なんで、なんで
焚火を真ん中に、マオとヒロキは向かい合うように体育座りをしていた。
狼たちに襲われたため町まで戻るか考えたが、それなりの距離があるようで、今日はこのまま夜を明かした方が良いとヒロキが言いここに留まる事になった。
時々、パチッという音にヒロキが反応して、手に持つ枝で焚火をつつきながらヒロキが言う。
「お前さ・・、どうやってここまで来たんだ?」
「あー・・、えっと迷子かな?」
「はぁ・・・この辺りは手ぶらでこれるような所じゃないんだぞ・・・」
「じゃあ、ヒロキ君はなんでここにいるの?」
「レベル上げに決まっているだろ?」
「レベルいくつなの?」
「今日、な・・7になったところだ」
「そうなんだ~。すごいね~」
「そういうお前はレベルいくつなんだよ?」
「ん~。・・わかんない」
「はぁ・・」
「ヒロキ君はなんでレベル上げしてるの?」
「そりゃ強くなって、魔王を倒さないといけないからだろ?」
マオは少しビクッとしたが、表情を変えないようにして質問する。
「なんで、魔王を倒さないといけないの?」
「なんでって、勇者は魔王を倒す運命だから・・」
「魔王にヒロキ君に何かされたの?」
「いや・・別に何かされたわけじゃないけど、でもさっきみたいに魔物たちが人を襲ったりしてるからな」
「なんで、魔物は人を襲うんだろう?」
「なんで、なんでって・・お前子供かよ・・」
マオは子ども扱いされた事に、膨れっ面を見せる。
でも、すぐに表情を柔らかくして続ける。
「ヒロキ君あの時、私を逃がそうとしてくれたんだよね」
「まあな・・」
「ヒロキ君優しいんだね。ありがとう」
ヒロキはマオの視線を外し、「ちぇっ」といいながら照れ隠しをした。
「そういえば、腹減ってないか?」
その言葉を聞いてマオはこの世界に来て初めて、お腹が減ったような気がした。
「今日色々あって何も食べてない・・」
エヘヘと言いながら言うと、ヒロキがリックをまさぐり始めパンと干し肉を取り出した。
「あんまりうまくないけどこれ食え」
「いいの?ありがとう・・」
マオはパンと干し肉を受け取ると、それを眺めた。
思えば、この世界に来て初めての食べ物だ。
前の自分からのビデオメッセージを見た後、どれくらい寝たか分からないが、それなりに時間は経っているはずだ。
今まで空腹を感じなかったが、いま食べ物を目にするとお腹がすいた気がする。
マオが中々食べないのを見て、ヒロキが言う。
「パンの横を少しだけ割いて、そこに干し肉を入れるとそこそこ食べれるぞ」
マオは言われたとおりにして、意を決して干し肉サンドを口に入れる。
「パサパサしてて、あまりうまくないだろ」
確かに口の中の水気をパンに持っていかれて、すぐに返事ができなかったが首を横に振りながら言う。
「そんなことないよ。美味しい」
「本当か?ほら、これ飲みな」
少し笑いながら、ヒロキが革袋を差し出す。
ヒロキの笑顔を始めた見たマオも自然と笑顔になった。
しかし、差し出されたものを見てキョトンとする。
「なにこれ?」
「お前、本当に変わった奴だな」
そういいつつ、ヒロキが革袋の飲み口についたコルク栓を抜いて、もう一度マオに革袋を差し出した。
「ん。水が入ってるから」
マオは革袋を受け取り、飲み口にゆっくりと口をつけ、革袋の底を右手で持ち上げる。
はじめは中々水が出てこなかったが、しばらくすると口の水分を補えるくらいの水が出てきた。
元の世界で飲む水とは違う、太陽の匂いがするような味だった。
水を飲み終えて、革袋をヒロキに返しながらマオが言った。
「私が知っているヒー君もすごく優しいんだ」
「・・・・・」
「優しくて虫も殺せないの。ある日、私が大嫌いな虫が出てね、キャーって言ってたら・・。ヒー君最初はその虫を退治しようとしてくれたんだけど、結局虫を捕まえて外に逃がしたの」
「・・・・・」
「さっきの戦い見ててね、何か似てるなぁ~って思って」
「・・・・・」
「ヒー君。さっきの狼殺さないようにしていたよね・・?」
「うるさい!!」
突然言い放ったヒロキの言葉に、マオがビクッとする。
ヒロキの声に反応したかのように、遠くから狼の遠吠えが聞こえる。
「ごめん・・・・もう遅いし寝ろよ・・・。俺が見張りをしているから」
「うん・・」
マオは体育座りをしながら眠ることにした。
ただ、頭の中に色々な考えが浮かび中々寝付けなかった。
(さっき、大きな窓の部屋で起きたばかりだしなぁ・・)
(マオが知ってるヒー君とは違うのかな・・?)
(記憶がないとか?)
(大きなワンコたち逃げていったけど、あれも魔法なのかな?)
(何で勇者が魔王を倒すって決まってるんだろ?)
(うーー、色々なのが頭の中ぐるぐるして寝れないーーー・・・)
マオは、ゆっくり頭をあげてヒロキの様子を伺う。
ヒロキは剣を抱きかかえるように座り、こっくりこっくりとしていた。
そして、眠りが深くなりかけた時に横に倒れそうになり、慌てて起きて回りを警戒する。
マオはとっさに、気づかれないように頭を下げる。
しかし、気配でまたヒロキがこっくりし始めたようだ。
(きっと疲れているんだろうな・・)
(あの大きな窓の部屋にあるベッドに寝かせてあげたいな・・)
(あのベッドすごく寝心地よかったし・・部屋の暗さもちょうどよくて・・)
大きな窓の部屋の様子を思い浮かべていると、額のあたりがぱあっと明るくなった。
目を上げると、やはりあのひし形が表れていた。
(あの部屋に戻れるのかな・・・)
(ヒー君も一緒にいけるのだろうか・・?)
(よく分かんないけど、ヒー君を触っていれば飛べそうかな・・・)
マオは、ヒロキを起こさないようにゆっくりと立ちあがり、ヒロキの横で跪き、ヒロキの肩に気づかれないようにそっと左手を置く。
ヒロキが小さくびくっとしたようだが、起きてはいないようだ。
それを確認して、マオは右手でひし形を触る。
予想通り、マオたちは光に包まれる。
ひし形に触るのも3回目なので、マオは辺りをキョロキョロしてみる。
光の中にいるのに何故か眩しくない。
目の前にあるはずの焚火などはすでに見えず、焚火のパチパチという音が遠のいていく。
気付けば、最初のベッドの上に座っていた。
ヒロキも一緒に飛んでおり、すっかり頭を垂れて熟睡している。
マオはゆっくりヒロキが抱きかかえている剣を抜き取り、ベッドのわきにおく。
そしてヒロキをそーっと横たえ、そーっと手を離す。
しばらく、マオは手を離した姿勢のまま一時停止させてヒロキの様子を覗うが、ヒロキはスースー寝息を立て始めていた。
その様子をみてクスッっと笑い、マオもベットに横になった。