表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マジック・オブ・ブレイヴ  作者: 早河 遼
11/26

九節 散歩

 

 ◆◇


 それから数分が経った。


 日野子の散歩に同行する事にした僕は、道中、学校の事を色々と報告していた。


 授業の事は勿論、火事の件を先生や同級生が話題にする事、その事が原因で色々と大変な思いをしている事、チャックがストーキングしてくる事、等々。


「……途中から、ただの愚痴に変わってきてるよね?」


「それは……ノーコメントで。チャックの件に関しては、愚痴と認めるけど」


 日野子は、やれやれとわざとらしく溜め息を吐く。


「まぁ、でも〝精霊〟の魔力は大変そうだよね。チャックとかみたいに、魔力解放しなくても、勝手に現界しちゃうのもいるからね」


「……勝手に、とは聞き捨てなりませんね。日野子さん?」


 突然、背後から低い声が聞こえてきた。


「私は、マスターを御護りする為に、常に現界しているのであって……」


「だから、別に平気だって言ってんのに……」


 お前の過保護の所為で、どんだけ亡霊とか死神扱いされたと思ってんだよ……。


「……くすっ」


「なんだよ……」


「いやぁ、ごめんごめん。二人の会話がなんか可愛くて……。ほんとに二人共、仲が良いね」


「か……可愛い?」


 羞恥心でか、耳が熱くなる。


「当然です。私はマスターに一生お供する身です故、固い主従関係で結ばれております」


「止めろ、馬鹿。恥ずかしいわ」


 しかも、固い主従関係って……。その関係作ってからまだ四日ぐらいしか経ってないだろ……。


「でも、確かに普段の生活でバレないようにするのは、ちょっと難しいかもね。その点だと、なんだか大変そう。私の魔力は、解放しない限りは、バレる事はあまりなさそうだから」


「だろうな。全く、これからどう言い逃れすれば良いものか……」


 そう言って肩を竦め、溜め息を吐く。


 それに関しては、これからの個人的な大きな課題である。そろそろ言い逃れる時の言葉を変えてみようかな。



 ……と、会話が結構盛り上がっていたので、景色の変化に気付けなかった。いつの間にか、僕等は住宅街を抜け、木々が生い茂る遊歩道に入っていた。


 普段だったら通学路として使わない道だったので、目の前に広がっている景色は、中々新鮮だった。


 木漏れ日が僕等の通る道を暖かく照らしており、小鳥の囀りが耳に入ってくる。雨上がりだからか、木々の雫が光を反射し、きらきらと瞬いていた。


 また、遊歩道だからか、様々な人とすれ違う。ジョギングをする人、犬と散歩する人、追いかけっこをしている二人の子供、等々。だからだろうか、自然の温もりだけでなく、人の温かさも感じられた。


「……なんだか落ち着くね」


 僕の横で、日野子が柔らかい笑顔を浮かべた。


 ……なんだか、いつもの日野子に戻ったような、そんな気がした。心の何処かでホッとする。


「……だな。この道だけ、違う空間に感じるよ」


「だよねぇ。もしかしたらここ、チャックの仲間がいるかもね」


「うーん、それはどうだろ。チャックが言うには、精霊は聖域とか言う所に住んでるらしいし。それに、精霊が居そうな感じは特にーー」


 言い掛けたところで、言葉を痞えてしまった。


 そんな僕を見て、日野子は首を傾げ、僕の顔を覗き込んだ。


「……どうしたの、シルク? どこか具合でも……ッ!」


 どうやら日野子も感じ取ったようだ。


 微小にしか感じなかった。しかし、それでもはっきりとこの〝違和感〟を感じ取った。日野子やチャックから感じる様な、場違いなオーラを。


 間違いない、この感じは、魔力だ。


 この感じだとあまり遠くない所にいるようだが、どうやら日野子の時に感じたような膨張は感じられない。察するに、使い慣らされている魔力のようだ。


 付け加えればその魔力から、敵対心とか、そういったものも感じ取れなかった。此方から何もしなければ、襲われる事は無いだろう。


 だから、ここは一旦距離を取って――。


「ねぇ、シルク」


 不意に日野子が話し掛けてきた。何事だろう、と疑問に思い、彼女と目を合わせる。


「あのさ、ほんとにおかしい事だと、自分でも理解してるんだけどさ……」


 そして日野子は、悪戯っぽく笑みを浮かべる。


「……あの魔力の発生源まで、行ってみようか」


「はっ⁈」


 予想以上に突拍子な事を言い出したので、また大声で驚いてしまった。ここが遊歩道だからか、物凄く視線を感じてしまう。ほんと、ごめんなさい。


「……いや、でも発生源に行くって、魔力者に会いに行くって事だぞ? いくら敵対心を感じないって言ったって……」


「もちろん、シルクの言う事もごもっともだと思う。だけど、あの魔力の使い慣らされた感じから察するに、きっと魔力に関して多くの知識を持っている人だと思うの。だから、一度会ってみて話をしてみた方が、これからの魔力との向き合い方がはっきりすると思って」


「だけども……」


「シルクが嫌なら私だけ行くよ? 無理強いはしないし、私だけでも――」


「待て、なら行く」


 ……正直、乗り気ではない。


 しかし、日野子の言う事も間違っていないし、それに彼女を一人にする訳にはいかない。


 彼女がその魔力者に襲われたとなったら耐えられないし、それにまた暴走を引き起こすかもしれない。だから、僕が彼女に付いていないと。


 まぁ、そうと決まれば、早速行動に移すか。


「チャック、魔力の発生源まで案内してもらっても良い?」


「……承知しました。なるべく最短のルートで、ご案内致します」


 チャックに道案内を任せ、僕等はその魔力の発生源へと先を急ぐのだった。



 ◆◇



 丁度その頃。


 魔力の発生源と思われる所に、青白い光を発した光棒を振るう、一人の少年の姿があった。


 まるで近未来的な剣を振るった時に聴こえるようなSF世界風の効果音が、辺りに響き渡っていた。


「………ふぅ」


 息を吐き、額の汗を拭うのと同時に、自分と似たような魔力を二つ程感じた。しかもその内の片方は、既視感の様な物を感じる。


「……シルク君か。俺の方から行こうと思ったのに。まぁここなら、人に聞かれる心配もないかもな」


 少年は、魔力の棒を両手で効果音を響かせながらくるくると回し、そして右手に持ち直した。


 持ち直された魔力の棒は、そのまま両端から徐々に縮小していき、消えていった。

 

御精読、有難うございます!


次回は、ラストで魔力の棒を振るっていた少年の正体が明らかになります。(早い)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