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手紙

~手紙~

 こうならないように頑張っていたのに、でも、どうしてこうなってしまうのだろう。

 そんなよくわからないことを思ってしまった。でも、人生というものは思ったとしてもやり直すことなんてできない。

 それがわかっているからこそ、後悔をするのかな。でも、悔やんでもこれからどうしていいのかもわからない。

 私はそうタバコを吸いながら空を見上げた。思えばあの頃は楽しかったのかもしれない。


 高校生。まだ世間をそこまで知らず、でも、知った気になっていた時代だ。私は周りがスカートを短くしているから自分もスカートを短くして、昨日見たテレビの話しをして楽しんでいた。

「でも、幸子ってすぐ帰るよね」

「うん、バイトしているからね」

 私の家は母子家庭だ。母親は何をしているのかよくわからない。昼間はパートに出かけて夜はスナックで働いているらしい。基本的に顔を合わす時間は数分だけだ。

 だから自分のことは自分でしなきゃいけない。この高校を選んだのは公立であることと、バイトが許されているということだ。

 学校で話す友達はいる。お昼だって一緒に食べる仲間がいる。でも、放課後、私はバイトだ。バイトを掛け持ちしている。

 コンビニとカラオケのバイト。カラオケでバイトをしてわかったことはフードがすべてレンジで温めるものなのだと知ったことだ。

 まあ、そのほうが衛生的なのだと思う。いつだって人手不足だ。だからお皿とかも適当に洗っている。これで調理をしていたら死人が出る。

 そう、思っていた。内線がなる。ドリンクの追加だ。氷を入れてリキュールとジュースを入れて一回だけかき混ぜる。それ以上する時間がないのだ。人がいない。いつも追い立てられる。

 そんな中私は出会ったのだ。幸弘に。

 同じバイトの幸弘。高校生らしいが高校は違う。私立なのだ。なんでバイトしているのか聞いたら「ギター買うため」と言われた。

 私立に行けるだけ金があるのなら、親に出してもらえばいいじゃんって言ったら、幸弘は「それはロックじゃない」って意味不明なことを言ってきた。

 幸弘と仲良くなったのはもう一つ名前に「幸」の文字があるからだ。幸弘が言う。

「子供に幸せになってくれって願いらしいけど、重いわ。それに幸せを思うのなら息子がやりたいことを否定するなっていうの」

 幸弘はバンドを組んでいるらしい。だから髪を伸ばして染めている。今は何かよくわからないイギリスのバンドのカバーをしているとか言っていた。私は曲を聞かないからまったくわからない。

「俺は絶対有名になる」

 そう幸弘は言っていた。とりあえず、ギターを買ってから叫べと言った。


 けれど、気が付いたらその幸弘といることが増えた。まあ、実際バイトが終わって廃棄品を食べている私を見て「めしでも食いに行くか」と言われて「おごりなら」と言ったら普通に「いいよ」と言われたからだ。

 そうこうしているうちに私は幸弘とつきあうようになった。まあ、お金を払うのは私じゃない、いつも幸弘だ。聞くと「こういう時男が出すのがロックだろ」と言った。

 いまだに私にはこの幸弘が言う「ロック」の意味はわからない。けれど、まあ、自分のご飯を作らなくていいのは助かった。

 どうせお母さんは勝手にどこかで何かを食べている。朝は二日酔いで頭が痛いと言いながらパートに行くし、しかもパートはスーパーだ。

 まあ、ここらは田舎だから何もない。だからこそ働ける場所なんて限られているらしい。実際、私のお母さんがスナックで働いていることは学校の友達も知っている。

 そこには顔を出しに行かない。一度いやな思いをしたからだ。あれは中学校の時。酔ったおっさんが私に抱きついてキスをしてきたのだ。首をまわして唇は死守したけれど、酒臭い息が首筋にかかった。

