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マジック・オブ・ブレイヴ  作者: 早河 遼
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六節 救済

 

「……よし」


 僕は試しに右手を開閉してみる。やはり特に変わった所は無い様に感じる。


 でも、もしチャックの言う通り、本当に魔力を扱えるようになったのであれば、日野子の炎の魔力にも対抗出来るし、先程の〝騎士の精霊〟は防御に適していたので、あの大きな火球にも対応する事が出来る。一応、こちらが優勢という事だ。


 最早、これしか対抗策は無い。今度こそ、この手で救うんだ。


「行くよ、チャック! とりあえず日野子に近づこう!」


「えぇ、解りました。援護致します」


 最優先でやるべき事は、彼女の魔力暴走を抑え込む事だ。でもそれには、彼女の感情を落ち着かせる必要がある。


 だから、出来るだけ彼女に近付いて、コミュニケーションを図ってみる。これが僕の考えだ。


「駄目……来ないで……! ……きゃっ!」


 日野子がそう言ったかと思うと、彼女の手から再び数発の火球が放たれ、此方に向かって飛んできた。しかし、今の僕は全く動じなかった。


「よし、とりあえず試してみるか……」


 僕はそう呟くと、先程現れた騎士の精霊を頭の中でイメージした。そして、手を前に広げ、力を込める。途端、身体の奥底で、家ではほんの少ししか感じなかった魔力がはっきりと流れるのを感じた。


 すると、僕の両手は徐々に白光を纏い、瞬く間に白い靄と共に目の前に白く大きな物体が現れた。前方から飛んできた火球は、その白い物体によって防がれ、僕の目の前で音を上げて爆発した。


 黒煙と共に目の前に現れたのは、案の定、先程の二体の〝騎士の精霊〟だった。手にするその大きな盾で、僕の身を見事に火球から護ってくれた。


「よし、この調子で――」


 しかし、安心するのはまだ早かった。今度は前方から二本の火炎放射が音を上げながら迫ってきていた。……どうやら、本格的に魔力の暴走が悪化してきたようだ。


 二体の〝騎士の精霊〟は盾を構え直す。途端、灼熱の炎がその盾と接触する。放射された火炎は何とか盾が防いでいるが、それでも激しい熱風が後ろにいる僕にまで届き、目を開けるのも難しい程の風圧と高温が僕を襲う。


 五秒経つ頃には、火炎放射は止んだ。しかし、その火炎が止むのと同時に、〝騎士の精霊〟達が微かに白光を漏らしながら、靄の様に消えていってしまった。限度が来た、と言った所か。


「うぐっ……うがっ……ッ!」


 再び、日野子の呻く声が聞こえた。

 すると、今度は彼女の身体が激しく紅に発光し、そこから数発の火球が次々と放たれる。放たれた火球の一部は、軌道を変則的に変え、僕の方へと飛んできた。


 これは、流石にまずいな。


 僕は前方へ転がり、上方から降ってきた火球を躱す。多分、二、三発は躱せたと思う。


 その後、受け身をして咄嗟に立ち上がり、前方から飛んできた一発を、身体を反らしてぎりぎりの所で回避する。そのすぐ上を、もう一発が横切っていくのが見えた。更にそこから横に飛んで、更にもう一発を何とか躱す。


 しかし、このステップによってバランスを崩してしまった。身体の重心がブレ、着地に失敗する。


 それに追い打ちを掛けるかの様に――。


「…………! しまっ……!」


 ――二、三発の火球が、此方に誘導されるかの様な軌道で近づいてきていた。気づいた時にはもう遅かった。バランスを崩していた僕には、避ける術も魔力を解放する余裕ももう無かった。


