第4章14話 文化祭2日目⑥
この話を投稿するにあたり、タイトルを
“文化祭2日目⑥”にするか
“文化祭2日目終了後①”にするか非常に悩みました。
それでも彼らにとってはこれも含めて文化祭だろう、そう思ってこのタイトルにしました。短めですが、どうか最後までお付き合い下さい。
いくつかハプニングはあったものの、何とか無事に2日目も終了した。最終日の打ち合わせのために教室に集まって、桔梗の説明を受ける。
ちなみに、やめておけと忠告したにも関わらず、大悟と亜美は例の“カップル限定 その愛を確かめよう!”に参加したらしい。「せめて言ってくれよ」と恨めしそうに言われたけれど、忠告を素直に受け入れなかった大悟が悪いと思う。自業自得だ。
「それでは2日目も無事に終わったということで、お疲れ様でした。明日は14時までですが、その後の片付けには必ず参加して下さい」
その言葉に各々が「はーい」と了承の意を示した。それにしても、明日で終わりなのか。少しだけ残念というか、不思議な気分だ。
「連絡は以上です。この後は各自解散で」
僕は帰ろうとして姫乃の所へ向かった。しかし、その途中で突如腕を掴まれた。驚いて振り返ると、そこにいたのは──
「……陽向?」
「ごめん、ちょっとだけ話いいかな?」
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姫乃の許しを得て、陽向の後について図書室へ向かう。姫乃は話が終わるまで教室で待っていてくれるらしい。
「えっと……陽向?」
名前を呼んでも陽向は答えてくれず、無言で歩き続けた。いつもと様子が違う陽向に、ただ事ではないと覚悟を決めた。
そして図書室に着き、中に入る。文化祭期間中ということもあり、そこには司書の先生以外誰もいなかった。その先生も、パソコンに向かって何か作業をしていた。
「急にごめん。誰にも聞かれたくなかったから」
「いや、別にいいんだけど…………話って?」
「こんな時に悪いんだけど……答え、聞かせてくれないかな」
何に対しての“答え”なのか、それは聞かなくてもすぐにわかった。だとすると、陽向のあの言葉は真実だったということになる。
「あの時は誤魔化しちゃったけど、私は本当に環くんが好きなんだ」
もう一度、僕の目を見て「好きだ」と告げた陽向。不思議と、動揺はなかった。
でも、僕は──
「ありがとう、嬉しいよ。だけど──」
「うん、わかってる。それでも、ちゃんと環くんの口から聞きたいの」
陽向が正直に伝えてくれた以上、僕もその想いに真剣に応じなければいけないだろう。相応の覚悟を決め、陽向の目を見つめて口を開く。
「…………わかった」
陽向は静かに微笑んでいた。
「ごめん、陽向とは付き合えない」
「そっか……」
「別に陽向のことが嫌いなわけじゃない。それでも、今は姫乃のことでいっぱいなんだ」
「うん。わかってたよ」
「だから──」
そう言うと、陽向は軽く首を傾げた。これ以上僕が何か言うとは思わなかったんだろう。僕はそんな陽向に微笑みかけながら、偽りのない本心を、包み隠さずに伝えた。
「──陽向には、僕の親友でいて欲しい」
「…………え?」
驚き固まる陽向に、一言一言考えながら、思い出しながら話す。
「今思うとさ、陽向との出会いって信じられなかったよね。今の時代で許嫁なんて時代錯誤っていうかさ」
「……うん」
「僕はそんな運命から途中で逃げ出した。それなのに、陽向はずっと僕を信じ続けてくれた。すごく申し訳なかったけど、それ以上に嬉しかったんだ。こんな僕でも、誰かに信じてもらえてるんだって」
それを聞いた陽向は笑った。笑って、すぐに顔を歪めて、また笑って。色んな感情を押さえ込んだ笑顔で、懐かしそうに言った。
「環くんは知らないと思うけど、私の世界を広げてくれたのは環くんだったんだよ」
「え?」
「お父さんに従ってた私に、『それで楽しいの?』って君が聞いてくれた。その言葉が、私の目の前の壁を壊してくれた。それだけかよって思うかもしれないけど、私が環くんを信じるにはそれで十分だったんだ」
「陽向……」
「環くんがお兄ちゃんと助けてくれたおかげで、お父さんともわかりあえた。環くんは、私にとってのヒーローなんだよ」
ヒーロー。面と向かってそう言われると、照れてしまう。頬が熱くなるのを感じながら、感謝を陽向に伝える。
「ありがとう。僕にとって、陽向は一緒に壁を乗り越えた戦友みたいな感じなんだ。だからって言うのはおかしいけど、陽向には、親友として僕と歩いて欲しい」
「それは私もありがたいけど…………いいの?」
「何が?」
「環くんの親友の座は藤崎くんじゃないのかなって」
「大悟は……親友よりも悪友に近い感じだからな」
そう答えると、陽向は我慢できないというように声を上げて笑った。その笑い声に驚いた先生がこっちを向いた。それでも陽向は笑い続け、そんなつられて僕も笑った。
ひとしきり笑い終えた陽向は、僕を見て言った。
「ね、環くん。最後に1つだけ、いいかな」
「最後って……」
「お願い」
「別にいいけど」
そう答えると、陽向は突然僕の胸に飛び込んできた。さすがにこれには動揺してしまった。こんな所を姫乃に見られたら……なんて考えて、陽向の体が震えていることに気がついた。
「陽向……?」
「ごめん、もう少しだけこうさせて」
「………………」
「もう少しで、この想いに終止符が打てるから」
「…………わかった」
陽向の頬を涙が伝った。それに気付かないふりをしながら、僕は陽向の頭に手を伸ばした。優しく、髪をとかすように頭を撫でる。これくらいなら、きっと姫乃も許してくれるだろう。
いつの間にかこっちに来ていた先生が「青春だねぇ」と冗談っぽく呟いて、漸く陽向が顔を上げた。
「環くん、君のことが好きでした。これからは、親友としてよろしくね」
「うん、こちらこそ」
陽向の成長物語はまだまだ続く(予定)。
とりあえず、また少し大人になった陽向です。