 それが、同級生の父親だと知った時になんて言っていいのかわからなかった。そう、友達の家に日曜日に遊びに行ったら顔を合わしたのだ。気まずかった。

 だから私は私の道を進むって決めたのだ。

 ただ、道って思っていたものと違うのだと知った。私は父親を知らない。聞いた話しだと生まれる時には父親はどこかに逃げたということだ。写真も見たことはないがお母さんが言うには私はその父親に似ているらしい。

 実際私はお母さんに似ていない。確かに男装したら映えそうと言われる。目鼻立ちがはっきりしているのだ。だから私は髪を伸ばしている。髪を短くしたら男子に思われるらしい。実際なぜかバレンタインの時に女子からチョコをもらったことはある。

 自分でチョコを買わなかったから純粋にうれしかった。お返しはしなかったが文句も言われたことはない。

 そういえば、一緒にお昼を食べる佑香も私にチョコをくれたな。あの子はなぜか私にいつもくっつきたがる。不思議な子だ。でも、私が甘いものを好きと言ったらいつも何かをくれる。親友なのかな。

 まあ、そんなだから好きになるのは男らしい人だろうと思っていた。まあ、実際酒臭いあの匂いを嗅いでから男なんてと思っていたはずだ。

 だから、幸弘と付き合った時、こんな赤い髪に不健康な白い肌をして細い体の、でも筋肉はついているのだが、男を好きになるなんて思ってもみなかった。

 幸弘の裸を見た時に思った。私より細いんじゃないのって。もっと食べてよ、がりがりだよって言ったら「細いのがロックだ」とまた意味のわからないことを言われた。

 そんな幸弘も念願のギターを手に入れ、学園祭でライブをするから来てくれと言われた。

 私は一人で行くのが不安だったから、佑香を誘った。誘ったら顔を真っ赤にして「行く、絶対に行くから」と言ってくれた。そんなに他校の学園祭に行きたかったのかと思った。いいことをしたと思った。

 学園祭のライブは曲を聞かない私でも下手だとわかった。佑香が言うにはボーカルが最低とのことだ。とりあえず、幸弘でなかったことが良かったと思った。

 学園祭の間中、私の横にはつねに佑香が居た。私は背が平均より高く、佑香は平均より低い。だから私の腕に佑香が絡みついていた。

 幸弘は、ライブ前は集中したいとのことで、ライブが終わってからは反省会をするということだった。

 なので、軽く挨拶をしてそのまま去って行った。幸弘もそれでいいらしい。とりあえず、ライブのほかは用事がないため、1周してから家に帰った。

 学園祭が終わり、クリスマスを幸弘と一緒に過ごした。多分、その日だ。私の運命の分岐点は。

 避妊なんてことは気にしていなかった。つけてと幸弘に言ったら「つけるのはロックじゃない」と言われた。いやだったけれど、こう言い出したら幸弘は聞かない。私よりロックがいつも上だ。

 それからしばらく何も気にしてなかったけれど、生理がこなかったのだ。妊娠検査薬を何度も試した。大丈夫だった。けれど、不安だから毎週続けていたらある日いつもと違う結果になった。

 安心をしたかったはずなのに、この結果を見た時に私は愕然とした。幸弘に言ったら「責任を取るのがロッカーだ」と次はロックじゃなくロッカーになった。

 そう言われると思っていなかった。私は久しぶりにお母さんと話しをしようと決めた。スナックに行く前に話しかけた。パートから帰ってきて、紫のよくわからない変なスーツに着替える時に「私、妊娠した」と伝えた。お母さんは一瞬固まって、次に言ったセリフは「おろしなさい」だった。

