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あの場所でもう一度君と  作者: ましゅ
4章 文化祭
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第4章17話 文化祭最終日の朝

本日2話目。

緊急事態宣言が出ましたね。こんな状況だからこそ、外に出るのを自粛してこんな小説を読んでみてはいかがでしょうか?

 結局まともに眠れないまま夜が明けてしまった。数日のうちにだいぶ朝夕の気温が下がってきた気がする。そろそろ毛布でも用意した方がいいか。妙に冴えてしまった頭でそう考えて、顔を洗いに立ち上がる。


「ん…………最後か」


 誰に聞かれるでもなくそう呟くと、昨日の姫乃の言葉が鮮明に思い出された。


 ──泊まってもいい?──


 何というか、未だに現実味がないというか、全て自分の気のせいだったんじゃないかと、そんな現実逃避をしかけて失敗した。

 リビングにやってきた瞬間、昨日のことが本当にあったという文字通り動かぬ証拠、つまりは昨夜姫乃が持ち込んだ2つの荷物が視界に入った。

 極力ソファの近くを見ないようにしながら台所に行き、食パンと、冷蔵庫から卵を1つ取り出す。フライパンを熱して卵を落とし、同時にトースターで食パンを1枚焼く。少し半熟の目玉焼きをトーストの上に乗せて1口頬張る。トーストが思っていたよりも熱く、舌を火傷してしまった。


△▲△▲△▲△▲△▲


 制服に着替えて歯を磨き、その他諸々の準備をしてから家を出る。奇跡的(主観だけど)に3日連続の快晴で、天気予報では午後にかけて気温も上がると言っていた。確かにこの調子だと暑くなりそうだ。

 エレベーターに乗ると、姫乃がいた。


「あ、環くん。おはよう」

「おはよう、姫。早いね」

「環くんこそ」


 取り留めのない会話をするけど、どちらも“お泊まり会”のことには触れなかった。それよりもまずは文化祭、と無意識のうちに思っていたのだろうか。


「今日で最後かぁ」

「ちょっと寂しいね」

「それよりも授業が始まるのがなぁ」

「まぁ、1ヶ月後には体育祭もあるし……あまり乗り気じゃないけど」

「運動苦手だっけ?」

「わざわざ祭りにする意味がわからないだけ」

「そっかぁ」


 エントランス前で掃き掃除をしていた和正さんと挨拶を交わして歩き出す。少し過ぎたあたりでいつも通り手を繋ぎ、姫乃の歩幅に合わせてゆっくり歩く。そろそろ周囲の視線にも慣れてきた頃で、何も気にせず姫乃との会話を楽しめるようになっていた。

 と、姫乃が真剣な顔で見上げてきた。


「ねぇ、環くん」

「ん?」

「明日なんだけどさ、デートしない?」

「デート?」


 そう言われて考える。今月の初めに姫乃と付き合い始めたけれど、すぐに陽向が現れた。自業自得な部分があるとはいえ、そのせいで姫乃と過ごす時間が削られたことも事実だ。一応文化祭デートはしたけれど、2人でどこかに行ったことは付き合い始めてからは皆無だった。


「ん、いいよ。どこか行きたいところある?」

「ある! ちょっと遠いんだけど、小動物カフェ行ってみたいんだ」

「小動物カフェ?」


 猫カフェとかではなく、なかなかマニアックな施設名が出てきて少し驚いてしまった。というかこの付近にそんな場所があるんだ。


「一応確認するけど、猫カフェじゃなくていいんだよね?」

「うん!」

「わかった。詳しいことはまた後で決めよう」

「やった!」


 そんなことを話していたせいで、後ろからやって来る人物に気が付かなかった。


「2人ともおはよう!」


 彼女は僕たちの前まで来て、振り返ってからそう言った。


△▲△▲△▲△▲△▲


「何だ、陽向か」

「何だってひどくない?」


 陽向はそう言ってケラケラと笑った。昨日僕に振られたとは思えなかったけれど、彼女の中で何かが変わったんだろう。いつも以上にスッキリとした顔をしていた。


「ヒナちゃんおはよう」

「ヒメちゃんおはよ!」


 聞きなれない単語が2人の口から飛び出した。まさか昨日の電話だけでそこまで親交を深めていたとは。女子のコミュ力ってすごいんだな。そんなどうでもいいことを考えていたからか、突然話を振られても反応できなかった。


「──くん、環くんってば」

「ん、あぁ……ごめん」

「もう! それで、今日どこ回る?」


 姫乃はそう言ってパンフレットを広げた。2日間で行ったクラスには印がつけてあった。そんな中で一際目を引いたのが、付箋が貼ってある場所。確かここは体育館だったはずなんだけど……


「姫、ここは?」

「えっとね、10時半からライブがあるんだって」

「ライブ?」

「うん。伊織くんが見に来てくれーって」

「へぇ…………え?」


 “ライブ”と“伊織”、この2つの単語が上手く結びつかず、姫乃に聞き返してしまった。姫乃はサプライズが成功した時のような、そんな嬉しそうな笑みを浮かべてから説明してくれた。


「伊織くんから最終日まで内緒にしておいてくれって言われてたの。びっくりした?」

「うん、驚いた。ていうかアイツ楽器弾けたんだ」

「ベース担当らしいよ」

「まさかのベーシストか……」


 姫乃曰く、バンドのメンバーは伊織と篠田、そして小栗先輩だという。全員と面識があることに驚いて何も言えないでいると、陽向が真剣な顔になってこんなことを言った。


「ねぇ、環くん」

「ん?」

「私、上手くできるかな」


 陽向の言いたいことはわかった。大悟や亜美、伊織たちと仲良くやっていけるのか、それが心配なんだろう。でも彼らならきっと大丈夫だろう。だって、僕がそうだったんだから。


「大丈夫だよ。アイツら良い奴ばっかだし」

「そっか。そう……だよね」

「うん」


 隣では、少し拗ねたような表情の姫乃が腕にしがみついてきた。嫉妬、なんだろうか。ぎゅっと音がしそうなその光景に、思わず頬が緩んでしまった。陽向もそれを見て「ごめんごめん」と笑っていた。

 そして僕たちは学校に到着した。


△▲△▲△▲△▲△▲


「皆おっはよー! 今日もこの私、放送部の紗夜が開会宣言をしまーす! それじゃあいくよ〜……文化祭最終日、スタート!」


 そして文化祭最終日が始まった。

小動物カフェにしたのは僕が好きだからです。

はりねずみにハムスター、モモンガ……可愛くないですか?

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