第5章15話 将来の話②
連日で更新できちゃいましたね。作者自身も驚いてますよ。
それではどうぞ!
「アドバイス……ですか?」
結奈さんのその提案に、思わず聞き返してしまった。そんな僕を見て小さく笑いながら、結奈さんは一旦店を出てすぐにまた戻ってきた。
「何を?」
「今日は臨時休業ってことで看板を “CLOSE” にしてきただけだよ」
「え、いや……さすがに申し訳ないです」
まさかそこまでされるとは思っていなかったため、わかりやすく動揺してしまった。隣では姫乃も同様に驚いている。というかお店の経営ってそれでいいのか?
「気にしない気にしない。どうせこの時間はお客さんの入りも少ないしね」
「だとしても……」
「それに若い子の恋愛話を聞きたいしね」
おっと……本音がチラリ、それどころか大胆に顔を覗かせた。それと同時に顔が熱くなる。きっと今の僕の顔は真っ赤になっているんだろう。結奈さんが笑みを深めた。
「別に変な意味じゃないよ。アクセサリーのデザインが最近マンネリ化してきてるからね、創作を助けると思って」
「……別の考えがあるような気もしますけど」
「そこら辺はご想像にお任せするよ。それで、どうする?」
確かに人生の先輩に相談に乗ってもらえる機会なんてなかなかないかもしれない。断る理由なんてないな。
「えっと、お願いします」
「そう来なくちゃ。結城さんはどうする?」
「え、私もいいんですか?」
「もちろんだよ」
「お願いします!」
結奈さんのその言葉に被せるように姫乃は即答した。それを見た結奈さんは、優しい笑顔で何度も頷いていた。
そんなこんなで、梅崎結奈さんによる人生相談が始まった。
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「まずは柏木くん、さっき『夢がない』的なことを言ってたわけだけど……もう少し詳しく聞いてもいいかな」
「そもそも、自分のなりたい姿が見つからないんです。学校の進路学習の時間とかで『将来の夢を考えてみよう』みたいな時間があったんですけど、周りはすぐに書き始めるのに僕だけ全く書けなくて……」
不思議なことに、自分の気持ちをすんなりと言葉にすることができた。何故父さんにも話したことのないことを知り合ったばかりの結奈さんに打ち明けることができたのかは分からない。
それでも、何度も相槌を打ちながら話を聞いてくれる結奈さんを見て、この人ならきっと大丈夫だと、そう思った。
途中で遮ることなく、話を最後まで聞き終えた結奈さんは僕の目を見つめて言った。
「つまり柏木くんは焦りを感じてるわけだ」
「……はい」
情けないと思われても仕方のないことだとは理解している。それでも焦らずにはいられなかった。たぶん、姫乃との将来を真剣に考え始めてからだ。
「じゃあ……そうだね、柏木くん」
「はい」
「まずは君が『これはできる』って自信を持って答えられることを教えてくれる? 結城さんも考えてみてね」
そう尋ねられて、考えてみる。
自分にできることは何なのか、何かあるのだろうか。
「…………料理」
ふと、そんな言葉が呟くように口から零れた。迷いとかそういうものはない。本当に自然に、口にすることができた。
それを聞いた結奈さんは、「料理男子か。いいじゃん」と楽しそうに笑った。姫乃も隣で力強く頷いてくれた。
「でも、これでいいんですか?」
「ん?」
「料理なんて……一人暮らしをする必要があったから身につけただけなのに──」
「それでいいんだよ」
初めて結奈さんが僕の言葉を遮った。僕はいつの間にか俯いてしまっていたようで、ゆっくりと顔を上げると、いくらか真剣な表情になった結奈さんと目が合った。
「人それぞれにきっかけはあると思うよ。だけど “好きこそ物の上手なれ” って言うようにさ、好きじゃなかったら料理なんて続けられないと思う。優乃なんて私や親がいない時はカップラーメンしか食べてないからね」
結奈さんはそこで苦笑した。それにつられて、僕と姫乃も小さく笑う。
「私が雑貨店をやってるのは、作ったアクセサリーを優乃が褒めてくれたのが嬉しかったから──まぁ、恥ずかしいから本人には口が裂けても言えないんだけどね。自分のやりたいことを見つけるのは、意外と単純だったりするんだよ」
「…………なるほど」
「柏木くんはさ、料理をやってて嬉しかったことってない?」
「姫乃が……友達が『美味しい』って言ってくれた時です」
