十二節 光と闇
それからしばらくして。
新たに僕等の仲間の一員となった響君に、魔力の基本事項を改めて説明する事にした。
魔力者としての経験は一番長い彼であるが、それでも魔力に関する知識は疎い。なので、せめて基本事項だけでも頭に叩き込んでもらおう、と考えたのだ。
そもそも魔力とは何なのか、魔力解放や魔力暴走……等々、チャックが僕に説明してくれた事を、覚えている範囲で全て話した。
説明を終えた所で、響君は成る程と相槌を打つ。
「言いたい事はよく解った。魔力の仕組みとかもお前らの目的も。つまりシルク君は、魔力者の認識を変える為にその精霊さんと行動を進めている、という事か」
「まぁ、大体そんな感じだね。具体的にどうすれば良いかは、まだこれっぽっちも決まってないけど」
「……それでもやっぱ凄ぇよなぁ。お前の仲間になれて、本当に良かったぜ」
「よ、よせ。照れるじゃないか」
つい照れくさくなって、頭を掻いた。
「あ、そうだ、良い事を思いついた。ここを三人の秘密基地にしようぜ」
「秘密基地?」
日野子は響君に訊く。
「あぁ、ここを三人の魔力の練習場にするんだ。他の魔力者を見つけた時の対策を練ったりとか。何かそう言うの、秘密結社みたいでカッコいいしな」
目を輝かせながら語っていた。響君、予想はつくけどそういう一面もあるんだな。
でも彼の言う事は筋が通っている。この辺りは、遊歩道に近い割には人気が非常に少なく、魔力の練習には持ってこいな場所だからな。秘密基地というより、拠点と言った方が響きが良い気もするが。
「すんごく良いアイデアだと思う! 私もそういうの好きだよ、秘密結社! 何だか、キャッツ・アイみたいで!」
「今時の女子高生が最初に出る例えじゃねぇだろそれ」
しかも、秘密結社というより怪盗だし……。まぁ、似たり寄ったりではあるが。
「一応、僕も同感だ。対策や練習も、三人でやった方が断然良いだろうし」
「うし、それじゃあ決まりだな。じゃあシルク、団長をやってくれ」
「………ほぇ?」
いきなりぶっ飛んだ提案が来て、変な声を出してしまった。てかその前に団長って何?
「中々目が利きますね、響さん。貴方のその人を見る才能を高く評価しましょう」
「あはははは! シルク団長とか面白すぎる! 良いんじゃない? それ」
チャックと日野子は絶賛していた。てかこら、勝手に物事を進めるんじゃない。そして、そんな爆笑するな。軽く傷付いたんだけど。
「……おっと、もうじき五時か。俺、今日塾があるんだよ。ほんっとうに怠い」
「あ、そうなんだ。……時間的にもキリが良いし、今日の所はこれで解散しよっか」
二人の会話を聞いて、スマホの電源を入れる。響君の言う通り、あと三十分位で五時になる所だった。空も赤みを増し、日が落ちてきていた。
「そうだな。それじゃあまた次の機会に」
こうして僕等はこれを境に、それぞれの帰路に立つ事となったのだった。
……ちょっと待て。結局、団長だ何だの件は僕になったの? そこんところ、もう少しはっきりしてほしいんだけど、ちょっと?
