どっちの順番
~どっちの順番~
腐れ縁という言葉がある。俺にはそれに似合う相手が一人いる。
同じ会社にいる同期。だが、実は大学も高校も中学も小学校までも同じなのだ。
しかも住んでいる場所も家の隣同士。
幼馴染というやつだ。
だが、ここまで一緒になることなんでそうそうない。
しかも職場でも席が隣なのだ。笑ってしまうだろう。
その相手は「大東元也」という。そして俺の名前が「小西裕也」なのだ。
体系も大東はどちらかというと背が高くガタイがいい。俺はすこしばっかり背が低く細い。名は体を表すというやつだ。
普通ここまで一緒だと仲がいいと思われがちだが実はそうでもないのだ。二人とも意見がぶつかり合うことが多い。
だが、毎度ケンカをしてばかりもいられない。だって、どこまで行っても一緒にいることが多いのだからだ。
恋人ができたって、その恋人よりも俺は大東のことをわかっているし、大東にしたってそうだ。
長く居るという事は仲良くなるということではなく理解ができるという事なのだ。
だからこそ、実はお互いにルールを決めている。意見がぶつかったら順番を決めて譲り合うという事だ。
日が変わるとリセットをする。そして譲り合うのだ。そのタイミングはぶつかりあった時。お互いがそこで目くばせをして笑うのだ。
まあ、この様子を見ている周りから仲がいいと思われるのだが、これには理由があるのだ。
一度高校生の時だったかな。ものすごくケンカをしたのだ。それこそもう殴り合いの。普通体格のいい大東が有利と思うだろう。うん、その通りだ。体が大きい方が勝つに決まっている。
ああ、あっさり負けましたよ。んが、どうしても譲れない。そこで話したのがこの譲り合いというルール。
あのケンカ以来、次の日最初のぶつかりは大東が折れる。次にぶつかったら俺が折れる。そういうルールなのだ。
これを続けていたらケンカがなくなったのだ。それになんとなくわかる。これだけ長く居ると合わない部分がわかるのだ。
今は夏。8月になったばかり。盆もまだ来ていないから暑くてしょうがない。それは俺も認める。だが、大東はちょっとデブというか身長も180センチあり、体重も100キロを超えている。上にも横にもでかいのだ。だからオフィスの空調をいつも下げたがる。
だが、あまり温度を下げると女性からブーイングが来るのだ。女性は冷え性なのだ。
といっても、俺も大東も営業だから外回りをしている。この暑い中得意先を回って、新規開拓をして汗を流している。移動は電車だ。中には駅から訪問先が遠いところもある。なんであんな場所にビルがあるのだと言いたい。だが、それはたまに訪問する俺より働いている人が一番思っているだろう。
そして、仕事をしながら大東とラインをする。仕事の成果を報告しあうのだ。
仲がいいわけじゃない。競い合っているのだ。いつだってそう。
学生の時はテストの成績で競い合っていた。受験も気が付いたら同じ場所になってしまう。そりゃ学力が同じなのだから仕方がない。
同じ相手に恋をして、同時に玉砕したことだってある。抜け駆けはなし、一発勝負。ということで同時に告白をしたのだ。
その二人を見て言われたのが「これはネタなの?二人の競い合いに巻き込まないで」だった。
まあ、そのセリフを言われてケンカをしたのだ。そして、俺は負けた。だが、勝った方も何も賞品がないことに気が付いたらしい。
戦っている間に賞品だと思っていた彼女がいつのまにかいなくなっていたのだ。
「勝利とはむなしいものだ」
というセリフを俺が動けなくなった後に大東が言ったのを覚えている。
それからは競い合うがケンカをしない二人になった。いつでもライバル。はまったアニメやゲームは同じなのだ。そして、恋に落ちる相手も一緒。だが、選ばれることがないという。おかげで彼女いない歴を二人で更新をしている。
どっちが先に彼女を作るかは競い合いの項目に入っているがお互い見ないことにしようと決めたのだ。
一度これはいけると思った女性に二人いっぺんに告白をしてこう言われたことがある。
「だって、私あなたたち二人の仲より深い仲になれる自信ないもの」
いや、俺たちの仲は深いわけじゃない。後、何度か間違われるのは俺たち二人が付き合っていると思われていることだ。
まあ、休みに二人で温泉に行くことはある。趣味があうから映画も二人で見に行く。だが、それはデートではなく、趣味があうからであって付き合っているわけじゃない。
女の子友達に言われたことがある。
「じゃあ、もし彼女が出来たら何をしたいの?」
そう言われて答えたのがこれだ。