それだけは即答できた。自分のためだけに作り続けてきた料理を、初めて誰かが認めてくれたんだから。あの日のことを忘れられるわけがない。
「そう言われてから、料理をサボったことは?」
「時間がない時以外はありません」
「それなら、その『美味しい』って言葉が君の原動力になってるわけだ。人に褒められるのって悪い気はしないでしょ?」
「はい」
「つまるところ、人間っていうのは誰かに認められたいから、褒められたいから頑張れるんだ。褒めてもらえるから次も頑張ろうと思える。だから自分ができないことを無理してやって褒められようとは思わなくていい。自分ができることで『凄いね』って相手に感じさせられたら最高じゃない?」
その言葉が、すっと胸に落ちた。結奈さんのその言葉はすごく納得できたから。
自分が頑張れることを見つけられた気がしたから。
「どう? やりたいこと、見つかった?」
「……はい。僕も……僕も結奈さんみたいに自分の店を持ちたい──僕の料理で人を喜ばせたいです」
「いい夢じゃん。お店を立ち上げたら教えてよね」
「もちろんです。ありがとうございます」
そうお礼を言うと、結奈さんは「いいっていいって」と照れくさそうに目を細めた。
と、隣に座る姫乃が口を開いた。
「私も決めました」
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「お、早いね」
そう言って姫乃の目を見つめる結奈さん。
姫乃は笑って答えた。
「ずっと考えてたんです。でもやっぱりこれしかないなって。私は……ずっと隣で環くんをサポートしたいです」
姫乃はそう言って僕の手をぎゅっと握った。横を見ると、少し照れた様子の姫乃と目が合った。目が合った途端蕩けたような笑みを浮かべた姫乃はすぐに真面目な表情に戻って言葉を続けた。
「私は環くんに助けられたんです──もちろん環くんだけじゃないですけど。だから今度はずーっと環くんを支えていきたいなって」
正直僕の方が助けられてると思うんだけど、姫乃にとっては違うらしい。それでも、姫乃と一緒に開く飲食店は楽しそうだな、なんて思ってしまった。僕の方こそ、姫乃と支え合っていきたい。
すると正面から笑い声が聞こえてきた。
「いいじゃんいいじゃん。原動力は “好き” に限らないからね。 “好き”から始まる夢、素敵だね」
その言葉を聞いた姫乃の頬が一瞬で赤く染まる。それでも結奈さんの言葉は満更でもなかったようで、「えへへ」と小さく含羞んだ。口には出さないけど、すごく可愛い。
「結奈さん、ありがとうございました」
「いいよいいよ。私もね、君くらいの時はいっぱい悩んだんだ。親にも先生にも反対されて……落ち込んでた時に励ましてくれたのが優乃だったんだ。それで再確認したんだ。夢を追う過程で必要なのは否定じゃない、誰かの応援なんだって」
「そうだったんですか」
「だから私は2人を応援するよ。頑張ってね」
「「…………はいっ!」」
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相談が終わったあと、僕たちはターコイズのブレスレットを買うことにした。飲食店を開くことを目標にした今、繁栄・成功という石言葉が相応しいものに思えたから。
「買ってくれてありがとね」
「お礼を言うのはこっちですよ。ていうか恋愛話とかって……」
「大丈夫大丈夫、話を聞いてて2人の仲の良さは十分に伝わってきたからさ。創作のイメージもバッチリだ」
「えっと……それなら良かったです」
まぁ恥ずかしいことに変わりはないんだけど。
お店を出る時、もう一度結奈さんから声をかけられた。
「柏木くん、結城さん。これからも優乃と仲良くしてあげてね」
「「はい!」」
「それじゃあお2人さん、頑張りなよ!」
結奈さんの声援を背に受けながら、僕たちは店をあとにした。
結奈さん、めちゃくちゃいい人じゃん。めちゃくちゃ姉貴って呼びたい……
とまぁ冗談──とは言いきれない──はさておいて、環くんの夢が決定した回でした。こんなデート中に決めることでもないだろうと思ったりもしましたが、ここを逃すと入れる隙が見つかりそうになかったんです。
環と姫乃がお店を開くとしたらどんな名前になるんでしょうかね。何となく橘食品(お忘れの方は第2~3章へ)と太いパイプで繋がりそうな気もします。
まだまだデートは続きますよ!
イチャイチャを楽しみにしててくださいね!