◆◇
……十分後。
何だかんだで、僕とチャックは夕陽を浴びつつ、横に並んで住宅街のアスファルトを歩いていた。カラスの鳴く声や、犬の吠える声が何処からか聞こえてくる。
帰路を進みつつ夕陽を目に映しながら、僕はふとさっきの出来事を思い浮かべた。
……同じ魔力者、という共通点を持っている所為か、結構気が合う部分が多く、馬鹿げた会話だったけど話してて楽しかった。今日は結構充実した一日だった。皆、良い人ばかりだし。
次に会うのが楽しみだ。そう考えて、僕はふっと表情を柔らかくした。
――それは一瞬の事だった。
「―――――っ!」
横にいたチャックが突然後ろを振り向き、短剣を振った。何かを察したかの様だった。
チャックを目で追う様に僕も後ろを振り向く。途端、眼前に黄色い電流が走り、雷鳴の様な音が辺りに響き渡った。それと同時に、若干肌に刺激が走るのを感じた。
どうやらチャックは、不意に放たれた何かを素早く察知し防いでくれたようだ。その〝何か〟が魔力である事に気付くのに、そこまで時間は要らなかった。むしろ言うまでも無い。
「ありがとう、チャ――」
「まだです! 急いで防御態勢を!」
そう言われたのも束の間、すぐさま二つの太い電流がこちらにやって来た。
電流、の割にはあまり速い速度では無い。しかし、目で追えるレベルであるだけで、油断は出来なかった。
僕は咄嗟に魔力を解放すると、両手を交互に仰いだ。
すると、それと同時に、白い靄の様な光に包まれた二体の霊が前方へと飛んでいく。霊は距離を伸ばすにつれて、人の様な姿をくっきりと作り出していった。
あれこそが、僕の魔力によって現界した精霊達だ。ここ最近の自主練によって、大体の精霊は現界出来るようになった。あの下位精霊であれば、魔力の消費も少なく、簡単に現界出来る。
二体の精霊は、電流の目の前までくると、手にしていた短剣を斜めに振るい、電流を相殺した。その後、役目を終えた事を理解し、まるで霧が晴れるかの様に消えていった。
「良い調子です、マスター」
「ありがとう。しかし、今のは一体……」
「察するに、あの魔力は〝電撃〟です。先程の電流も、恐らくその魔力によるものかと」
「成る程……」
〝電撃〟か。微小に残る魔力反応から察するに、この魔力も響君の〝電棒〟と同じく使い慣らされた感覚がある。しかし、一体誰がこんな事を――。
「……思ってたよりは、大分使い熟してるみてぇだな。ま、期待外れでは無かったな。合格だ」
すると、電流の飛んできた方から、僕等を嘲笑う声が聞こえてきた。目を向けると、そこには一人の少年が立っていた。
〝電撃〟の魔力者はあの少年か。見覚えの無い、如何にも悪そうな顔だった。外見から察するに、僕と同じ年代に見える。
「……先程から私達をつけていたのは、貴方でしたか」
「あんたらの周りが居なくなるのを待ってたんだよ。全然散る気配も無くイラついてたが、漸く好都合になったという訳だ」
目の前の少年はそう言うと、悪者っぽくニヤリと笑い、右手に電流を流す。そして、その手を此方に向け、僕等に向けて放ってきた。
咄嗟に僕とチャックは外側に飛ぶ。その間を太い電流が雷鳴を響かせながら呻りを上げて通過した。
無事に躱せたものの、電流がすぐ横を掠め、肌がピリピリと痺れた。
「…………ぐッ!」
「……ま、このぐらいは避けれるか」
少年はそう呟く。
……今、コイツこのぐらいはとか言ってたな? 今のを避けるのでさえも精一杯だったのに……。まさか、更に強力なヤツが来ると言う事だろうか。
「…………ウッ、ウガぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」
……僕の予想は正しかった。
少年がその場で大声で唸ったかと思うと、彼の体内の魔力が一気に膨張していくのを感知した。
魔力解放、だろうか。しかし、既に彼は魔力を解放している。それどころか、魔力解放の状態から、彼の魔力が変異的に膨張し、それが一気に解放された様に感じた。
近い感じで言うと、日野子が魔力暴走を起こした時の彼女の魔力。その膨大さで例えれば、正にそんな感じだった。
しかし、彼はその膨大な魔力を暴走させずに制御し、全て自らの物へと変えていた。 その魔力の膨大さは、日野子の暴走した魔力等とは、比べ物にならない。今まで感知してきた魔力の中で、最も反応が強かった。
〝解放〟では無い。
かと言って〝暴走〟とも言えない。
上手く例えるなら、それは――。
〝覚醒〟だった。
「俺様の名は〝雷鬼〟! 〝豪腕〟の名においてッ! 〝精霊〟の魔力者である貴様を排除するッ!」
魔力の覚醒によって、身体中に電流を帯びている雷鬼と名乗る少年は、まるで狩りをする前の狼の様にギラギラした目でそう言い放った。




