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JKマオ

 それは、七海(ななみ) 茉央(まお)のいつもの悪ふざけだった。


 親友の沙紀と冗談を言いながら高校の廊下を歩いていた時、向こうから幼馴染の安宅(あたか) 宏樹(ひろき)が歩いてきた。

 このパターンではいつもすれ違いざまに、茉央が宏樹にタックルをしたり背中をキックしたりしていた。

 これは、宏樹に恋心を持つ茉央の幼稚な表現方法の一つだったのだが・・。


 その日茉央は、何を思ったか宏樹に頭突きをかまそうとした。

 普段とは違う予想外の茉央の行動に宏樹は驚き、とっさに避けようとした。

 そのせいでバランスを崩した宏樹は、廊下に茉央を押し倒す形になってしまった。


 ゴン・・・


 鈍く嫌な音がした。

 沙紀は茉央たちのいつもの悪ふざけと笑ってみていたが、茉央が全然起き上がらないのを見て慌てだす。


 後頭部を強打した茉央の意識が遠のく---。


「茉央!?・・・ねえ・・マオ?!」


「・・・マオ・・。マオ・・」


(ん・・サキ・・?)


「・・マオさ・・マオさm・・マオ様」


「ん・・なに・・?」


「おお、お戻りになられましたか」


 マオは、朦朧としながら何とか記憶の糸を手繰り寄せようとしていた。


(あれ・・。確か学校の廊下で・・サキと・・ヒー君に・・)


 瞼が異様に重く、周りを確かめようとするが視点が定まらない。

 煙の中にいるような感覚を覚えるが、息苦しくなるような煙たさはない。

 やがて、背中が感じる感触からベッドに仰向けで横たわっているのが分かる。


(ああ・・、保健室で寝ているのかな・・)


 しばらくして、マオは自分の体ではないかのように重く感じる体を、ゆっくりと起こした。


「偉大なる魔王様。予言通りのお戻りですじゃ。」


「・・・・・・え?」


 まだ視界がぼやけていたが、マオは意味不明な発言をする人物の方向に頭を向けた。


 そこには、中型犬ほどのカエルが杖を手にし、2本足で立っていた。


「か・・・か・・かえるがしゃべってる?」


「ホッホッホッ。このポロゴ、魔王様のお戻りに2回立ち会わせていただいておりますが、同じ事を仰いますな」


「2回・・?」


「お隠れになる前に魔王様からご命令されておりました・・、こちらをご覧いただく事になっておりますじゃ。」


「え・・・わたし・・が、まおうさま?」


「魔王様は魔王様ですが・・」


「・・・・・」


「魔王様?」


「私は魔王なんかじゃなくて、ただの高校生だけど・・」


「それはそれは・・、ではこちらをご覧くだされ」


 カエルは台本通りですよと言わんばかりに応対し、カエルが持っている杖を振りかざす。

 すると、カエルの前の空間に50インチワイドくらいの薄い膜のようなものが現れ、映像が映し出される。


 そこに映っていたのは、間違いなく自分だった。


『マオさん・・。自分に向かってこう呼びかけるのは少し照れますね・・』


 映像の中のマオが照れ笑いをした後、コホンと咳払いして続ける。


『まずは、とても驚いたと思います。

 この見知らぬ部屋も、この映像を見せてくれているポロゴも、何もかもが驚きだと思います。


 きっと、あなたは自分が魔王ではないと言ったと思います。しかし・・残念ながらと言った方がいいのかもしれませんが、あなたは魔王という立場でこの世界にいます。


 そのうえで、少し難しい事を言います。


 今話している私はあなたであり、そしてあなたではありません。』


 いまだ頭がぼんやりしているのに、さらに訳が分からない事を言われ、マオは無意識のうちに「へ?」と言いながら首を傾げていた。


『今話している私は、間違いなく七海茉央です。


 その意味であなたは私と同じです。


 でも、今の私は勇者に倒されたという意味で、あなたとは違うのです。


 これは前の私が言っていたことですが、恐らく私たちはそれぞれ別の宇宙にいる茉央だそうです。

 私自身難しくてよく分からなかったので、別の可能性の自分と考えていました。』


 別の可能性の自分・・・と、マオは小さく呟いていた。

 確かに映像に映し出されている自分は、今のマオより落ち着いた雰囲気で、少し年上のようにも思える。

 もしかすると、この世界に来た時の年齢も性格も微妙に違うのかもしれない。


『難しい話はこれくらいにして、これからの事をお話しますね。

 あなたは魔王と呼ばれる通り、膨大な魔力を持った存在です。

 使いこなすのに少しコツがいりますが、いわゆる魔法が使えます。

 細かい話はポロゴから聞いてください。


 そして、ここからが大事な事ですが、私を倒した勇者も同じように今この世界にいます。

 私の時と同じであれば、今の勇者は全然強くありません。

 レベルはたぶん1桁でこれから冒険に出ようとしているヒヨッコです。

 一方、あなたは有り余る力を持っており、今の勇者であれば赤子の手をひねるより簡単に倒せるでしょう。

 もし、あなたにとって良いと思うなら、すぐに勇者を倒すこともできます。


 ・・・でも、この事を忘れないでください。

 私も、そしてその前の私も言っていましたが、勇者に何の怨みもありません。

 全ては、自分の目で確かめて、正しいと思うことを決断し、悔いが残らないよう実行してください。』


 映像の中のマオが微笑むと、薄い膜のようなものが溶けるように消えた。


「・・・・・・」


 しばらくの沈黙の後、カエルが話しかけてくる。


「魔王様。ご理解いただけましたかな?」


「・・・・・・」


「魔王様?」


 カエルがベッドに近づきマオの顔をのぞきこむ。

 俯きながら、マオはプルプル震えていた。


「分けわかるかーーーーーーーー!!」


 マオは、ベッドにうつ伏せになって枕に顔をうずめた。

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