「そりゃ、おいしいと言われて店でご飯を食べたり、映画を見に行ったり、小旅行をしたりするんじゃないの?」
そう言ったらこう言われたんだ。
「それって大東くんとすべてやっていない?」
言われて思った。全てやっているのだ。いや、それは趣味が合うし、一人で行っても面白くないからだ。
映画なんかは一人で見に行くより誰かと行った方がその後語れるではないか。そうなると身近に話しが合うやつがいるとそいつと行ってしまう。たまたまそれが大東なだけだ。
それに俺は大東みたいのじゃなく、かわいい女の子が好きなのだ。そう、強いてあげるのならば、この会社で営業事務をしている森ノ宮さんだ。
森ノ宮さんはメガネをかけて理知的なのだ。クールで少しきつく思われがちだがそれがいい。あの少しきつそうな目、きりっとした顔立ち。きれいな顔立ちだが、どちらかというと男性顔なのだ。
男装したら映えるだろう。もちろん、それは女性としてきれいな顔立ちだからだ。そういうことを飲みながら大東に話したら激しく同意された。そして、わかったことがある。二人とも森ノ宮さんに惹かれているのだ。
不思議と大東とは女性の趣味も同じなのだ。そして、不思議なことに森ノ宮さんは俺たち二人ともと仲良くしてくれている。
ここ最近はよく3人でご飯に行くようになった。そして、今日も暑気払いで飲みに行くのだ。
今回行く店は中華だ。店を選んだのは大東だ。そういえば、その前は俺が選んだ和食の店だ。こうやって順番にしている。楽しみだ。大東は一体どう思っているんだろう。3人で飲みに行くこと。いや、森ノ宮さんのことを。それとこれからのことを。ふとそう思った。
~another side~
僕にはライバルがいる。いつも抜けない。でも、相手は対等と思っている。唯一勝てたのは高校時代に力任せに戦った時だけだ。
だが、何も得るものはなかった。むなしいだけだった。勝ったと思えることというのは、ちゃんと対等な状況なのか、相手が得意なフィールドで戦って勝たないと勝ったと思えないんだとわかった。そうじゃないとうれしくない。
だからそれから勉強を頑張った。けれど、いつも小西が1位で僕が2位だった。僅差だとみんなはいう。すごいと言う。けれど、振り返ると小学校の時からずっとこの1位と2位の壁がぶち破れないのだ。
僅差ってどういう意味なのだろう。手を伸ばしたら届きそうな差だとするのならば、僕と小西との差は僅差なんていうものではない。
遥か遠いのだ。数字だと1と2だが遠いのだ。ふと気を緩めるとすぐに突き放される。そういう恐怖がいつもあるのだ。だが、横で見ていると小西はさらっと飛び越えていくのだ。こっちの努力をあざ笑うかのようにだ。けれど、悔しいと思えなくなった。そういうものだと思うようになったのだ。
それにぶつかり合ったら、譲り合うルールにしたのも助かっている。それがプライドを助けてくれているのだ。
と言っても、そんな誇れるプライドでも、しがみつかないといけないプライドでもない。ただ、わかっていることがある。僕は小西とセットだからツートップだと思ってもらえる。
これが、小西がいなくなると僕は僕としての存在意義がなくなるのだろう。そう、思ってしまう。
だから一緒にいるのだ。
そして、もう一つ安心できるのだ。だって僕は小西を追いかけていればいいのだ。目指す目標がある。その中で自分の思いをぶつけて行けばいいのだ。
ちょうどラインが小西から来た。
「ようやく契約が取れそう」
「おめでとう。こっちも頑張るよ。多分契約になる」
こういう連絡がすごく助かる。考えていないわけじゃない。でも楽なのだ。だからこそ高校も同じ、大学も同じ、就職先も同じにした。
だが、恋愛だけは違う。いや、趣味、映画や曲やお笑いなんかは自分の好きなものを選んだはずなのに、似たようなものになっていた。だが、恋愛だけは実は違う。
趣味に関しては相性がいいのだろう。
ただ、恋愛は違っている。いたはずだ。
高校の時だったか、いや、それ以降で女子の噂の中で小西と付き合っていると言われることがある。はじめ聞いた時は困った。
まあ、小西は体も僕と違って小さいし、女の子に見えないわけでもない。というか、女の子にしか見えない。これもまた問題なのだ。そう、僕にとっては。
そう、小西は見た目はすごくかわいいのだ。そこらの女の子よりかわいい。だが、男だ。だから手をつなぐとかはない。抱きしめたりもしない。したくなったとしてもしない。
ただ、二人で出かけることはほぼ毎週末行っている。ただ、デートではない。ただ友達と出かけるだけだ。映画を見たり、カラオケにいったり、おいしいものを食べに行ったり、花火をみたりもした。
