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第1章 エピローグ


「召喚は通常の魔法とは異なる。基本的な召喚は、召喚獣のもととなる存在の〈世界録〉を、召喚主についての〈世界録〉に移動させることが必要なのだ」


「なるほどわからん!」

「えーっと、カット&ペーストする感じ?」

「記録?」


 ゴールデンウィークが明けて、2-Aでは授業が始まっていた。

 愛川も、ラスタの帰還を見ていた生徒たちも授業に参加している。

 特務課は忙しくなったようだが、伊賀は変わらず護衛としてラスタに付いている。護衛。いや、監視も兼ねているのだろう。少なくとも、目が届くこの世界では。


 いつもと変わらない授業風景。

 もっとも、ラスタの『魔法』の授業がはじまったのは4月からだが。


 いつもと変わらないクラス、当たり前になった『魔法』の授業。

 変わったことと言えば。


「おっさ……ラスタ先生、俺たちの召喚はどうしたの? 俺たちをラスタ先生の中に入れちゃったわけじゃないんでしょ?」


「言い方言い方ァ!」

「ヒカルは女だけじゃなくてどっちもイケるのか」

「ボ、ボクはその、入れるより入れられ――」

「お前いまナニ言おうとした! こじらせすぎだろ〈男の娘〉!」


 出席番号1番、愛川 光がノリノリで授業に参加するようになったことだろう。

 あと、少なくとも授業中は「ラスタ先生」と呼ぶようになっていた。


「いい質問だ、愛川。先ほど『基本的な召喚』と言ったが、そうでない召喚もある。私が〈異世界〉でやったように、別の世界にいた君たちを喚ぶのも召喚の一つだ」


「はあ。んじゃゴブリエルは普通の召喚で、俺たちは普通じゃない召喚だったと」


「そういうことだ。ほかにも精霊など、通常は別の世界、あるいは重なった世界で暮らす存在を喚び出すのも召喚だな。こちらは『精霊召喚』と呼ばれることもある」


「ふーん。……あれ? 俺たちや精霊は別の世界から。んじゃ基本の、ゴブリエルを喚んだ召喚はどこから喚んでるの?」


「召喚主からだ。正確には、召喚主の〈世界録〉に移動された記録からだ」


 ラスタの説明に首を傾げる生徒も多い。

 理解できなかったのはだいたい近接系の職業(クラス)である。あと美咲先生。


「……え? ラスタ先生、それって」


「別の世界に存在する者を喚び出す場合は、界を繋げる召喚。すでに()()()()()()()()の者を喚び出す場合は、召喚主を通じて〈世界録〉の記録をマナで再構築する召喚となる。基本の召喚は後者だ」


「ラスタ先生、じゃあゴブリエルは、生きてるんじゃなくて」


「記録しか、なかった。だが私は、常時召喚できるマナを身につけた。私を通じて、あちらの〈世界録〉にゴブリエルの記録を自動更新するよう魔法を組んである。だから……いまのゴブリエルは、生きているのと変わらない」


「それであの別れのシーンか……」


 愛川、〈異世界〉でラスタとゴブリエルが交わした言葉の意味をようやく理解したらしい。


 基本的には召喚獣は生きていない。

 ただ記録として召喚主に刻まれているだけだ。

 召喚主は、マナを使って記録を形にするだけ。


 だが。

 もしも常時召喚できるならば。

 常時召喚された召喚獣の記録が、常に〈世界録〉に刻まれるならば。

 それは、生きているといえるのかもしれない。


 まあ愛川以外のほとんどが首をひねって、あまり理解していない、もしくは興味がないようだが。

 ラスタもそれ以上説明しようとしないあたり、『魔法』の授業として大事なポイントではないのだろう。

 きっとこれは、特殊なケースだったろうから。


 教室にチャイムが鳴り響く。


「脱線したな。次回はきちんと『魔法』の授業を進めよう」


 トントンと手書きのプリントを揃えるラスタ。

 生徒たちと礼を交わし、教室から出ていこうとして。


「あ、そうだ、ラスタ先生!」


 愛川から呼び止められた。


「どうした愛川。姫様と侍女がまた何か忘れたか?」


「ははっ、それは大丈夫だって! まあ二人の話なんだけど、いちおう先生にも報告をって思って」


「ほう?」


 初日に注意されて以来、愛川が姫様と侍女のニーナちゃんを学校に連れてくることはない。

 二人は特務課が護衛について、大人しく日々を過ごしているらしい。


「この前、三人でデートに行ったら、姫様とニーナちゃんがスカウトされちゃって!」

「すかうと」

「二人ともかわいいからね! それで、アイドルやることになったんだ!」

「あいどる」

「まあいろいろレッスン受けてかららしいけど!」

「れっすん」

「意外だったんだけど、特務課の人も護衛つけてくれるって言うしさー」


 チラッと伊賀に目を向けるラスタ。

 伊賀はサムズアップを返す。ノリノリか。

 二人は特務課が護衛についても、大人しく日々を過ごしていなかったらしい。


「そんで異世界出身の姫様と侍女って、そのままいくんだってさ!」


「それはまあ、その通りなわけだが……伊賀さん、大丈夫なんですか? 〈異世界〉については秘密なのでは?」


「なあに、心配いりませんよラスタ先生。日本にはいろいろな星出身のアイドルがいますから」

「いろいろなほし」

「ですからちょっと変わったアイドルで、またこういう設定かと思われるだけです。信じる人はいないでしょう。それに」


「それに?」


「いつか来る日のために、こういう形で情報を出すのもいいかもしれません」


「はあ。まあ、姫様とニーナちゃんが安全ならばいいですが」


「なーに言ってんだおっさん! 俺、気付いたんだぞ! 姫様もニーナちゃんも〈二つの世界録〉に記録されてるって!」


 そう、この世界に来たのはラスタだけではない。

 ラスタの理論でいけば、姫様も侍女も獣人もエルフも魔物っ娘も強化されているはずだ。


「なあおっさん、二人の職業(クラス)はなんだったの? あ、そのへんの『魔法』も授業でやる?」


「……おいおいな」


 めんどくさそうに歩き出すラスタ。

 愛川はいまのところ、これ以上問い詰めるつもりはないらしい。

 軽く手を振って見送られ、ラスタは廊下に出る。


「ラスタ先生、いまの話って!」


「美咲先生も姫様とニーナちゃんの職業(クラス)が気になりますか?」


「お姫様も侍女さんもアイドルってすごいですね!」


「そっちですか……」



 ゴールデンウィーク明けの学校、いつもと変わらない風景。

 変わったことと言えば。


 2-A、出席番号1番、愛川光。

 一緒にこの世界に連れてきた姫様も侍女も。


 悩みは、解決したようだ。


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