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5話 せかいちず

12月15日 えーっと、ジャンル別 歴史〔文芸〕部門の日間ランクで2位とは何の冗談でしょうか。

10話ぐらいかけたら、「戦国小町苦労譚」や「改訂版・戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。」などで感想を書くついでに作品の告知をすれば、多少は読まれるのじゃないかと思ってはいましたが、何故こうなった?と混乱しています。それに、横蛍さんからもコメントをいただき、びっくりしています。

今回、説明回になってしまいかなり長くなり、また、次回もそうなりそうです。視点を変えたり、吉法師や安兵衞のキャラ立ちでなんとか工夫していますが難しいです。後、敬語の使い方にも苦労しています。

 せかいちず


side・織田弾正忠三郎信秀


「津島の親父殿がここまでやってくるだと。どういう風の吹き回しだ。」

 先触れがもたらした知らせを小姓から受け取った儂は意外に思った。親父殿はそこいらの十把一絡げの武士とは違った武士だ。米が得られる農地ではなく、津島という湊を得ようとした。

 何回かの戦で武威を示した後は、儂の姉である「お蔵姉」を津島の筆頭であった大橋家に遣わし、円満に津島を己のものとし、保護した。この乱世、津島とて強い武士の保護があるのは利がある。親父殿が戦を仕掛けたのは自分の価値を津島に示したかったからだ。だから。戦でも、乱暴狼藉を配下の者どもには許さなかった。津島衆はそれを理解したから、親父どもの差配を受け入れ、今は弾正忠家に尽くしてくれる。

 だが、世間には武士のくせに銭を好んで、欲深いなどと言うたわけた輩もあった。

 特に儂の一応は主君である守護代の織田大和守家の連中には多かった。たわけた奴らよ、どうせ己らよりも戦に強い親父殿を少しでもおとしめたかったに違いない。

 親父殿は確かに銭に詳しい、算も立つ。だが、妙に欲が少なかった。そうでなければ、元服間もない儂に己の築いた勝幡城を譲り、さっさと津島に隠居などすまい。

 儂は親父殿が家督を譲った時の教えに従い、お人好しの今川氏豊の城を奪い、今は尾張のもう一つの大きな湊、熱田を狙っている。

 ふむ、何か津島に面白いものでも入ったのかもしれぬ。折良く京より山科言継卿も来ておる。五郎左衛門と共に親父殿に三人で会おう。二人も親父殿に会うのは久しぶりじゃ。喜ぶであろう。


 謁見の間で、儂が言継卿と並んで座り、言継卿の下に五郎左衛門が控えるとすぐに親父殿が五三郎を連れて入ってきた。

 何故、五三郎まで連れてきたのかと不審に思ったが、親父殿は言継卿に挨拶をし、五三郎の名を披露した。そして、五郎左衛門に『久しいな」と声をかけた。

 なにやら、親父殿の機嫌がよい、また顔色もいい。いや、以前見たときより若返った様にさえ見える。


「実はの、せがれ殿。昨日見舞いに来てくれた五三郎が、途中で急な雨にあった上に雷にやられた。」

「何だと、それで五三郎の具合は・・・・。なるほど、それで五三郎をこの場にわざわざ連れてきたのか。五三郎、災難だったな。具合はどうじゃ?」

「はい、口取りの小者が雷に焼かれて死に、供の者の言葉によれば、某も一時は息が絶え、心の臓も止まったようですが、今はこのように無事でございます。」

 言継卿も、五郎左衛門も口々に「五三郎殿は体の芯が強いのだろう」、「牛頭天王のご加護やもしれません」、などと、五三郎に声をかけている。親父殿が五三郎に声をかけてくれた言継卿に礼を述べた。そして、言葉を続けた。

「実はの、言継卿、五三郎は自然に息を吹き返したのではない。死にかけた五三郎に手当を施して生き返らせた御仁がいる。旅の者で、身分がある者ではないが医業に長けた者である。せがれ殿からその者に礼を言わせたいが、言継卿もかまわないであろうか?」

「麿も、医業に携わる者じゃ。それほどの者なら、身分など気にはせぬ。それに信定殿の顔色もよい。何かその者から薬でももらったのではないかな。そうであるなら是非、話を聞きたい。」

