第5章12話 可愛い×可愛い=正義
お待たせ致しましたっ!
2、3週間で更新できるとか言いながらそれ以上時間をかけてしまったバカがここにいます。どうぞ存分に罵ってやってください。
では早速本編をどうぞ。
ナンパ男を撃退した後、僕たちは離れることなく、2人で道を尋ねながら漸くハリネズミカフェに辿り着いた。それなのにまさかの臨時休業──なんてわけもなく、少し緊張気味の姫乃の手を取って店内に入る。
「いらっしゃいませ。2名様でよろしいでしょうか」
「はい」
「ではまず手指を消毒して頂きます」
「わかりました」
まぁ当然だろう。病気とかを持ち込まれたら大赤字になるわけだし、というか消毒必須ってホームページにも書いてあったし。
そんなことを考えながらしっかりと手を洗い、消毒を終えると、今度はメニュー表を差し出された。
「当店はワンオーダー制となっております。ご注文はお決まりでしょうか」
差し出されたメニューを確認する。店員さんを待たせすぎるのも悪いと思ってすぐに決める。
「ん……僕はホットコーヒーで。姫は?」
「わわ……えっと、えーっと……」
悩んでいる姫乃も可愛い。楽しそうにメニューに目を走らせる姫乃を見ながらそんなことを考えていると、店員さんに小声で「デートですか?」と聞かれた。嘘をつく場面でもないので正直に答えると、丁度そのタイミングで姫乃の注文したいものが決まったらしい。
「ホットココアでお願いします」
「畏まりました。ホットコーヒーとホットココアですね」
「お願いします」
「では、ごゆっくりお楽しみください。ハリネズミちゃんたちはストレスに弱いので、大きな音などはなるべく立てないでくださいね」
「分かりました」
その後少しだけハリネズミを触る時の注意点などを教えてもらい、席に案内された。注文した飲み物は後から店員さんが持ってきてくれるらしい。
店内を確認する。案内されたのは切り株を再現したテーブルと椅子。テーブルの上にはハリネズミが暮らしているケージが置いてあった。隠れ家のようにケージの中に配置されている家の模型から、ハリネズミがこちらを確認していた。
「……っ! 環くん、ハリネズミがいるよ!」
「ハリネズミカフェだしね」
目をキラキラ輝かせながら報告してきた姫乃に苦笑する。ハリネズミのいないハリネズミカフェ……それだとただのカフェだ。姫乃もそれに気がついたようで、「あ、そうだね」と頬を赤くしていた。
立ちっぱなしでいるのも申し訳ないし普通に疲れるので、赤い顔のままの姫乃を促して席に着く。姫乃と向かい合うように座った僕だけど、何て言うか、目の前の光景がどうしようもなく愛おしかった。
でもまぁ仕方のないことだと思う。だって、ただでさえ可愛い姫乃が可愛い小動物と戯れているんだから。『可愛い×可愛い=正義』この言葉に間違いはないんだと思い知らされた。
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姫乃がハリネズミと触れ合っているのを見守っていると、店員さんが注文した商品を持ってきてくれた。
「お待たせ致しました」
「あ、ありがとうございます」
机の上に置かれたコーヒーカップを持ち上げて一口飲む。
熱過ぎない、ちょうど飲みやすい温度で提供されたコーヒーは、市販のものとは違う香ばしさとほろ苦さがあった。美味しい。
ふと姫乃の方に目をやると、ココアが届いているにもかかわらず、蕩けた目でハリネズミを見つめていた。
「姫、ココアが冷めるよ」
「ん……あ、本当だ!」
ちなみに僕がこのタイミングで姫乃に声をかけたのには、ココアが冷めてしまうこと以外にもう1つ理由がある。だけど、僕にそんな表情見せてくれたことなんてないのに、とハリネズミに嫉妬してしまったことなんて言えるはずがない。
僕がそんなことを考えていることなんて夢にも思ってはいないだろう姫乃は、慌ててマグカップを持ち上げてココアを口にした。すぐに「熱っ」と小さく叫んでマグカップを机に置いた。そういえば猫舌だったっけ。
「火傷した……」
そう呟きながら一生懸命にココアを冷ます姫乃。その姿が無性に可愛く思えて、気がつくと僕は笑っていた。姫乃はそんな僕を恨めしそうに睨んできて、拗ねたようにこう口にした。
「ひどい……」
「……っ」
急に上目遣いになるのは心臓に悪いので、割と本気でやめて欲しい。だけど、少し潤んだ瞳が姫乃の気持ちをストレートに伝えてきたので、茶化すことなく謝ることにする。
「すみませんでした」
「何で笑ったの?」
「いや、その……それは…………」
茶化すことはしないと決めたものの、「ココアを冷ます姿が可愛かった」なんて正直に言える気がしない。どう答えたものかと視線をさまよわせていると、姫乃が目を細めて圧をかけてきた。これはもう誤魔化しきれない。そう判断した僕は、諦めて全て説明することにした。
「姫乃が可愛かったから……」
だけど、情けないことに小さな声で言うことしかできなかった。それでも姫乃に伝わったようで、次の瞬間、姫乃の頬は真っ赤に染まった。
「ふぇ!?」
「いや、姫乃が可愛かった──」
「2回言わなくていいから!」
慌てたようにそう言った姫乃は、腕を伸ばして正面に座る僕の口を塞いできた。僕と姫乃に挟まれたケージの中で、ハリネズミが不思議そうに見上げている。
姫乃は何度も大きく深呼吸をしたあとで、漸く僕を解放してくれた。
「環くんはそういう所がダメなんだよ……」
「あ、はい。すみませんでした」
正直な話、どこがダメなのか全くピンと来なかった。それを聞き返すとまた姫乃の機嫌が悪くなりそうだったので聞くことはできなかったけれど、一体何がダメなんだろうか……。
姫乃は落ち着いたようで、まだ顔を赤くしていた。そんな姫乃は僕と目を合わせることなく、ハリネズミと見つめあっていた。
姫乃が再び口をきいてくれるまで、十数分の時間が必要だった。
まずは、申し訳ございませんでした。
えー……このような不穏なご時世の中、読者の皆様はどのようにお過ごしでしょうか。受験生である僕は更新を放置してひたすら勉強していた──と言いたいところですが、実際はひたすらにラブコメを読み漁っておりました。
ですが勘違いはしないでください。遊んでいたわけではありません。そう、世の中の偉大なるラブコメの数々からラブコメの何たるかを学んでいたのです!
その成果が出るかどうかは、今暫くお待ちいただけると幸いです。次はもう少し早く更新できるように努力します。
ハリネズミ、飼いたいなぁ……。