第4章16話 文化祭2日目終了後②
休校延長らしいので、もう少しだけ更新続けられそうです。てか普通に学校行きたい。
「と、泊まる!?」
「何でそんなに驚くの?」
「いや、だって……何かするかもしれないし」
「何かするの?」
「…………ずるいよ」
「おあいこですー」
姫乃に純粋な瞳で何かするのかと聞かれるのは心臓に悪い。それくらい信用されている、と考えれば嬉しいんだけど、一応僕も男なんだよなぁ。
「でも何で急に?」
「んー……急ってわけじゃないよ」
姫乃が言うには、僕のもとに陽向が現れた頃から考えていたらしい。だから急ではない、そう言われたけれど、僕からすればやっぱり急で、驚くなという方が難しかった。それでもそれが姫乃の願いならできるだけ尊重したい。
「姫乃がいいなら僕は反対しないよ」
「ほんとに!?」
「うん。よく考えれば1回はこの部屋に泊めてるわけだし、今更恥ずかしがるのもおかしいかなって」
そう言った途端、姫乃の顔が湯気が出そうなくらいに真っ赤に染まった。何でこれで恥ずかしがるのかわからず首を傾げると、姫乃は慌てたように言い訳をした。
「あ、あれはノーカン!」
「えぇ……何で?」
「何でって…………な、何でもいいじゃん!」
何故か姫乃はあの日のことを思い出したくないようだ。これに関して何か聞くと、また「女心を勉強して!」と言われてしまう気がした。だから何も言わずに「ん、わかった」と返事をして姫乃の頭を撫でる。
「んー……何か変なこと考えてる気がする」
「別に変なことは考えてないよ」
「嘘だ。だったら何で頭撫でるの?」
「嫌だった?」
「嫌じゃ…………ないけど」
姫乃はそう呟いて僕にもたれかかってきた。少し体温の高い姫乃の体を持ち上げて、僕の膝の上に座らせる。「わっ!?」と小さく叫んだ姫乃は少し暴れただけですぐに落ち着いた。
「温かい」
「姫乃がそれ言う?」
「ほんとのことだもん」
穏やかな空気が流れ、ほっと息をつく。姫乃の温もりを服越しに感じながらテレビを眺めていると、ポケットにしまっていたスマホが震えた。こんな時間に誰だろうと思いながら通知を確認すると、相手はさっき話題に上ったばかりの陽向だった。
「…………?」
親友でいてくれ。そう言ったとはいえ、彼女の告白を断ったことに変わりはない。それ故か、少しだけ引け目を感じながら届いたメッセージを開く。
『今姫乃さんに連絡ってつく?』
『連絡も何も隣にいるよ』
『じゃあ電話かけてもいい?』
『ちょっと待って』
まさか陽向から行動を起こしてくるとは夢にも思わず、驚きながら姫乃に尋ねる。まぁ、答えは予想していたけれど。
「姫、陽向が話したいって言ってるけど、いい?」
「ほんと!? もちろんいいよ!」
予想通りの答えに頬が緩む。陽向に『大丈夫だって』とメッセージを送ってから、電話の画面に移動してかかってくるのを待つ。程なくして電話が鳴った。
「姫、どうぞ」
「うん! ……って、あれ? 環くんどこ行くの?」
「お風呂洗ってくる。僕がいると話しづらいこともあるんじゃない?」
「……そっか、ありがとね」
そして姫乃は電話に出た。姫乃と陽向、2人が何を話していたのか、それは2人にしかわからない。それでも、きっとこの出来事が2人に良い影響を及ぼすことは間違いない。そんな確信が持てた。
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風呂掃除が終わり浴室を出たところで、姫乃がこちらに駆け寄ってくるのが見えた。どうやら通話は終了しているようだ。
「どうだった?」
「明日一緒に回れるって」
「ん、よかった」
「ありがとね」
「スマホ貸しただけじゃん」
わざと茶化してそう言うと、姫乃は「そうじゃなくて……」とわかりやすく頬を膨らませた。でもすぐに笑顔に戻って言った。
「一旦家に戻るね」
「あ、うん」