 なるほど、そう言うことか。さすがに言継卿も医業を修めた者よ。親父殿の顔色の良さをめざとく見抜き、その理由に思い当たったか。親父殿がその言葉にうなずいた。

「うむ、五三郎、言継卿の許しも得た、かの者たちをここに案内せよ。それから五郎左衛門、吉法師もここに呼ぶがよい。いろいろと学ぶべき話を聞けよう。」

 五郎左衛門が、言継卿と儂に目をやり、言継卿と儂ががうなずくのを確認して立ち上がった。


 見事な銀髪に玉のような白い肌、深い緑の瞳、この女子は人なのか、話に聞く天女ではないかと思った。口元に笑みを浮かべ、まっすぐに儂を見つめている。儂は女子が部屋に入ってきたその時から女子から目を離すことができない。


「さぶろー」

 親父殿の大声が部屋に響いた。

「全くそのように、まなこを見開き、だらしなく口を開けていては、客人が挨拶もできぬわ。しっかりせぬか。」

 ようやく我に返った儂は、威儀を正した。隣の言継卿も姿勢を改めたようだ。どうやら呆然としていたのは儂だけではなかったらしい。


 三人が頭を下げ、すぐに身を起こした。何故か真ん中の男とその左の男の間に「吉法師」が機嫌良く座っている。癇の強い子で不機嫌な顔でいる事が多いし、ましてや初めて会うそれも異国の者のそばに寄るなど珍しいことよ。守り役の五郎左衛門が吉法師の後ろに心配そうに控えているが、機嫌良く座っているのだ。あえてそのままにしておいた。真ん中の背が高い男が話し出した。

「某は発知、左にいるのが某の友で安兵衛、右が妻の富士子です。弾正忠殿ばかりか、この国の尊い身分の方にまで拝謁を賜り恐悦至極です。色々と作法にかけるところもありましょうが、何しろ日の本に参ったのが初めての故、お許し願いたい。」

 そう告げると、また、三人が頭を下げた。

「こちらこそ、息子の命を救ってくれた客人に細かい作法を求める気はない、ましてや異国のものならなおさらよ。儂は親父殿が息子で、織田弾正忠三郎信秀、それにこちらが山科言継卿。そなたの横に座っているのが儂の嫡男の吉法師、後ろに控えているのが吉法師の守り役の平手五郎左衛門政秀、その横にはもう知っているだろうが長男の五三郎だ。しかし、発知とやら、そちだけは日の本の者に見えるが違うのか?」

 「ああ、その辺りのことはワシが語ろう。安兵衛、『せかいちず』と『しめしぼう』を頼む 。それから、せがれ殿、そなた達の後ろの壁を借りるぞ。」

 親父殿がそう言うと、大きな紙を安兵衛から受け取り。安兵衛が一尺足らずの長さで先に白い丸い玉がついた金属の棒と小さな器を持った。二人が仲良く儂と言継卿の後ろに回った。相変わらず親父殿は機嫌がよい、それに確かに親父殿はあまり身分に五月蠅くないが、それにしても濃い茶色の髪と同じ色の見事な髭で筋骨たくましい安兵衛という男とのやりとり、そしてふるまいは昨日あったばかりの仲には見えない。

 親父殿が紙を広げ、その紙を安兵衛の持った器からとった小さなもので壁に止めていく。見事な絵図で大きさにも驚くが、その紙の質にも、絵図の色にも驚かされる。黒だけではなく、赤、茶、青、様々な色が使われている。


 絵図の右端に立った親父殿が、向きを変えて絵図を見ている言継卿と儂に聞いた。

「さて、言継卿にせがれ殿、この絵図が何を描いたものか分かるかな?」

「いや、麿はとんと見当がつかぬの。」

「ふむ、儂もおなじよ。」

「中ほどばかり見ても分からぬか、この右端の辺りはどうかな。」

 親父殿が手に持った棒の先でぐるりと囲うようになぜた。

「あっ、」と言継卿と儂の両方が声をあげた。

「そうよ、ここが日の本、そして、その左上の半島が朝鮮、その先につながるのが明よ。この世には他にも様々な国がある。そしてその分かっているところを描いたのがこの絵図で『せかいちず』と発知達は呼んでいる。」


「さて、まずは発知のことから話そうか。発知の祖父は九州の肥州の左端で五島と呼ばれる島々の生まれで、水軍衆だったそうじゃ。だが親の後を継げる立場になく同じような立場の者や商人と一緒に一旗揚げようとした。そうして明に高く売れると聞いた干し椎茸、干しふかひれなどの俵物、それに真珠の大粒のものなどを積んで船をこぎ出し、苦労して明の『杭州』、この絵図のここへ至った。ここは明の商人の中で、日の本との商いに長けた者たちが多いそうじゃ。発知の祖父達はここで干し椎茸やほかの俵物を売って、絹に変えた。また、真珠は明の商人ではなく、更に西の方からやってきていた者たちに高く売れたそうじゃ。そして、多くの絹を得た祖父達は、行きで壊れかけてしまった舟をあきらめて、今度は明の船に乗って故郷に戻り、持って帰った絹で更に多くの利をあげた。」


