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あの場所でもう一度君と  作者: ましゅ
4章 文化祭
100/144

第4章13話 文化祭2日目⑤

祝・100話!

細かい話は後書きで。とりあえず読んでください。読めばきっと、何がしたかったかわかるはず。

 GM先輩、ライオン先輩の試験を終えてユキ先輩に案内されたのは隣の教室。なるほど、2クラス合同だとこういう使い方が可能なのか。


「それじゃあこの部屋の主を呼んでくるからちょっと待っててねー」


 そう言ってユキ先輩は教室を出ていった。数十秒後、扉が開いて1人の女子が入ってきた。その顔は百均で売られているような馬のマスクに覆われて誰かわからない。だけど──


「ふふふ……よくぞここまで辿り着いたな」

「ユキ先輩?」

「え? ……………………………………………………それは誰かね?」


 小栗先輩の鋭い指摘に対してそうとぼける馬マスク先輩。しかしそれまでの沈黙が正解であると語っていた。もうごまかせないと思ったのか、マスクを脱いで床に叩きつけ、馬マスク先輩──改めユキ先輩はヤケになって叫んだ。


「正解だよ! 小栗くん、そういうのは黙っていた方がいいんだよ?」

「……さーせん」

「んん……釈然としないけど話進めるね? そう、私がこの部屋の試験官! ここから脱出したければ私の試験をクリアしていきなさい!」

「ユキ先輩って演劇部っスか?」

「そーだよ! てか雰囲気ぶち壊さないでよ、私が恥ずかしいだけじゃん」


 コホン、とわざとらしく咳払いをして、ユキ先輩は声を上げた。


「あなたたちに課す最後の試験は…………これだァ!」


 パチンッと指を鳴らすと同時、奥から4つの机と椅子8脚を持った人たちが現れた。ちなみに全員が馬のマスクを着用していた。というか何をさせられるんだ?


「カップルにしか許されない究極の遊戯──そう、スティックゲーム! さてさて、皆の愛はホンモノかな?」


 細長く、チョコでコーティングされた国民的なお菓子の箱を掲げて試験内容を叫んだユキ先輩。その言葉を聞いて沈黙する4組8人。しかし、理解が追いつくや否や、息を揃えて大声で叫んだ。


「「「「「「「「………………………………はぁ!?」」」」」」」」


△▲△▲△▲△▲△▲


 顔を赤らめ「無理無理無理無理ー」と叫び回る生徒、全てが抜け落ちたかのように放心状態で棒立ちする生徒。様々な感情が入り交じる教室内で、ユキ先輩だけがニマニマと笑みを浮かべていた。


「静粛に! ルールの説明を始めるよ」

「いやいや、待ってくださいよ」

「また小栗か……何だ?」

「これ生徒会の許可あるんスか? さすがにやり過ぎじゃ──」

「ふ、案ずるな少年。許しは得ているのだよ!」

「無茶苦茶っスよ…………」


 そう呟いて諦めたように笑う小栗先輩。そんな彼を無視してユキ先輩はルール説明を開始した。


「って言っても説明することそんなにないよね。細長いお菓子を両端から食べ進めて、口を離したり折ったりしたら負け、以上!」

「んで、またアドバンテージとかあるんスか?」

「その答えはいぇす! 総合1位の柏木・結城ペアは1回折ってもやり直す権利をゲット。2位のペアは普通サイズで、3位ペアはチョコの部分だけ、4位のペアは半分の長さだよー」

「え……てことは」

「そう、同率3位の篠田くんたちと小栗くんたちは、仕方ないからチョコ部分だけだよ。それじゃあ準備してねー」


 もはや反論が許される空気ではなかった。恨むぞ、生徒会。無駄なことを考えながら、渋々席に着いた。

 ルール通り2本をチョコの部分だけにしたユキ先輩。残った部分はユキ先輩が食べていた。この人、これが目的なんじゃないだろうか。


「よーし、全員に行き渡ったね? それじゃ、スタート!」


 いやいや、というか誰も乗り気ではないだろ──そう思っていた。でも、目の前で一心不乱に(でも慎重に)食べ進める姫乃を見て、中途半端にやっていてはダメだと理解した。姫乃が本気でやるなら、僕だって本気で応えなければいけない。だけど正面から姫乃を見つめ続けると、確実に折ってしまうだろう。いくらアドバンテージがあるとはいえ、こんな序盤で折るわけにはいかない。

 だから僕は目を閉じた。

 そのせいで、まさかこんなことが…………


△▲△▲△▲△▲△▲


 体感にして十数分、でも実際は数秒後のできごとだろう。突然、ふにっと、唇に柔らかいものが触れた。驚いて目を開けると、至近距離に姫乃がいてさらに驚いたんだけど、僕の意識は別のものに持っていかれていた。

 そう、僕の唇に触れる、姫乃の唇に。

 え? ()()()()? つまり…………キス?