 はじめ意味がわからなかった。

「産みたいの」

 私はそう言った。次にこうも言った。

「お母さんだって、私を高校生の時に妊娠したんだよね。だったらわかるでしょ」

 そうだ。私はお母さんと同じ道をたどっている。お母さんが言う。

「だからよ。どれだけ大変だと思っているの」

「大丈夫、私はお母さんと違う。彼氏だってちゃんと責任取るって言ってくれている」

 そう言うとお母さんはこう言ってきた。

「なら、その彼氏におろす費用を持ってもらうのね」

 そう言ってお母さんはスナックに行った。何それ、会話になってないし。マジでむかついたから絶対に産んでやろうって思った。それを幸弘に言ったら「ロックだね」って言われた。

 なんかちょっとだけ「ロック」がわかった気がする。

 でも、この時まだ知らなかった。幸弘はまだ親に妊娠のことも、いや、私という存在がいることも話していなかったのだ。

 今から思うとこの数か月が本当につらかった。つわりなのかものすごく吐くし、体調わるいからバイトにも行けなくて、でも、長く続けていたからそこまで怒られなかったけれど、でも、幸弘からはぐちぐち言われた。

 なんでわかってくれないのって思ったら、「そこで優しくするのはロックじゃない」とか意味不明なことを言われた。やっぱり私は「ロック」がわからなかった。

 お腹が目立ってきたあたりでお母さんがマジ切れをした。そして、幸弘を紹介しろと言ってきた。

 そう、この時に私は幸弘が親に何も言っていないことを知ったのだ。

「ねえ、幸弘。どうして親に言ってないの?どうするつもりなの?」

「考えているから、待てよ」

 なんだかそんなことを言われた。でも、私の身体は待ってくれない。お腹はどんどん大きくなるし、学校にもこのままだと行けそうにない。というか、ずっと休んでいる。バイト先にも行けなくて、結局辞めることになった。今まで何もしてくれなかったお母さんがすごく動き回った。

「今からあいつの家に行くから一緒に用意しなさい」

 あれだけずっと行っていたスナックを休んでまで私を連れて幸弘の家に一緒に行ったのだ。幸弘がいつもと違って小さくなっていた。

 すでにおろすことができなくない時期まで来ていたので「お金」で解決となった。意味がわからないのは「もう幸弘と会わないで」という条件も出されたのだ。

 ねえ、そこで小さくなって下を向いているのもロックなの?

 そう、聞いてみたかった。聞けなかったけど。そう思って諦めていた。子供が産まれた時には学校も中退という扱いになっていた。

 学生が妊娠することが問題だということで自主退学ということになったのだ。よくわからない理由だ。

 あれだけ慕ってくれていた子は去って行った。異分子扱いだったみたい。でも、不思議と佑香だけは見舞いに来てくれた。あの子はマジで神だと思った。

「私はずっと幸子の味方だから」

 そのセリフがうれしかった。子供が、若菜が大きくなってからこっそり幸弘が会いに来た。髪が黒かった。そして短かった。髪がかわるだけでこんなに人って変わるのだと思った。かっこいいと思っていたはずなのに、ただのそこいらにいる男子になっていた。幸弘が言う。

「ごめんな。俺にはロックが守れなかった」

 意味不明な謝罪をされた。でも、最後にこう言われた。

「もし、こんな俺でもよかった一緒に東京に行かないか?やっぱり俺夢を諦めきれないんだ。東京に行けばなんとかなるはずだ。俺はそう信じている」

 でも、若菜のことがある。

「私には若菜がいる。この子を捨てて行けない。この子を連れて行くけれど大丈夫なの?」

「俺が養ってやる。それくらいできるさ」

 その根拠はわからなかったけれど、私はなぜかそのまま東京に行ってしまった。

 結果は幸弘の両親がやってきてお金だけを置いて去って行った。

「この子の未来を奪わないで」

 意味がわからなかった。でも、私は東京に出る時お母さんと大喧嘩をしたのだ。戻れない。だから私は一人で、東京で生きていくと決めたんだ。


母一人、娘一人。若菜には苦労をかけないようにと思って私は一生懸命働いていた。

といっても、若菜も小さかった。預かってくれる先を探して働きに出た。といっても、何もできない私が選んだのは水商売だった。キャバクラで働く。

あれだけ嫌っていたお母さんと似たような道をたどっている。佑香が助けにも来てくれた。佑香は短大に合格していたはずなのに、翌年には東京の大学を受け直したといって何度か遊びにきてくれた。