 もう駄目か、そう思った矢先。


 一つの影が僕の目の前に飛び込んできた。


 同時に、二つの音が僕の耳に入ってくる。

 棒の様な物を振る音、火が風か何かで消える音。


「…………………ッ!」


 目の前にあったのは、短剣を片手に構えたチャックの姿だった。どうやら、見事な剣術によって火球を防いでくれたようだ。


「……助かったよ。有難う、チャック」


「お気になさらず、マスター」


 チャックは、相変わらずハンサムで落ち着いた声でそう言うと、日野子の様子を確認した。


「う……ウグぅぅううッ……!」


 ――日野子の魔力暴走は、相変わらず収まる事を知らなかった。むしろ、先程より更に悪化している様にも思えた。


「これはまずいですね。このままでは、彼女の身が魔力に耐えられなくなって、崩壊してしまいます」


「そ、そんな……!」


「何か手を打たなければ……、もう時間も限られています」


 日野子とはまだ少し距離がある筈なのに、彼女の魔力はもうここまで感じるようになっていた。彼女を熱源とした熱気と何かピリピリしたものを、肌に感じる。


 彼女の身体の赤光は、先程よりもどんどん強さを増していた。そんな中、日野子は身体を小さく屈めながら、必死に魔力を抑えようとしていた。


 苦しそうに声を漏らし、泣きそうになりながら――。


「もう、いやだ……! もう……誰も傷付けたくないのにッ……、なのにッ……! うぐっ……、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 すると、日野子の叫び声に呼応するかの様に、彼女を中心に熱風と炎が放射状に放たれた。あまりの衝撃に、周りの瓦礫や窓ガラスが音を立てる。


 僕は腕を前に出して防御態勢を取る。強靭な熱風と灼熱の炎が身体に強い衝撃を与える。熱さによってか皮膚がピリピリするのも感じた。



 熱風が収まった瞬間、僕の目に、日野子が胸を抑え、肩を微かに震わせながら、苦しむ姿が焼き付いた。



「――――――っ!」


 ……もう、沢山だ。

 彼女の苦しむ姿を見るのはーー。


 もう二度と彼女を苦しませたくない。

 もう二度と彼女のあんな顔を見たくない。


 そうだ、ここで終わらせなければならない。

 僕が、彼女を、救わなければ……!



「………っ!日野子っ………!」



 僕は、彼女のいる方へ無我夢中で走った。

 ただただ彼女を救いたいという一心で。


 そして――。


 ――また、考えるより先に身体が動いてしまっていた。


「ふぁっ⁉︎」


 日野子の間抜けな、驚いたような声が聞こえる。

 まぁ、驚くのも、無理はないだろう。


 僕は、何故か――。


 彼女を、抱きしめていた――。


 普段なら絶対にやらない事だろう。というか絶対拒絶される。しかし、余計な事を考える余裕も、全くと言って良い程無かった。


「し、シル、ク……?」


 やはり、魔力のせいで物凄く身体が熱かった。加護を受けている僕でなければ、火傷してしまう程。


 しかし同時に、その体温と、汗で湿っていた身体から痛い程伝わった。どれだけ彼女が必死になっていたかが。



「……自分だけ、苦しまないでよ。僕にも、一緒に背負わせろよ。昔からの仲じゃん」



 日野子は、しばらく言葉を失っていた。


 多分、僕の予想外の行動に驚きを抑え切れなかったのだろう。僕でさえも信じ難い。今日の学校での会話からは考えられない程のキザな台詞だからな……。


 しかし、日野子には伝わったのかな。

 いつしか彼女の声が耳に届く。



「……うん、ありがと、シルク」



 腕の中の日野子の異常な火照りと激しい魔力反応が、少しずつ消えていくのを感じた。彼女の感情も大分落ち着いたようだ。


 無事、魔力暴走を抑える事に成功した。



「成功……ですね」


 チャックは深く溜め息を吐く。


「あぁ、本当に、お疲れ様」


 ほんと、今回は彼に物凄く助けられた。彼が居なかったら、僕は今頃死んでただろうし、日野子を助ける事も絶対出来なかった。チャックには、本当に感謝の気持ちでいっぱいだ。



「……うっ、うぁぁあぁ………」



 すると安堵してか、それとも先程までの状況の恐怖によるものか、腕の中の日野子は嗚咽を漏らす。 僕の服が湿っていくのを感じる。


 一瞬戸惑うが、何故か苦笑してしまった。


「全く、情けないなぁ……」


 僕は彼女を慰める為、そして少しでも安心させる為に、その頭を優しく撫でた。

 



 

御精読、有難うございます!


ここで、魔力の解説です。


シルクの魔力、〝精霊〟はその名の通り精霊を操る事が出来る様になる魔力です。精霊を現界するのは勿論、加護を付与してもらう事で様々な耐性を身に付ける事が出来ます。


案外オールラウンダーな魔力ですが、精霊達と意思疎通をする必要がある為、魔力暴走は無いものの制御はかなり難しい物です。お人好しなシルク君だからこそ使い熟せる魔力ですね。


これでやっと救われた、と言いたい所ですが、次回更なる危険が彼等を襲います。

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