一旦、ということはまたこっちに戻ってくるんだろう。その理由がわからずにいると、それを察したのか、姫乃は理由を話してくれた。
「今日の内に泊まる荷物を環くんの家に置いておこうと思って」
「へ?」
「そしたら明日はずっと一緒にいれるでしょ?」
「あ、うん」
「じゃあまた後でねー」
説明されても理解が追いついていない僕をよそに、楽しそうな足どりで外に出ていった姫乃。その背中を見送って数十秒、漸く理解が追いついてきてぽつりと呟く。
「……マジか」
1時間ほど経過した頃、インターホンが鳴らされた。こんな時間にやってくる人物なんて1人しか思いつかない。玄関の扉を開けると、ボストンバッグを片手に提げ、空いた手でスーツケースを持っている姫乃がそこにいた。何だろう、こんな時間だからか“家出”という単語が頭に浮かんだ。
「……環くん?」
「あ、ごめん、ぼーっとしてた。ていうか呼んでくれれば荷物くらい持ったのに」
「あ! その手があった!」
どうやら姫乃は本気で気がついていなかったご様子。とりあえず荷物が重そうなので部屋に上げることにする。
「ん、カバン貸して」
「ありがとー」
「まさか階段で来たりとかじゃないよね」
「さすがにエレベーター使ったよー。そこまで馬鹿じゃないし」
「よかった」
姫乃本人はそう否定するけれど、実際のところ本当に階段で来たりしそうだからヒヤヒヤしていた。姫乃の荷物をどこに置くべきか頭を悩ませていると、姫乃がとんでもないことを言い出した。
「環くんの部屋じゃダメなの?」
「いや、さすがにそれは僕の理性が死にそうになるというか……その…………」
「どうして?」
「うぐっ…………」
こういう時の姫乃の純粋な瞳が恐ろしい。
というか本当に僕の部屋に置くのだけは避けたい。よく考えてみてくれ、好きな人の私物(服、日用品 etc…)が僕の部屋にあるんだぞ。寝れるわけがない。更に付け加えるならこんな変態的な思考を姫乃に正直に伝えるわけにもいかない。考えた結果、僕はこう説明した。
「姫、逆の立場になって考えてみて」
「? うん」
「僕が姫の部屋に泊まることになって、前日に荷物を持っていくとするよ」
姫乃が「環くんが家に!?」と変なところで反応していたけれど、それに構わず説明を続ける。
「それで僕が『荷物は姫の部屋に置いていい?』って聞いた。今の気持ちは?」
「────っ!」
言いたいことは伝わったのか、姫乃の顔が一気に真っ赤に染まった。姫乃は口をぱくぱくさせて言葉を探していた。
「よくわかりました。荷物はリビングに置かせてください」
「ん、わかってくれてよかったよ」
姫乃はソファの近くに荷物を置いてから言った。
「そ、それじゃあまた明日」
「うん。おやすみ」
「おやすみなひゃい」
ぎこちない動きで玄関に向かった姫乃。ちょっと言いすぎたかな、と反省して姫乃を見送る。
玄関の扉が閉まったのを確認して、その場にしゃがみ込む。そして心の中で叫ぶ。
(どっちにしろダメだって!)
好きな人の荷物が自分の家の中にあることに変わりはない。考えないようにしている時ほど、何故かそれ以外のことは考えられなくなる。視線をリビングに送ると、ちょこんと、しかし堂々と、姫乃の荷物はソファの陰に鎮座していた。
これは夢ではなく現実なんだ。
「…………風呂入って寝るか」
諦めたように1人でそう呟いて立ち上がる。そのタイミングで上の階からドンッという大きな音がした。当たり前だけど、上の部屋に住んでいるのは姫乃。前もこんなことがあったな、そんなことを考えていると、次第に気も紛れていった。
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ちなみに、この日はあまり眠れなかった。理由は察してくれ。
そんなわけで次回から文化祭最終日です。
書きたいことは書ききっちゃった気もするのでどうしようかと悩んでいます。