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あの場所でもう一度君と  作者: ましゅ
第5章 お泊まり会とデート
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第5章17話 買い物中のいちゃいちゃ

今日も今日とて更新です。

 寿司を堪能した後、少し休憩した僕たちは駅前のショッピングモールを訪れていた。姫乃に買い物がしたいと言われたからなんだけれど、何を買うのかは教えてくれなかった。着いてからのお楽しみということらしい。

 そしてやって来たのは服売場──何故かメンズコーナ──だ。


「あの……姫?」

「んー?」


 姫乃は色々な服を手に取って僕と見比べ、「これは違う……」と呟いたかと思ったら元に戻すことを繰り返していた。不思議に思って名前を呼んだけれど、曖昧な返事しか返ってこないほどに夢中になっているようだ。


「姫乃さんや、何をされているのでしょうか」

「んー……環くんの秋服のコーディネート?」

「いや、疑問形にされると不安なんだけど……」

「だって環くんはそのままでもカッコ──」


 そう言いかけた姫乃は瞬時に顔を赤くした。つられて僕の顔も熱くなる。姫乃は誤魔化すように選んだ服を僕に押し付けてから「試着室、あっちだから」と指をさした。どうやら試着してこいという命令のようだ。

 午前中のナンパ男の件もあって姫乃を1人にすることに不安はあったけれど、さすがに試着室に姫乃を連れていくわけにもいかない。店員も見ているから、と自分に言い聞かせて大人しく試着室へ向かうことにした。


「とりあえずこれを着ればいいんだよね?」

「ん、ちゃんと見せてね」

「わかってるよ」


 念を押すような姫乃の言葉に苦笑しつつ試着室に入る。というか……僕がデートのプランを立てたはずなのに、いつの間にか姫乃が主導しているんだよなぁ。


 姫乃が選んでくれたのは、着心地のよい白のスウェットにオーバーサイズ気味な深緑色のジャケット、そして黒のワイドパンツという、派手なものを好まない僕の趣味に合わせた衣装だった。

 着替え終わって試着室のカーテンを開けると、目の前で待機していた姫乃から「むぅ……」という悩むような声が聞こえてきた。


「何か変……かな?」

「服自体は似合ってる……けど」

「けど?」

「スニーカーと合わないかなぁって」

「あぁ、なるほど」


 確かに、落ち着いた雰囲気のこの服装には運動用のスニーカーは合いづらいだろう。これとは別に通学用の靴もあるにはあるのだけれど、この服に合わせるとするのなら──


「「……厚底のブーツ?」」


 声が重なって、2人とも一瞬固まった。けれどすぐに笑い声が上がる。試着室担当の店員が何事かと顔を上げた。一応「すみません」と謝っておいたけれど、一度湧き起こった笑いはなかなか収まる気配を見せなかった。


「まさか同じことを考えるとはね」

「やっぱり似たもの同士なんだね」


 姫乃のその言葉で、回転寿司店での会話を思い出して頬が熱くなる。ハリネズミに嫉妬したことを告げたのはやはり間違いだったかもしれない。その証拠に姫乃は小さく震えていた。おそらくは、いや、ほぼ確実に思い出し笑いだろう。


