第1章11話 環と夢とクラスメイト①
学校編、スタートです。
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最近は決まって夢を見る。
それはいつも同じ内容で、いつも何かを訴えてくる。
『**ちゃんは僕が守るよ』
『じゃあ私は環くんを守る!』
おそらく話しているのは幼い頃の僕だろう。
それなのに、相手の女の子の名前だけはどうしても思い出すことができない。
誰だろう。何か、とても大切な名前。
あと少しで思い出せる、そんな時に、そこで場面は変わってしまう。
「環くん、環くん!」
「泣かないで、**ちゃん。僕はまた**ちゃんに──」
そしてそこで夢は途切れる。
目を覚まし、ふと頬に触れると涙で濡れている。
そこで漸く自分が泣いていたことに気づく。
あの子は、誰なんだろう…………
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今日も夢を見た。
この夢を見始めたのはいつからだろう。
そんなことを考えながら顔を洗い、台所へ。
ぼーっとしながら朝ごはんを作っていたせいで、包丁で指を切ってしまった。
「……っ!」
比較的小さな傷口から、鮮やかな赤色の血の玉が浮かんでくる。
反省しながら傷口を水で洗い流し、絆創膏を探して指に巻く。
この夢のことは、また今度考えればいい。
そう思って料理に集中した。
トースト・スクランブルエッグ・ウインナー・サラダ・ヨーグルトという簡単な朝食を済ませて制服に着替える。
課題が終わっていることと時間割を確認して、スマホをポケットにしまう。
少し早いけど家を出ようとした時、しまったばかりのスマホが鳴った。
姫乃が電話をかけてきたようだ。この時間にかけてきたことを不思議に思いながら電話に出る。
「もしもし?」
『環くん、おはよう!』
朝から耳に響く大きな声で叫ばれ、思わずスマホを耳から遠ざける。
「お、おはよう」
『今日学校一緒に行かない?』
クラス1番の人気者と、クラスで底辺を彷徨う男子。この2人が一緒に登校することが何を引き起こすのか、そんなこと分かりきっているはずだろうに、姫乃はとんでもないことを口にしてきた。それでも、
「ん、いいよ」
『やった』
何を引き起こすのか、分かりきっていながら申し出を受ける僕も、十分姫乃に染められている。そんなことを思うと、思わず笑みがこぼれてしまう。
「ていうか、もう玄関の前にいるんでしょ?」
『あ、バレた?』
「声が聞こえてる」
そう言ってドアを開けると、果たして姫乃がいた。
「じゃあ行こ!」
「うん」
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学校に着くまでの間、様々な(主に好奇の意味が大きいだろう)感情が込められた目で見られ、落ち着かなかった。
姫乃にそんな様子は全く見られなかったので、普段から慣れているんだろうと、改めて姫乃の人気ぶりに感心した。
当の本人は
「何でこんな見られてるの?」
と、自分の魅力にまるで気づいていないようだったけど。
学校に着いて、廊下を歩き(その間もジロジロ見られた)、教室の扉を開ける。
その途端、クラス中の視線が僕たちに集まった。
そんな空気の中でも、姫乃はいつもと同じように
「おっはよー」
と元気に挨拶をしていた。
その時、クラスの女子がこちらに歩いてきた。
僕を睨みながら姫乃に尋ねる。
確か姫乃と仲が良い──杉浦亜美だったはず。
「姫ちゃんおはよう。えっと、隣の子は?」
「亜美ちゃんおはよう!環くんだよ?気づかなかった?」
その答えに、教室中がざわめいた。
窓側の机でただ1人、柊伊織だけが「やっぱりな」という顔でこちらを見ていた。
姫乃に集まっていたはずの視線がこちらに向くのを感じて、早くも帰りたくなってしまった。
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