第5章16話 彼女の嫉妬
何と、3日連続の更新です。いつぶりでしょうかね……
結奈さんのお店を出てから数分、今の気持ちを率直に言うのであれば、『気まずい』の一言に尽きる。何故なら、姫乃が全く口を聞いてくれないからだ。少し尖らせた口元から、機嫌を悪くしているのは一目瞭然。
しかしその理由も皆目見当がつかないため、どうしたものかと途方に暮れているところだ。
「あの……姫? もしかして怒ってる?」
「…………別に」
「えっと、その……非常に申し訳ないんだけど、怒ってる理由を教えていただくわけにはいかないでしょうか」
「だから怒ってない。自分の心の狭さに呆れてるだ──何でもない」
しまった、という表情を見せた姫乃。すぐに何でもないと否定はしたが、何かがあるのは僕にも理解はできた。
このままデートを続けるのも嫌なので、僕としては姫乃と話し合いたいところだ。
「姫、ちゃんと話そうよ。昼ごはん食べるついでにさ」
「……ん、ガッカリしない?」
「ガッカリなんてありえないよ。どんな姫でも優しく受け止めるだけだから」
その答えに安心したのか、姫乃は不安そうな表情を少し和らげて「わかった」と呟いた。
「じゃあ、お昼食べながら話すね」
「うん。何か食べたいものとかある?」
「何でもいいの?」
「もちろん」
「えっとね……お寿司が食べたい!」
そう言った姫乃の表情は、結奈さんのお店を出た時とは打って変わって晴れやかだった。少しでも気を紛らわすことができたのなら良かったと、僕と姫乃は近くにある回転寿司店に向かって歩き始めた。
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やって来たのは有名な回転寿司チェーン店。ちょうど昼食の時間帯にも関わらず、比較的店内は空いていた。そのおかげで僕たちは話し合いをするのに最適な隅の席に座ることができたんだけど、席に着いた途端、姫乃は急にソワソワし始めた。やはり言いづらさがあるのだろう。
「姫、ゆっくりでいいからね」
「うん」
小さく頷いた姫乃は、レーンを流れるサーモンを1皿取った。それから暫く取った皿を見つめていると思ったら、突然少し目を細めて僕を見つめながら口を開いた。
「……私には相談してくれなかったのにね」
「……え? …………あっ!」
姫乃のその指摘から数秒遅れて、僕は漸く姫乃の言わんとすることを察した。どうやら姫乃は結奈さんの人生相談のことを言っているらしい。確かに僕は姫乃に言っていなかったけれど、それは余計な心配をかけたくなかったからであって──
「言ったじゃん。環くんをサポートしたいって」
「……はい」
「だから言ってほしかったなぁって。本当に怒ってるわけじゃないからね。その……ちょっと寂しかったなぁって」
「……ごめん。次からはちゃんと姫にも相談するよ」
「わかってくれたならいいのです」
満足したような表情でそういった姫乃だったけれど、お茶を1口飲んだと思ったら突然机に突っ伏した。
「え、姫!?」
「んぅ…………やっぱりダメだぁ」
「どうしたの?」
心配になっておそるおそる尋ねると、姫乃は上目遣いになってこんなことを聞いてきた。
「……結奈さん、綺麗な人だったね」
「え?」
「何かね、モヤモヤするの。環くんが結奈さんと話してたのを思い出すと……」
えっと、それはつまり──
「──嫉妬してるってこと?」
「うぅ…………認めたくないけど、たぶんそう。……って何で嬉しそうなの!?」
そう突っ込まれて、自分の口角が上がっていたことに遅れて気づく。どうしてそうなったのか、その理由なんて決まっている。
「いや、姫乃も嫉妬してくれるんだなって」
「そりゃするよぉ……ってヒナちゃんの時もこんな話したよね?」
「そうだったっけ?」
そういえばそんな気もする。たった1日前くらいのことのはずなのに、色々濃密だったせいですっかり忘れてしまっていた。
というか、その…………嫉妬する姫乃、超カワイイ説。
そんな僕を少し呆れるような目で見ながら、姫乃は自信なさげに呟いた。
「それよりさ……環くんはいいの?」
「いいって、何が?」
姫乃がそう尋ねる理由がわからず、思わず聞き返してしまった。姫乃は一瞬「うぅ……」と言いづらそうにしてから諦めたように口を開いた。
「彼女がこんな嫉妬深くても嫌いにならない?」
「嫌いになんてっ!……なるわけないよ」
急なその言葉に驚いて大きな声で否定しかけてから、まだ店の中にいるということを思い出して小さく補足する。姫乃は潤んだ瞳で見上げてきた。
「……本当?」
「嘘なんてつかないよ。それに、その──」
「…………?」
このことを暴露すべきか迷ったけれど、姫乃を安心させるためだと自分に言い聞かせて、恥ずかしさを堪えて告げる。
「──僕だって嫉妬したからさ」
「そうなの!?」
「姫だって嬉しそうじゃん」
「あはは、ごめんごめん。それで、いつ嫉妬してくれたの?」
「今日、だけど……」
やっぱりこの続きは言いづらい。姫乃、頼むからそんなキラキラした目で僕を見ないでほしい。姫乃の嫉妬とは全く別の種類だから。
「全然気づかなかった! いついつ?」
「……っ、──フェで」
「え?」
「う……ハリネズミカフェだよ」
僕は姫乃のためだと思って赤裸々に告白した。墓場まで持っていくつもりだった、ハリネズミに嫉妬したという僕の黒歴史を。姫乃は僕の話を聞く間、ぷるぷると小刻みに肩を震わせていた。言わなければよかったと後悔したのは言うまでもない。
「だから言いたくなかったんだよ……」
「拗ねないでよぉ……ふふ……」
「まだ笑ってるじゃん」
「ごめんって。でも、安心したや。私たち似たもの同士なんだね」
「ま、まぁ安心したのなら良かったよ。ほら、お店も混んできたし早く食べようよ」
「ん、そうだね。いただきます」
ちなみに、僕はこのことでずっとからかわれ続けることになるんだけど……それはまた別の話だ。
えっと……お知らせというか、作者の考えが足りていなかったというか。
このままだとデートだけで5章が終わってしまいそうなんですよね。てなわけで、「5章で終わる」なんて言っておいてアレですが、6章、作ります。
そんなわけですので、どうか(小説も作者の受験勉強も)応援していただけたらなぁ……と。よろしくお願いします!