といっても、大半は若菜のめんどうを見てもらっていたのだ。本当に佑香には頭があがらない。でも、いつまでもこんな生活はしていられない。それに佑香も小学生になったらまた状況がかわってくる。

そのため、私はキャバクラをやめて生保レディーになった。

まあ、元々キャバクラで働いていたからおっさんどもを手玉にとって契約を取ることはそこまで難しくなかった。けれど、昼も夜も働いていたヘルパーやキャバクラ時代の後輩がたまに面倒をみてくれていたから、まあ、お金は払ったけど、なんとかうまく行っていると思っていた。佑香はもっとめんどうをみるよって言ってくれたけれど、あまり佑香にばかり負担もかけられない。

そんな生活が何年も続いた。

けれど、気が付いたら娘と私は会話らしい会話をしなくなっていた。そして私はいつも怒っていた。あの頃いやがっていたお母さんみたいになっていた。

でも、それは仕方がないことでしょう。私みたいになってほしくないから怒るのだ。変な男と付き合うなといっても、若菜は髪をそめたちゃらちゃらした男とばかり付き合っていた。

まあ、実際若菜の父親はそんな感じのちゃらちゃらした男だった。都合のいいことだけ言って、夢だけ大きく語る。そんな男を若菜はいつも紹介してくる。

今度の私の彼氏って。

あいつはダメ。絶対に若菜を不幸にさせる。私が若菜を守ってやる。そうやって息巻いていた。でも、高校時代に若菜は妊娠をした。まるでデジャブだ。

私は同じようにならないように頑張ってきたはずなのに、若菜は家を出て行った。その時私は若菜を突き放しはしなかった。いや、突き放せなかった。

だって、今の私はずっと頑張って来られたのは若菜が居たからだ。その若菜がいきなりいなくなったのだ。つらい。いや、目標がなくなった。

気が付いたら若菜の携帯はつながらなくなっていた。こまめに連絡をしていたはずなのに、解約をされたみたいだ。

どこで何をしているのかわからない。私は途方に暮れた。いつか若菜が私を頼ってくれるかもしれない。

そんな思いで私は働いた。いや、そうでも思わないと壊れそうだからだ。

「幸子、無理したら体壊すよ。ちょっとは息抜きしたほうがいいんじゃない?」

 そう佑香からメールが来た。佑香は東京でそのまま働いている。確か新宿で働いていると言っていたはずだ。

 たまにはいいかな。若菜がいなくなってから私は夜働くのをやめた。もう限界だった。

 そう、思って私は久しぶりに自分のために飲もうって決めた。

「佑香、じゃあ飲みに行こう」

 返事はすぐに来たのだ。一度家に帰ろうと思った。丁度家の近くのお客さんの所をまわっていたので、着替えて行こうと思った。こんな戦闘モードなスーツで飲みたくない。ラフなカッコで飲みたいのだ。

ただ、予定よりちょっと帰りが遅くなった。あのお客さんはいい人なのだけれど話しが長いのだ。しかも昔の自慢話しばっかりしてくる。それを笑顔で聞き流す。そういうスキルばかり身についた。

家に帰ると郵便受けに何か色々入っていたのに気が付いた。そう言えば、そろそろ公共料金の支払いがあるから確認しないと。私はそこに入っていたものを無造作にカバンに詰め込んで、もう一度駅に向かった。

向かう先は新宿。久しぶりの新宿だ。そう、私が東京に出てはじめに働いた場所。歌舞伎町がある場所だ。もう何年も経っている。その場所に行くのか。私はちょっとだけ不思議な気持ちになった。




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