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第二話 「召喚」

第一章

第二話 「召喚」


 魔法陣!!

 

 唐突に起こった非現実的な状況に、俺は唖然とするほかなかった。

 目の前の霊感娘はあいかわらず息を荒げており、俺の腕をつかんでいる手の力が強まっていく。

 

 足元の魔法陣は刻々とその様相を変えて行く。

 光の輪の中の文字や記号、星や三日月を表すマーク、六芒星、それらが次々と描き足され、またそれぞれが光を放ちながら回転している。

 二人を囲む光の粒子は、その光の強さを増し、まぶしさに目を開けるのがつらくなるほどである。

 

 な、なんだ……これは……プロジェクションなんとかってやつか?

 ドッキリ番組か何か?

 カメラはどこだ?

 俺、変なこと口走ってなかったよな?

 

 その時、霊感娘の様子が変わりつつあった。

 俺の腕を握る力は弱まり、呼吸も普通に戻り、俺の支えに頼らずに立てるようになっていた。

 俺の瞳を見つめるその顔は、心なしか微笑しているように見える。

 彼女は、ふぅ、と一息つくと、

 

「おじさん、助けてくれてありがとうございます。

 でも、なんかもう限界みたいなんです。

 あたし、誰かに呼ばれちゃって、もう行かないといけないみたい……」


 そう伝えると彼女は、俺の腕を放し、後ずさりをしてゆっくり俺から離れて行く。

 その魔法陣と光の粒子は、彼女の動きに追随していく。

 やがて俺の立っている場所はその幻想的な光の圏外となっていた。

 

 呼ばれちゃて、てどういう意味だ?

 誰に? どこに?

 

 魔法陣、てことはこれは魔法なのか?

 召喚魔法ってやつ?

 まじか、そんなの現実に起こりうるのか?

 

 そのまま、しばし時が流れる。

 彼女はその両腕で自らを抱くようにして、顔をうつむけている。

 

 彼女は、もはや抗えないことを悟ってしまったのだろうか。

 あるいは、恐怖という感情に押しつぶされそうになっているのではなかろうか。

 俺に何かできることは無いのだろうか。

 

 この時俺は、あまりにも現実離れした状況に、足がすくんで動くことができなくなっていた。

 俺ができたことと言えば、ただただ、その神秘的な光景を眺めるだけであった。

 しかし、次に起こるであろうと期待される現象、召喚……彼女がこの場所から消失する現象、が起こらない。

 そして、魔法陣の放つ光がゆっくりと明滅を始めた。

 常に彼女の足元に固定されていた魔法陣が、徐々に移動を始める。

 

 俺の方に!?

 

 彼女の元にあった魔法陣と光の粒子たちが俺をめがけて動いてくる。

 光の明滅はその間隔を徐々に短くしている。

 全く予想外の出来事に、俺はやはり動くことができなかった。

 近づいてくる魔法陣を目で追うことのみ……

 

 そして、魔法陣は俺の足元まで来るとその移動を止め、明滅も止んだ。

 放つ光が急速に強まる。

 俺の視界はまっ白だ。

 目を開けていられない。

 意識が混濁していく。

 

 誰かの声が聞こえる。

 低く、つぶやくような男の声……お経のような……呪文のような……詠唱、か。

 その声から、なぜか「意思」を感じる。

 その声の元に俺を招きいれようとする強い意志が。

 その意志が、俺の中に入り込んでくる。

 胸の中に、頭の中に、呪文を唱える声が徐々に大きくなる。

 

 もはや、その強い意志は、俺の意識を完全に支配してしまったかのように。

 そして感じる浮遊感。

 上下の感覚が無い。

 海面を漂うかのように、川の激流に流されるかのように、竜巻に巻き上げられ宙を舞うかのように、俺は混濁した意識の中、俺という存在がどこか遠いところに行こうとしていることを認識していた。

 

 唐突に、声が止んだ。

 まばゆいくらいに輝いていた光も、消失した。

 俺の体は、確かな重力の存在を感じており、その二本の足で地面を踏みしめていた。

 周囲を見渡す。

 

 そこは、深い森の中であった。




 樹高は30mから50mはあるだろうか。

 背の高い広葉樹が一面に生い茂っている。

 木はそれぞれに根を大きく張り出し、根元はところどころ地面を盛り上げている。

 かなり高い位置で枝を広げ、天井のように葉で覆っている。

 空を見上げるが、枝葉の隙間からかすかに光がのぞける程度。

 夜ではないようだが、朝なのか昼なのか判別できなかった。


 遠くから鳥の鳴き声が聞こえてくる。

 ときおり緩やかな風が吹き、木々の葉や下草を揺らし、ざわめく。

 

 そんな大自然を感じられる、マイナスイオンたっぷりの空間に、俺は一人たたずんでいた。

 呆然と立ち尽くしたまま、いったいどれだけ経っただろうか。

 

 なにこれ。

 夢?

 いや、さっき頬っぺたつねってみたし、痛かったし。

 こんな森の中でスーツ着たサラリーマンが一人とか、絵的にミスマッチとしか言いようがない。

 いや、絵的にとかどうでもいい。

 

 あまりにも非現実的な出来事に、俺の頭が認識するのを拒んでいたのだが、今の状況を声に出して言ってみる。

 

「俺、召喚されちゃった?」




 その時、すこし離れた場所で、下草が揺れてこすれる音がした。

 風で揺れたのとは明らかに違う。

 何かが……動いたのだ。

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