「これが今から60年ほど前のことになる。発知の祖父は今では仲間と共に杭州におり、一族となって、店を構えておる。どうかな言継卿、公卿の身に生まれながら京の町に居座ることなくこうして日の本を行脚している御身にしてみれば、感ずるところもあろう。」

「まことに、発知の祖父は見上げた人よ。」

「うむ、だが発知の父は更に遠くに旅した。父は長男で嫡子でありながら、祖父の店を継ぐだけではよしとせず、杭州から南へ150里下って、泉州に至りここから天竺の商人の船に乗り天竺に旅立った。35年前の事だそうだ。」

 親父殿は絵図で杭州、泉州の位置を指し示しながら、一度手元に棒を引いた。棒の先の白いところを引くと一尺足らずの棒が3尺までに伸びた。どういうからくりだとは思ったがそれを聞くより、今は発知の父がどこへ至ったのかが知りたい。

「さて、発知の父がたどり着いたのが、天竺の西にあるここ『でぃーう』という湊だ。だが、父はここで更に『せかい』が広いことを知ったそうだ。」


「ご隠居殿、そこからはおれが話そう。おれの国に関する話が多くなる。」

 親父殿がうなずくと、安兵衛という男が立ち上がった。安兵衛が吉法師に笑いかけると吉法師に話しかけた。

「吉法師殿、儂が話すのを手伝わないか、あの『世界地図』も近くで見ることができるぞ。言継卿も、弾正忠殿もかまわないであろう、どうかな?」

 言継卿と儂がうなずくと、安兵衞が吉法師の手を握り連れ立って親父殿のところへ歩んでいった。

 親父殿が「しめしぼう」を安兵衞に渡そうとしたが、安兵衞は首を振り、吉法師を見た。どうやら吉法師に渡せということらしい。吉法師はそれが嬉しかったのか、その棒を伸ばしたり縮めたりしながら、そのからくりを見つめている。吉法師が何回かそれをしているうちに、儂にはそのからくりが分かった。どうやら金属の管をつなげており、外側から内側に至るほど細くなった管を繋げたものらしい。そうと分かれば納得がいくが、あのなめらかな動きを出すためにはよほどに細工に工夫が必要であろう。


「さて、吉法師殿、おれの国をする前に、聞いてみたいことがある。明の商人は日の本の商人や天竺の商人、そしておれの国の商人に何を商っていると思うかな?」

 吉法師が首をひねっている。そうして自信がなさそうに答えた。

「こめ?」

「うむ、確かに米は日の本では大事なのだろうな。明でも、天竺でも米を食う。だが、明でも天竺でも米がとれる。とれるものを買う必要はなかろう?それにおれの国ではほとんど米は食べぬ。」

 吉法師がうなずいておる。明の国で多く作られ、日の本や天竺で作れないものか、なるほど、商いとは多いものをそれが少ないところに持って行けば高い値が得られ、利が多くなる。理にかなっておるな。

「吉法師殿、言継卿を見てみよ、何を着ているかな?」

 吉法師がうなずいて、答えた。

「絹だ。」

「そうじゃ、明の国では絹が多く作られ、この日の本にも天竺にも売られておる。かの国はそれで大儲けじゃ。そしてその絹はおれの父が生まれた国にも天竺を通して売られておる。」

「さて、明の国の産物は絹として、言継卿に聞きたい。天竺は明やおれの国に何を売っているかご存じかな? ああ、おれの父の国はここだ。」

 そう言って、安兵衞は3尺ほどに伸ばした「しめしぼう」を吉法師に握らせて、「せかいちず」の中程よりも左に立ち、棒の先を明からつながった陸地の左端を指し示させた

「ここがおれの父が生まれた国、『ぽるとがる』だ。医薬に詳しい言継卿には分かるのではないかな?」



参考文献:マルコ・ポーロ『世界の記述』における「ジパング」 成城大学 片山幹生

:wikiより、ポルトガル海上帝國、胡椒、東方見聞録 ディーウ沖の海戦 その他多数


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