第4章15話 文化祭2日目終了後①
短めです。
そろそろ新学期が始まるので、これからは更新頻度がかなり落ちると思います。春休み期間中に100話まで到達できてよかったです。
ちなみに、4章のもう1つの山場はここから始まる。そう言っても過言ではないかもです。
陽向の最後の告白から十数分、僕は通学路を姫乃と歩いていた。「私が一緒に行くと姫乃さんが警戒しちゃうから」という陽向の提案だったけど、今となっては説明の全責任を僕に押し付けるための言い訳だったんじゃないかと思っている。
「それで、環くん」
「はい」
「あんな人気のない図書室で何をしてたのかな?」
「ヤマシイコトハ何モシテマセン」
「じゃあ何で陽向さんが抱きついてたの?」
「いや、それは……」
そう、実は図書室で起こった全てを姫乃に見られてしまっていた。“全て”ということはもちろん抱きつかれたことも含まれているわけで、僕は今姫乃に質問攻めにされていた。
「…………陽向さん、可愛いもんね」
拗ねたようにそう呟いて頬をぷくっと膨らませた姫乃。そのシーンだけ切り取れば“可愛い”の一言で済むんだけど、状況が状況だけにそんなことを考えているわけにもいかない。
「姫、勘違いしてる」
「ふーん」
「陽向とは本当に何にもないし、僕が好きなのはずっと姫だから」
姫乃の目を見てそう言い切った途端、姫乃は顔を真っ赤にして反対方向を向いた。小さく「ばかばかばかばか……」と呟いていたけれど、罵倒される理由がわからない。
「姫?」
「……環くんはもう少し女心を勉強して!」
「それ前も言われた気がするんだけど」
「とにかく! 何があったのかちゃんと説明して!」
「わかったよ……」
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全てを説明し終えると、姫乃は顔を更に赤くさせて俯いた。そのうち破裂しそうで怖いな。
「じゃ、じゃあ全部私の勘違い!?」
「だね。何を考えてたのかはわからないけど、陽向の告白はちゃんと……っていうのは違うか。とにかくそれについては何も心配しなくていいよ」
「ほんとに?」
「うん」
姫乃は暫く「うぅーーーー」と唸っていた。そしてぱっと顔を上げると、突然こんなことを言った。
「決めた! 私陽向さんと仲良くなる!」
「えぇ!?」
「だから明日は3人で回ろ!」
「いや、僕は別にいいけど…………」
「やった!」
何となく、姫乃が嫉妬する未来が見えた気がしたけれど、まぁ、楽しそうなら別にいいか。僕は大人しく従うだけだ。
「あ、環くん」
「ん?」
「家、お邪魔していい?」
「もちろん」
父さんもあお姉も帰っているだろうし、久々に2人きりで過ごす時間が訪れる。ワクワクしながら僕は少しだけ歩みを速めた。姫乃も小走りになって僕についてきてくれた。そんな姫乃の手を握って微笑むと眩しいくらいの笑みが返ってきて、結局僕が照れる羽目になった。
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「ただいま」
「お邪魔しまーす」
父さんはちゃんとポストに鍵を入れてくれていた。と言っても父さんに渡してあるのは合鍵なんだけど、それはわざと言わなかった。もし合鍵を渡しておくと、連絡もなしでやって来る、なんて事態になりかねないから。
そんなわけで、2日ぶりに静かな自宅に迎えられた。
「姫、何か飲む?」
「何があるの?」
「水、麦茶、緑茶、ジンジャーエール、オレンジジ──」
「オレンジジュース!」
「ん、わかった」
やっぱり姫乃はお子様舌なのかな。そんなことを考えながらオレンジジュースをグラスに注ぐ。自分の分のジンジャーエールと一緒にお盆に乗せて、ソファに座る姫乃に持っていく。
「はい、オレンジジュース」
「ありがとー」
「ご飯食べてく?」
「いいの?」
「ていうか僕はそのつもりだったよ」
「じゃあ食べてくー!」
「何がいい?」
「カルボナーラ!」
「了解」
それなら早いに越したことはない。冷蔵庫の中から材料を取り出して調理の準備をする。姫乃が駆け寄ってきて「手伝うよー」と言ってくれた。焼きそばも美味しく作れるようになっていたし、姫乃の料理の腕はもう心配していない。
約十分後、できあがったカルボナーラが机の上に並べられた──のだが、夕飯の時間にしては早すぎたし、その上調子に乗って作りすぎてしまった。明らかに2人分の量ではない。
「……作りすぎたな」
「うん。どうしようね」
「………………仕方ない、アイツら呼ぶか」
「え?」
「大悟と亜美。4人いたら食べ切れるでしょ」
そう言ったのだが、姫乃はどこか不満げだった。とりあえず僕の言葉が原因なのはすぐにわかったので、「どうしたの?」と尋ねてみる。すぐにこんな答えが返ってきた。
「2人きりじゃなくていいの?」
「…………!」
あ、これダメなやつだ。
そう思った時には、僕の手は自然と姫乃の頭に伸ばされていた。自分でも何故そうしたのかわからない。それでも、目の前の彼女が無性に愛しく思えたことだけは確かだ。
「わっ!?」
「あ、ごめん」
「んーん。嬉しいから大丈夫!」
姫乃はそう言うと1歩前に出てきた。僕が撫でやすくなるように、だろうか。そのまま目を閉じて撫でられるのを待っているようだったので、髪を梳かすように、絹みたいに透き通った光沢のある黒髪に優しく触れる。
姫乃が上目遣いになって聞いてきた。
「でも、あの量どうする?」
「明日の朝に食べればいいよ」
「そうだね」
そして2人で笑った。
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何とか作った量の半分を食べ終えて、残りを冷蔵庫に保存してからソファで寛ぐ。時刻はまだ午後5時半、隣には姫乃が座っている。ずっとこんな生活が続けばいいのに。そんなことを考えながらさっき淹れたばかりのコーヒーを飲んでいると、姫乃が僕の名前を呼んだ。
「ねぇ、環くん」
「ん?」
「明日って、文化祭最終日だよね」
「そうだね」
「金曜日……じゃん」
「? うん」
「明日、泊まってもいい?」
何を言われたのか、すぐに理解することはできなかった。段々と理解が追いついてきて、それなのに、僕の口から漏れたのは、「へ?」という間抜けな声だけだった。
姫乃が、家に泊まる!?
さぁ、そんなわけでここからは夢(?)のお泊まり会に向けて進んでまいります。お楽しみに!