何度も言う。デートではない。ただ、小西の私服は男か女かわからないかっこをして毎回くるのだ。わざとなのかもしれないと思うことはある。
あれはわからない。一体僕をどうしたいのだと思ってしまう。一線を越えさせたいのか。待っているのか。
だが、話すと男なのだ。見た目は女の子に見えるのだ。だから勘違いをしてしまう。ただ、気が付くと小西に彼女ができないようしないといけないと思ってしまう。
告白をする時は絶対に一緒にする。けれど、実は先に女の子には話しをしておくのだ。そう、こう言うと確実なんだ。
「実は僕たち付き合っているんだ」
このセリフの後に告白をすると大抵こう言って終わるのだ。
「これはネタなの?二人の競い合いに巻き込まないで」
ただ、ここ最近悩みがある。そう。会社で出会った森ノ宮さんなのだ。
彼女は3人で話していることを楽しんでいる。それがわかるのだ。多分彼女に「実は僕たち付き合っているんだ」と言っても「そうなんだ」で終わらされそうだ。そう。森ノ宮さんはこの嘘が通じない。それくらい僕らに溶け込んでいるのだ。
ならばいっそう3人で付き合えたらいいのに。でも、不思議と森ノ宮さんと小西だったら、小西が女の子役に思えてしまう。
そんなことを考えていたら今日の業務が終了してしまった。
今日は暑気払いだ。といっても飲みに行くのは小西と森ノ宮さんと3人でだ。最近ずっとこの組み合わせになっている。
僕が行かないと小西と森ノ宮さんの2人になってしまう。もし、そうなってしまったら小西がもう僕と出かけてくれなくなるかもしれない。
それだったら3人ででかける方がいい。いや、小西は男だ。それを忘れてはいけない。
だが、もうずっと二人でいるのだ。そこいらのカップルより濃厚な付き合いだし、だれよりも小西のことをわかっている。
まだ店に行くのは早い。そう思っていたら小西が僕の肩をたたいてきた。どうやらここで話すのは都合がわるいらしい。僕も小西もタバコを吸わない。だから喫煙室に逃げることはできない。
この会社が入っているビルには展望台がある。展望台までエレベーターであがってみる。いつもと違った景色が見える。
池袋の街。そういえば、池袋は小西と色んな場所に行った。サンシャイン水族館にも行った。新しい店がオープンしたと聞いたら一度は行くし、映画もよく見に行っている。
展望台はいい。空調も聞いているからだ。小西が手すりに腰かけながらこっちを見てくる。大丈夫。平日の小西はスーツを着ている。いくら顔が女顔だからと言って、いくら体が華奢だからと言っても男性に見える。うん、見える。はず。そう思っていたら小西が話してきた。
「なあ、大東は森ノ宮のことをどう思っているんだ?」
少し頬を赤らめながら話す小西。この表情は危険だ。恋に落ちている。だが、僕も困っている。僕も森ノ宮さんと話していてすごく自然に話せるのだ。良い子だと思う。話しも合う。だが、どうしても比較をしてしまう。小西以上にわかりあえる相手がいるとは思えない。
「ああ、良い人だと思うよ。ただ、もう学生の時とは違うんだ。ダメでもいいって感じだと後が大変だからな」
「そうだな。そうだよな」
小西はそう言う。実際森ノ宮さんはどうして僕らと一緒に飲みに行きたがるのかがわからない。ひょっとしたら小西のことを好きなんじゃないかと思う時もあるが、いつも僕ら二人に声をかける。謎だ。
「じゃあ、今日の飲み会で告白じゃなく森ノ宮さんに僕らのことをどう思っているか聞いてみるのはどうか?お酒を飲ませて」
そう言うと小西はいい表情になった。
「それいいね。大東が聞いてくれるんだよね。順番だろう」
まあ、自分から言い出したことだから仕方がない。でも、順番?そうだったか?これって意見のぶつかり合いなのだろうか。まあ、いい。小西がそう思っているのなら順番か。
順番でつきあうってできたらまた違うのだろうけれど。少し想像してみる。
今日は森ノ宮さんと小西、明日は森ノ宮さんと僕。そして、次の日は僕と小西。
このローテーション。それはそれで面白いかもしれない。だが、どうなのだ。それって初めはいいかもしれないがどちらかが選ばれなくなる気がしてならない。
そうなると負けず嫌いで、頑張り屋の小西は勝ち取るのだろう。いつも何かを勝ち取るのは小西だ。それが1位と2位の差だ。
営業成績だってどう頑張っても小西には勝てない。でも、いつも二人一組だ。僕一人だと目標を失ってしまう。
やはり順番では無理だ。このままがいい。でも、切り出した結果があんなことになるなんて想像もしていなかった。