「姫、後でおしおきね」

「うぇぇ!?」


 少し温度を下げた声でそう言うと、姫乃は妙な声を上げた。それでまた店員が顔を上げたものだから非常に申し訳なくなる。


「な、何をされるのでしょうか……」

「それは家でのお楽しみということで」

「不安しかないのにどう楽しめと!?」

「まぁ、姫乃の想像を超えるとだけ言っておくよ」

「余計に不安なんだけど……」


 そんなことを言われても、僕の考えている “おしおき” はほぼ確実に姫乃の予想とずれているんだからどうしようもない。

 とりあえず怯える姫乃が少し可愛かったから頭を撫でておく。姫乃は「わっ」と驚いたような声を上げたけれど、嫌ではなかったようでされるがままになっていた。


△▲△▲△▲△▲△▲


 姫乃が選んでくれた秋服一式を買って、ショッピングモールをぶらぶらと見て回ることにする。ブーツはまた今度探せば良いだろう、ということで今回の購入は見送った。


「環くん環くん」

「ん?」

「ちょっと寄りたいところがあるんだけど、いいかな?」

「断る理由がないよ」

「やった」


 姫乃は小さく喜んでから、僕の腕を引いて走り始めた。そんな僕たちを他のお客さんが微笑ましげに見てきたのは、きっと気のせいだろう。


 姫乃に連れられてやってきたのはペットショップだった。ハリネズミカフェに行った影響なのか、動物を見たい気分だったのでちょうどいい。


「目的の動物は?」

「んー……猫でも犬でもウサギでもいいんだけどね」

「特に希望はないと?」

「希望っていうか、環くんの好きな動物が知りたいなって」


 自分の好きな動物を見ればいいだろうに、どうして僕の好きな動物を尋ねたのか。疑問に思ってその理由を聞くと、少し恥ずかしそうに顔を赤らめた姫乃からこんな答えが返ってきた。


「その……ね」

「うん」

「一緒に暮らすようになったら動物を飼いたいなぁって」

「……っ、左様で」


 何とも可愛らしいことを言ってくれる。思わず頭を撫でそうになってから、先程よりも人がいることに気づいて何とか踏みとどまる。そんな僕を見た姫乃が心配そうに「嫌だった?」と聞いてきた。別に嫌なわけではない。ただ、僕としては──


「──僕は姫乃がいればそれでいいかな」

「そっか。…………ん? それって私が動物みたいってこと?」

「へ?」


 若干不満そうな口ぶりで小さく呟いた姫乃。そう言われてから自分の言葉が誤解を招きかねないものであったことを遅ればせながら理解した。いや、まぁ動物みたいという言葉に間違いはないんだけど、僕の真意はまた別のものだ。

 ここで慌ててしまうと逆に怪しまれそうなので、心を落ち着かせて答える。


「いや、違うよ」

「じゃあどうして?」

「ペットを飼ったらさ、姫乃の愛が分散するんじゃないかなって」

「私が好きなのは環くんだけだよ?」


 そう言って純粋な瞳で見上げてきた姫乃。その破壊力は抜群で、顔を直視することができない。


「そ、そういうことを人前で言わないでよ」

「環くんが言える立場じゃないと思うけど……」

「え?」

「何でもないでーす。それで、もし私の愛が分散しちゃったらどうなの?」

「その……ハリネズミにすら嫉妬した僕なんだから、ね?」


 皆まで言わすな、と語尾を濁して自虐的にそう告げると、一瞬キョトンとした姫乃だったけれどすぐにその口角が上がった。


「そっかぁ……環くんは私を独り占めしたいのかぁ」


 ニコニコ、いや、ニマニマとした笑顔でからかうように──それでも嬉しさは隠しきれないようで──そんなことを言った姫乃。からかわれっぱなしなのも癪なので、少しだけ意趣返しをしてみることにする。


「そうだけど……姫乃こそ嫉妬しないの?」

「え?」

「いや、さっき結奈さんに嫉妬してたのにさ、僕がペットにかかりきりになってもいいのかなぁって」

「う、しますね」


 思ったよりもあっさりと認めた姫乃。少し拍子抜けだったけれど、姫乃もペットに嫉妬してくれるということがわかったので良しとしよう。


「そういうことだよ。だからまぁ、暫くはペットは飼わなくていいんじゃない?」

「……ん、環くんがそう思うならそうします」


 あくまで僕の意見だということにしたいようだ。別にその事に異論はない(というか事実だし)ので突っ込むようなことはしない。


「じゃあ今日は可愛い子を探すだけにしよう」

「そうだね。猫から探してみる? あそこにマンチカンがいるみたいだけど」

「わ、本当だぁ……足短ーい、可愛い!」

「…………む」


 僕は姫乃よりも心が狭いのかもしれない。姫乃がペットショップの猫を愛でるだけでモヤモヤしてきたのだから。

 まぁ猫を愛でている姫乃はそれはそれで可愛いのでいいんだけど……このことは本当に墓場まで持っていこうと密かに心に決めて、僕は姫乃の隣に並んだ。

個人的に好きなのは黒柴です(聞かれてない)。

デートはもう少し続きますよ。

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