第85話:夜の倉庫街にて
攫われた桜崎さんを追って走っていると、夜の倉庫街に到着した。
海辺の倉庫街には人影もなく、暗い街灯だけが地面を照らして怪しい雰囲気を放っていた。
「へっ、追って来やがったな馬鹿め。罠とも知らずによぉ」
「囲まれた!?」
桜崎さんの隣に立っていた父親が振り向くと、倉庫の陰から柄の悪い男たちがゾロゾロと現れる。
あっというまに僕たちは囲まれ、桜崎さんとの間にはさらに距離ができてしまった。
「時雨君!」
「動かないで桜崎さん! 今助けるから!」
心配そうに叫ぶ桜崎さんへ声をかけ、そこから動かないようお願いする。下手に動くと怪我をするかもしれない。やっぱり僕たちが一刻も早く助けなければ。
「へへへ、この人数をどうにかできるかよ」
ニヤニヤと笑う父親は四面楚歌の状態となった僕たちを嘲笑する。
きな子姉ちゃんは口をωの形にしながら頭の後ろで手を組んだ。
「ありゃ、囲まれちゃったねえ」
「呑気にしないで姉さん。あの子はまだ捕まってるんだから」
能天気に言葉を紡ぐきな子姉ちゃんに対しツッコミを入れる刹那姉ちゃん。きな子姉ちゃんは本当にブレないな。
「それにしても多いでござるな」
「うん。あずき、下がってて」
「だいじょうぶでござるよ信どの! 拙者も桜崎どのを助けるでござる!」
僕の言葉を受けたあずきは、両手をおーっと空に突き上げながら返事を返す。
そんなあずきの様子に僕が微笑んでいると、チンピラの一人が怒号を響かせた。
「おいおいてめえら随分余裕だなぁ! 状況わかってんのか!?」
「いーからさぁ、女はもう連れてっちまおうぜ。男はボコって捨てとけ」
吐き捨てるように言葉を落とした父親。その言葉を聞いた桜崎さんは懸命に叫んだ。
「!? みんな、逃げて! お父さんやめて!」
「もう遅いんだよ。馬鹿な友達を持ったなぁ」
父親は下種な笑いを浮かべ、チンピラに指示を出す。
指示を聞いたチンピラは次第に僕たちへと近づいてきた。
「いやああああああ!」
動揺して声を荒げる桜崎さん。最初に近づいてきたチンピラの手が刹那姉ちゃんの腕を掴んだ。
「へへ、とりあえずお前こっちこいよ」
「はぁ……せい!」
「あぐっ!?」
刹那姉ちゃんは大きなため息を落とした後、体をねじってチンピラの腹部にボディブローを打ち込む。
崩れ落ちるチンピラの姿を見た桜崎さんと父親は驚きで目を見開いた。
「えっ!?」
「はは、おいおい。女のパンチだぞ? ……おい」
「あっ。が……」
父親は汗を流しながら倒れたチンピラに声をかけるが、チンピラは呼吸もままならない様子で動かない。
その姿を見た刹那姉ちゃんはぽりぽりと頬をかいた。
「まずい。力を込めすぎたかも」
「駄目だよーせっちゃん。きちんと手加減しないと」
「そうね」
「て、抵抗するんじゃねえ! おい! さっさと捕まえろ!」
チンピラの一人が叫び、その声に応えた複数の男たちがきな子姉ちゃんへと手を伸ばす。
きな子姉ちゃんは残像だけを残して伸ばされた手を回避した。
「おっとあぶない。反撃のきな子パーンチ……」
「姉さんだめ! 死んじゃう!」
「っとと。じゃあデコピン」
「あぎゃああああああああああ!?」
きな子姉ちゃんのデコピンを受けたチンピラは倉庫を突き抜けて吹っ飛び、数十メートル先の海に落下する。
その様子を目の当たりにした父親はカチカチを歯を鳴らした。
「ひっ。な、なんだよ。なんなんだよぉ……!」
「ど、どうなってるの?」
桜崎さんは困惑した様子で吹っ飛んだチンピラときな子姉ちゃんを交互に見る。
僕はどうやって桜崎さんを助けようか思案を巡らせ、自身を落ち着かせるように呼吸を整えた。




