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あの場所でもう一度君と  作者: ましゅ
4章 文化祭
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第4章22話 文化祭最終日⑤

後片付けのお話①

 姫乃が離れてくれない。

 嬉しいよ。嬉しいんだけど、やっぱりどこか虚しい。死んだような目で、震える手で僕にしがみついてくる。「メイド、怖い」と壊れたスピーカーのように繰り返している。

 何より問題なのが、その光景をクラスメイトに見られてしまっているということ。


「姫、離れてくれない?」

「やー! 行っちゃだめー!」


 人は過度なストレスが原因で幼児退行してしまうことがあるという。仮に姫乃がそうだとして、ストレッサー扱いされたメイド(♂)先輩たちが報われなさすぎる。


「なぁ環、何があったんだ?」


 大悟がおそるおそるといった様子で僕に聞いてきた。最もな質問だと思う。だけど、僕から皆に言えることはただ一つ。


「大悟、世の中には知らない方がいいこともあるんだよ」

「……マジで何があったんだよ」


 “女装メイド喫茶(あの光景)”を知っているのは僕たち3人だけで十分だ。それに、あれを言語化するのは非常に難しい。というか僕が話したくない。

 陽向も僕の答えに賛成してくれた。


「環くんの意見が正しいよ。私もあれは思い出したくないかな」


 陽向、同意してくれるのは嬉しいんだけど、少しはオブラートに包む努力をしよう。稲村先輩たちが本当に可哀想になるから。

 とにかく、僕らの必死の説得で皆は納得してくれたようだった。


「とりあえず聞かなかったことにするよ」

「そうしてくれ」


 漸く一息つけたところで、突然乱入者が現れた。同時に多くの女子から悲鳴が上がる。


「柏木くん!」

「「「キャー!!!!」」」


 大声で名前を呼ばれ、振り返ってから絶句した。噂をすれば何とやら、教室の扉の前に立っていたのは稲村先輩だった。ただし未だにメイド服を着用中で。女子の悲鳴も当然だ。姫乃なんて僕の背中に額を押し付けて完全に見ないようにしている。


「せ、先輩!?」

「約束通り連絡先を交換しに来たよ」

「せめて着替えてから来てくださいよ!」

「善は急げと言うだろ?」


 僕と連絡先を交換することの何が善なのかわかりかねる。とりあえず皆が怖がっているから廊下に出ることにする。姫乃を陽向に任せて教室を出て、稲村先輩と対峙する。


「怖がらせてすまん」

「いや、僕はいいんですけど──」

「けど?」

「絶対不審者だと思われてますよ?」


 言っていいのかわからなかったから小さな声でそう告げると、何を血迷ったのか、稲村先輩は窓枠から身を乗り出して教室中に響き渡る声で叫んだ。


「怖がらせたのは謝る! 3年の稲村だ!」

「だーかーらーー!」


 メイド服の腰の部分を引っ張って先輩を剥がす。何か湿ってた気がするんだけど…………

 ユキ先輩へのツッコミでまともな人だと思っていたのに、どうやら大きな勘違いだったようだ。

 そのあとは連絡先を交換し、引き留めることなく全速力で帰ってもらうことにした。


△▲△▲△▲△▲△▲


 乱入──いや、珍入者が帰ったあとの教室は異様な空気に包まれていた。そんな空気になるのは当然といえば当然なんだけど、何故か僕は英雄扱いされていた。


「柏木くんよくあの人追い払えたね」

「俺体動かなかったんだけど」


 などと口々に言われ、姫乃が若干拗ねてしまっていた。僕にだけ聞こえる声で「私の環くん……」と呟いていたのが何ともいじらしく、後で存分に甘やかしてあげようなんて思ってしまった。

 ちなみに大悟は「お前らが言いたがらなかった理由、わかったわ」と勝手に納得してくれていた。

 完全にお祭り騒ぎになってしまった教室の空気は、桔梗が立ち上がったことで何とか落ち着いた。


「えっと……色々あると思いますが、とりあえず片付けをしましょう!」


 桔梗の号令で各自が自分の担当場所の片付けを開始した。僕と姫乃は他の調理担当班と一緒に調理道具の片付けを担当している。桔梗だけは各班の指示に回っていた。


「終わるとあっという間だよな」

「ホントにね」

「でも大悟たちからすれば十分に濃い3日間だったんじゃない?」

「まーな」


 嬉しそうに笑った大悟。その隣では亜美が少し恥ずかしそうに俯いていた。誰にも教えるつもりはなかったようだけど、態度でバレバレだと思う。そしてそれは彼らだけではなく……


「りゅーくん、終わったらどっか行こうよ」

「どこかって……打ち上げあるんじゃないの?」

「それとは別に、デートしようよ!」


 龍馬と紗夜に至っては、もはや隠そうともしていなかった。

 その光景を見た伊織が一言。


「このメンツで非リアなの俺だけか」


 少し気まずくなった空気の中で、ムッとした表情をした人物が1人だけいた。瑞希だ。


「私も非リアなんだけど。1人だけ特別感出さないでよ」

「あ、そうか」

「そうかって……酷くない?」

「いっそ非リア同士付き合ってみるか?」


 あまりにあっさりとした告白。その意味を理解した僕たちの視線が伊織と瑞希に集まった。

 そんな空気をものともせず、瑞希はこう答えた。


「ごめんっ! タイプじゃない!」


 おぉ……この流れで断るとは。

 ますます伊織の顔が見れなくなってしまった──なんて思っていたら、伊織がこんな風に言葉を重ねた。


「んなことわかってるよ。冗談に決まってるだろ」

「だよねー」

「「「「「「……は?」」」」」」


 6人の声が重なった。

 伊織と瑞希は驚いたように僕たちを見て、呆れたように言った。


「まさか、お前ら本気だと思ったのか?」

「ちょっとからかおうとしただけなんだけどな」


 そんな2人に、6人を代表して僕から一言。


「僕らの心配を返せ!」

「「…………すいませんでした」」

この日以降、校内を歩き回るメイド(♂)が学校の七不思議に追加されたようです。


活動報告でもお知らせしましたが、新作を書き始めました。

もし甘々イチャイチャのラブコメに飽きたなーなんて方がいらっしゃったら、新作の方を読むことをおすすめします。


タイトルは『復讐の恋鎖』

ちょっぴりファンタジー要素ありのダークラブ(自称)となっております。ご一読頂ければ幸いです。気に入ったよって方はブックマーク登録をポチッとするのもお忘れなく!

以上、ダイレクトマーケティングのお時間でした。


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