っちゃってごめんね」と謝ってから言葉を続けた。
「ほんと、バカップルっつーか付け入る隙がないっつーか……っと環くん、そんな怖ぇ顔すんなよ。言葉の綾だって」
「いや、わかってるけど」
「嘘つけ! 結構マジの目だったぞ!」
そんな風に叫ぶ伊織を見て、姫乃は堪えきれないというように笑い声を上げた。
「あの、姫?」
「環くん、私のことが好きなのはわかるけど敵意剥き出しにするのは良くないよー」
「いや、本当にそんなつもり無かったんだけど」
「ふふふ」
…………いや、まぁ姫乃も満更でもない様子だし、ニヤニヤしている伊織を視界に入れなければ悪い気もしないな。
伊織はニヤニヤした表情のまま僕の肩を叩いて言った。
「これ以上熱々のお2人さん見てても当てられるだけだし、邪魔者はここで退散するわ。ちょうど電車も来たしな」
「え、あぁ……そう」
「あ、そだ。次の水曜空けといて」
「……? 別にいいけど」
「そこで “Rebellion” の打ち合わせやるからさ。多分環の歓迎会も兼ねると思う」
「ん、わかった。じゃあまた学校で」
「おう、またな」
そうして僕たちは家に、伊織は楽器店へと向かった。
途中で姫乃が「水曜日は環くんと帰れないのか……」と小さく呟いたのが何とも可愛いくて、早く家に着けと願わずにはいられなかった。
次回、遂に2人がお家でいちゃいちゃするよ。お楽しみに!