「「……っ!?」」


 “ファーストキス”という現状を理解すると同時に、ポキッという軽い音が教室内に響いた。

 ルール通りならもう1本貰えるはずなんだけど、残念ながらいつまで経っても新しいものは貰えなかった。代わりに聞こえてきたのは、ユキ先輩の「わおっ! マジか…………」という声だけ。

 姫乃の顔を、直視できなかった。


「あ、その……姫、ごめん」


 真っ先に口から出てきたのは、そんな謝罪の言葉だった。それでも姫乃の反応はない。怒っているのかもしれない。そう思うと、余計に姫乃の顔は見ることができない。

 そんな僕たちに、ユキ先輩がおずおずと尋ねてきた。


「あー……どうする? もっかいやっとく?」


 その言葉を聞いた姫乃の肩がピクっと揺れた。そして小さくフルフルと首を横に振る姫乃を見ていると、少しだけ落ち着きを取り戻すことができた。


「いえ、やめておきます」

「そっか。あ、ちなみになんだけどさ」

「? はい」

「ファーストキス……だったりする?」

「まぁ、はい」

「そっかぁ。ふふふふふふふふふふふふふふふふふ」

「ユキ先輩怖いです」

「ふふ、ごめんね。これあげるから許して?」


 ちっとも反省していなさそうなユキ先輩から渡されたのは、『1品・1回無料 生徒会執行部』と書かれたチケットだった。


「え、と?」

「それで彼女の好きな物でも買ってあげて?」

「あー……はい」

「それじゃ、お出口はあちらです」


 設定はどこへやら。案外あっさりとした幕引きだった。いや、全然“あっさり”ではないか。未だ無言のままの姫乃の手を取って出口に向かう。ユキ先輩の「ごめんありがとー」という謎の挨拶を聞きながら、僕たちは3年生の教室がある棟を後にした。

 途中で大悟たちに「ここ楽しかった?」と聞かれたんだけど、「そこはやめとけ」と返すしかできなかった。


△▲△▲△▲△▲△▲


 姫乃としっかり話をしよう、そう考えてどこへ行こうかと悩んでいた時、急に姫乃が立ち止まった。振り返って「姫?」と聞いてみても、何も言ってくれない。と思ったら、突然「ついてきて」と言って早足で歩き出した。


「? うん」


 わけもわからず姫乃について歩く。やってきたのはあの屋上に続く階段。そこで姫乃はまた立ち止まった。僕は何が起こっているのかわからずぼーっとしていた。だから、反応できなかった。

 急にこちらを向いた姫乃が爪先立ちになり、僕の頬に両手を添える。固定された僕の顔に姫乃の顔が近づき、そして──

 事故なんかじゃない。はっきりと、()()()()()()()()キスだった。軽く触れるだけの、優しいキス。それでも、僕の意識を奪うには十分すぎた。


「………………姫?」

「さっきのは事故。だから、これが私たちのファーストキス」


 そう言って姫乃は含羞んだ。そこには怒りなんて感情が存在する余地はなく、ただ、喜びに満ちた、暖かい日差しのような笑みがあるだけだった。


「怒ってないの?」

「何で?」

「いや、それは……」

「確かに人に見られてたのは恥ずかしかったけど、でも、それだけ。私はちょっと嬉しかったよ」


 気がつくと、僕は姫乃を抱き寄せていた。腕の中に確かな温もりを感じ、安心する。そして僕を見上げる姫乃の潤んだ瞳に引き寄せられるように、唇を重ねた。ぎこちない動きだったかもしれない。それでも、姫乃はそんなキスを優しく受け入れてくれた。これ以上、何を望むことがあるだろうか。

 唇を離し、姫乃の目を見て言う。


「姫、大好きだよ。多分、いや、これからもその気持ちは絶対変わらないから」

「うん。私も、ずっとずーっと環くんが好き。今までも、これからも……ずっと私と一緒にいてね?」

「約束する。姫、絶対に離さない」


 姫乃が過去を話してくれた時と同じ言葉を口にする。それは約束であり、決意であり、誓いだった。

 一生、幸せにする。一緒に幸せになろう。そんな想いを伝えるように、もう一度、ぎゅっと抱きしめた。


 ファーストキスはレモンの味だった、なんて誰が言ったんだろう。少なくとも、僕たちのファーストキスは、微かにほろ苦く、それでも十分に甘い、ミルクチョコレートの味がした。

はい、ということで100話です。

ここまで読み続けてくださった皆さんには感謝の言葉しかありません。ありがとうございます。

100話は特別な回にしたい。80話を過ぎたあたりから漠然とそう考え始め、辿り着いたのがこの“ファーストキス回”でした。関節キス自体は経験しているものの、ちゃんとしたキスを書くのはこの話が初めてです。

賛否両論あるかとは思いますが、これが今の僕が書ける精一杯の物語です。

「あの場所でもう一度君と」はまだ続いていきます。受験期に入ると更新は難しくなると思いますが、できる限りのペースで更新していくつもりです。これからも応援して頂けると幸いです。

今後ともどうかお付き合い下さい。宜しくお願い致します。そして、本当にありがとうございます。



あ、まだまだフレンチキスはさせませんよ。彼らには早すぎますので。

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